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南アフリカ共和国:ICC脱退は被害者に対する裏切り行為

締約国は国際裁判所への支持を再表明すべき

(ヨハネスブルグ)- 国際刑事裁判所(ICC)条約からの脱退を表明した南アフリカ共和国の行動は、残虐な犯罪に法の裁きを下すというICCのコミットメントへの大きな打撃だ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。もっとも深刻な犯罪に対する責任にコミットしたICC締約国は、今こそICCへの支持を改めて確かなものにしなくてはならない。

The Permanent Premises of the International Criminal Court in The Hague, Netherlands. © 2016 UN Photo/Rick Bajornas

2016年10月21日に、南アフリカのヌコアナ=マシャバネ外相が、ICCを設置し、協力義務等を定める「ローマ規程」の締約国から脱退する意図を、潘基文 国連事務総長へ通知したと発表。脱退にはこのような通知の提出が義務づけられており、通知から1年後に発効することになっている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ国際司法プログラムのディレクター、リチャード・ディッカーは「南アフリカの脱退は、アパルトヘイト後の同国憲法で謳われる価値、そして被害者の権利を推進するリーダーとしての役割を、大きく逆転させるものだ」と指摘する。「今回の決断に際し、南アフリカ政府は議会の承認も得ておらず、国内法に従ったのかも定かではない。」

1998年にICCが歴史的に設置されて以来、締約国からの脱退を通知した国は南アフリカのみ。ジェノサイドや戦争犯罪、人道に対する罪の加害者を各国の国内法廷が訴追できない、あるいは訴追する意志がないときに、ICCが管轄権を行使し、代わってその責任を問うのが同裁判所のマンデートだ。

南アフリカの脱退通知に先立ち、ブルンジ議会がICC脱退を定めた法案を可決した。しかし同政府は、脱退手続き開始に必要な通知を国連事務総長に提出していない。

南アフリカの著名な法学者やICC支持者らは、政府が議会の承認も得ずに脱退の通知を提出したことに遺憾の意を表明している。南アフリカ憲法裁判所の元判事リチャード・ゴールドストーン氏は、政府の行動を違憲とした。同氏は、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY)とルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)で最初の主任検察官を務めた人物だ。南アフリカの主要野党のひとつである民主同盟と、著名な人権団体「南部アフリカ訴訟センター」(SALC)は、南アフリカ国内司法に対し異議を申立てる可能性を示唆している。

ヌコアナ=マシャバネ外相は南アフリカの脱退理由について、ICCの義務に縛られて武力紛争の当事者との和平交渉を政府が行えないからだと主張する。しかしICC条約は和平交渉で各国が積極的な役割を担うことを禁じてはいない。

前出のディッカーディレクター は、「効果的かつ独立した裁判所のための原則作りにおける南アフリカの主導的役割に照らし、ズマ大統領の決定はとりわけ大問題だ」と指摘する。「南アフリカは被害者と法の支配に対して、非常にネガティブな結論を下してしまった。」

南部アフリカ開発共同体(SADC)は、1997年9月に南アフリカが首都プレトリアで招集した会議において、ICC設置に関する10原則を策定した。これら原則はICCの効果的な設置に大きく寄与するもので、常設の世界的な戦争犯罪裁判所の設置に関し、南アフリカおよびSADCの強いコミットメントを象徴するものでもあった。

南アフリカのICC脱退発表にはアフリカ全土の活動家から抗議が寄せられた。10月21日発表の声明では、アフリカ系団体およびアフリカで活動する国際組織が、南アフリカ政府の動きを「アフリカ全土にいる国際犯罪の被害者に対する壊滅的な打撃」と呼び、コートジボワール、ナイジェリア、セネガル、チュニジアなどのアフリカの締約国に対し、ICCへの支持を公的に表明するよう働きかけた。

セネガルのカバ法相は、124カ国から成るICC締約国会議(ASP)の議長を務めている。カバ法相は、南アフリカに脱退を考え直すよう求め、「しばしば大規模な人権侵害の原因となっている不処罰に、他国と協力して立ち向かう」ことを呼びかけた。カバ法相は本件に関し、首都ダカールで10月24日に記者会見を開く予定だ。

南アフリカの脱退はおりしも、国家元首がICCによる訴追に直面しているスーダンとケニアからICCに対する反発が噴出している時期に発表された。ICCに対する主な攻撃は、同裁判所がアフリカを狙い撃ちしている、という主張である。

これまでのICCの捜査は、確かにひとつの例外をのぞいてすべてがアフリカで行われている。しかしその大部分は、アフリカ諸国政府の要請により開始されたものだ。

しかしICCは、政治、経済、軍事力の不均衡が大きい国際状況のなかで活動している。国連常任理事国のロシア、中国、米国を含む多くの大国および同盟国が締約国でないため、結果としてICC捜査を回避できてしまっている。国連安保理の常任理事国は拒否権を発動して、ICC締約国以外における、法の裁きが非常に必要な事態の付託を妨げている。シリアがその例だ。

2009年以来、アフリカ全土の活動家は国際団体とともに、アフリカ諸国政府に対し、ICCの足を引っ張るのではなく支援し、同裁判所を強化するよう求めてきた。

ディッカーディレクターは、「アフリカ諸国はICCの設置において重要な役割を果たしたことで、誰も法を超越せず、あらゆる人が正義を求められるとの重要な変化を印象づけた」と指摘する。「私たちは、法の裁きを実現できるようICCを強化し、その活動をより多くの国へ広げられるようにしなければならない。しかし、被害者の救済・賠償も含む法の裁きの実現という目標は、グローバルな制度に欠陥があるからといって諦めるべきでない。あまりにも重要すぎるからだ。」 

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