Skip to main content
寄付をする
“Sofia,” a 17-year-old tobacco worker, in a tobacco field in North Carolina. She started working at 13, and she said her mother was the only one who taught her how to protect herself in the fields: “None of my bosses or contractors or crew leaders have ever told us anything about pesticides and how we can protect ourselves from them….When I worked with my mom, she would take care of me, and she would like always make sure I was okay.…Our bosses don’t give us anything except for our checks. That’s it.” © 2015 Benedict Evans for Human Rights Watch

(ワシントンDC)米国政府とたばこ会社は、たばこ栽培での危険な労働から10代後半の子どもたちを保護する対応を怠っていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書と動画で述べた。

今回の報告書「たばこ農場で働く10代の子どもたち:米国のたばこ栽培での児童労働」(全57頁)は、米国のたばこ農場に労働者として雇われて長時間労働に従事し、ニコチンや有毒な農薬を浴び、酷暑で作業する16歳と17歳の子どもたちの被害を明らかにした。インタビューに応じた10代後半の男女のほとんどが、たばこ農場で働いている際に吐き気、嘔吐、頭痛、めまいなど、急性ニコチン中毒に見られる症状が出たと訴えた。

 
「まだ若く、法律でタバコの購入が認められていない10代後半の子どもたちが、米国のたばこ農場で働き、ニコチン曝露の被害を受けている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの子どもの権利調査員で、報告書の共著者マーガレット・ワースは述べた。「米国政府とたばこ会社は、18歳未満をたばこ農場での危険な仕事に一切従事させないようにすべきだ。」

米国のたばこ農場は、子どもをニコチン中毒のほか、有毒な化学物質を作物に用いることでの農薬曝露、熱中症、反復動作による慢性痛や傷害などの危険にさらしている。

2014年に米国のたばこ会社と生産者組合の一部は、16歳未満の子どものたばこ農場での雇用を禁止する措置を取ったが、16歳以上の子どもは除外した。10代の子どもたちは今なお、たばこ農場での労働による有害な影響を受けやすいと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2015年7月にノースカロライナ州東部で報告書用の現地調査を実施し、16歳と17歳の子どもたち26人のほか、子どもの親、農業労働や思春期の健康の専門家、たばこ生産者に話を聞いた。日常的なニコチン曝露以外にも、インタビューに応じた人びとの多くが、農薬散布中に農場内や周辺で働いたり、散布が済んだばかりの農場に再び入ったりすることで、頭痛や吐き気、呼吸困難、眼の焼けるような痛み、鼻やのどのかゆみを突然感じることがあると述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが話を聞いた10代の子どもたちはほぼ全員が1日11~12時間、酷暑の中で適切な保護具を装着しないまま、トイレもままならず、手を洗う場所がない環境で働いていた。たばこ農場での危険防止に関する安全講習や衛生教育を受けた人はほぼゼロだった。

17歳のイネスさん(仮名)は、たばこ農場で1日の労働を終えた後にひどく具合が悪くなったと話す。「働いているときにも変だな、調子が悪いなと思っていたのですが、夜になったらもう大変でした…。激しい腹痛に襲われました。ものすごい痛みで夜通しうめいていました。あまりにつらそうだったので、母は私を緊急外来に連れて行こうとしました。すると嘔吐が始まりました。その日は3、4回吐きました。とてもつらかったです。」

今回の報告書は、2014年にヒューマン・ライツ・ウォッチが米国のたばこ農場での危険な児童労働について発表した調査の続編である。前回は、4つの州のたばこ農場で働く7歳から17歳の子ども141人にインタビューを行った。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの2年ほど、米国の農場で収穫されたたばこを購入する大手企業8社の重役との面会や書簡やりとりを通じて、企業側に児童労働対策の強化を強く訴えてきた。

2014年に、米国最大手のたばこ製造会社2社、アルトリア・グループとレイノルズ・アメリカン社は、16歳未満の子どものたばこ農場での雇用を禁止すると発表した。この方針変更以前にも、2つのたばこ生産者組合が同様の声明を発表している。

「16歳未満の子どものたばこ農場での労働を禁止したのは素晴らしい第一歩だ。だが16歳と17歳でもニコチンと農薬被害をきわめて受けやすいことに変わりはない。同じく保護の対象とすべきだ」と、前出のワース調査員は述べた。

このほか複数のたばこ会社が、18歳未満についてたばこ農場での特に有害な労働を禁止している。だが、18歳未満の子どもを一律に危険な労働に従事させないとの方針をもつ企業はないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

米国の法律と規制は、たばこ農場での児童労働について、大半のたばこ会社の方針よりも保護が緩い。米国労働法では、親の同意があれば12歳の子どもを、規模にかかわらずたばこ農場で、学校が終わってから時間の制限なく雇用することが認められており、小規模なたばこ農場や家族が所有・経営する農場で働く場合には、就労できる子どもの年齢の下限が定められていない。

10代の子どもは脳の発達が続いているため、作業での有害な影響をとくに受けやすい。研究によれば、計画や問題解決、衝動の制御を司る脳の部位である前部前頭葉皮質は、思春期から20代初めまで発達を続けている。ニコチンなどの刺激物にも敏感だ。ニコチンの経皮吸収の長期的影響ははっきりわかっていないが、思春期のニコチン曝露には気分障害のほか、人生の後半に生じる記憶、注意、情動制御、認知に関わる問題との関連がある。

国際法によれば、米国には18歳未満の有害な労働(健康や安全を損なう可能性のある作業を含む)の廃絶に向けて直ちに行動する義務がある。たばこ会社も、企業としてサプライチェーン内での深刻な人権問題の発生を防ぎ、すでに発生している場合にはそれを除去する責任がある。

アメリカ労働省は、たばこ農場で働く子どもへの危険認識しているが、米国の規制を変え、農場での危険な児童労働を廃絶する取り組みを怠っている。

リチャード・ダービン上院議員とデイヴィッド・シシリーニ下院議員が提出した法案は、18歳未満についてたばこに直に触れる労働を全面禁止するものだ。しかし上下両院のどちらでも採決には至っていない。

「たばこ栽培のもたらす危険から子どもの労働者を守るため、米国政府にはさらなる取り組みが求められる。米国政府と議会は、18歳未満の子どもについてたばこ農場での危険な作業を一律に禁止する行動を直ちにとるべきだ」と、ワース調査員は述べた。

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。