(ワシントンDC)―ドナルド・トランプ米国次期大統領は、米国のかなめとなる人権上の義務の多くを否認するかのような選挙戦での話術を放棄し、内外の政策課題の中心に人権を据えるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。選挙結果の公式発表によれば、トランプ氏は当選に必要な選挙人を獲得した。
「当選が確定した以上、次期大統領トランプ氏はメディアを騒がすヘイトに満ちた物言いを止め、米国に住むすべての人びとを尊重する政治を行うべきだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス代表は述べた。「彼のホワイトハウスへの道のりは女性嫌悪、レイシズム、外国人嫌悪に彩られた選挙戦によるものだった。しかしそのやり方で政権が成功することはない。トランプ次期大統領はアメリカの指導者を務めるにあたり、あらゆる人の権利を完全に尊重かつ促進すべきである。」
今回の米大統領選ではトランプ氏による数々の発言や政策提案が物議を醸し、話題の中心となった。2015年6月に大統領選出馬の意向を示した際、トランプ氏は「メキシコから人が来ていますが、すぐれた人が来ているのではありません。多くの問題を抱えた人びとがやってきています。そうした問題をわが国に持ち込んでいるのです。かれらはドラッグを持ち込んでいます。犯罪を持ち込んでいます。かれらはレイプ犯なのです。もちろんなかにはきちんとした人もいるとは思いますが」と述べた。トランプ氏はムスリムの米国入国禁止を唱えてもいた。
トランプ氏は共和党予備選討論会で、水責め台よりも「はるかに過酷な」拷問を復活させると言い、グアンタナモ収容所は閉鎖せず「悪漢どもで一杯にする」つもりだとも述べた。選挙戦終盤では、女性への性暴力を自慢するとおぼしきトランプ氏の2005年の発言を収めたビデオが争点となった。その後トランプ氏は遺憾の意を表明した。ビデオ公開を受けて十数人の女性がトランプ氏の性的暴行を訴えた。
トランプ次期大統領は2017年1月の大統領就任後、内外の無数の人権課題への対処を引き継ぐことになる。例えば、民間人に大量の犠牲者が出ることが日常化しているシリアやイラク、アフガニスタン、イエメンなどでの紛争での米国としての対応が求められている。イエメンで米国は紛争当事国となっており、同盟国サウジアラビアがイエメンの民間人に壊滅的で無差別な暴力を加えている。
トランプ氏は選挙戦でしばしば忌まわしい物言いを用いてきたが、今こそそれを捨て、人権を内外の政策の中心に据える機会だ。人権、優れたガバナンスおよび法の統治の促進に関する米国政府の信頼性を十分に実現するには、米国政府自身が女性や子どもの権利、刑事司法、グアンタナモ問題、通常戦闘地域外でのドローン攻撃、拷問への法の裁きといった問題での改善が必要だ。
「自国政府が時に人権を尊重しないのに、他国にそれを求めることは難しい」とロス代表は指摘する。「例えばトランプ次期大統領は国内で、刑事司法や移民制度改革などの課題に取り組み、構造的な人種差別の解決にとくに注力すべきである。」
外交分野では、市民社会や自由な表現への弾圧が、ロシア、中国、エジプト、エチオピア、バングラデシュなど世界各地で増加する傾向に、トランプ氏はとりわけ注意を向けるべきだ。また北朝鮮などの全体主義政権には新たなアプローチをとるべきであり、トルコのように政権が権力集中を強めている国での弾圧強化を終わらせるべきだ。
次期大統領は他国と協力して武器統制の規範強化にも取り組むべきだ。完全自律型武器システム(いわゆるキラーロボット)の禁止条約に関する交渉をとりまとめるほか、米軍の対人地雷とクラスター弾の使用停止に向けた施策を進めて、その使用を制限する国際条約に加盟すべきである。
11月8日には大統領選と上下両院の選挙と平行し、重要な住民投票が複数行われた。カリフォルニア州では死刑廃止が、ネブラスカ州では2015年に州議会が死刑廃止を決めたが、死刑復活を行わないことが投票の対象となった。また複数の州では、大麻の個人使用が問われた。