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インドネシア:全政治囚の釈放を

パプアの政治囚5人に減刑措置 しかし数十人が依然獄中に

(ジャカルタ)インドネシアのジョコ・ウィドド大統領はパプアニューギニア人の政治囚5人に恩赦(クレメンシー)を与えた。しかし、政治囚数十人がパプア州とモルッカ(マルク)諸島でいまも投獄されたままである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

インドネシアのジョコ大統領は2015年5月9日にパプア州の州都ジャヤプラを訪問し、Apotnalogolik Lokobal、Numbungga Telenggen、Kimanus Wenda、Linus Hiluka、Jefrai Murib各氏への恩赦を発表した。この5人は2003年4月4日にワメナにあるインドネシア国軍の武器庫襲撃事件(兵士2人が死亡)に関与したとして、2003年にワメナの裁判所で有罪を宣告され、19年10ヶ月から終身刑までの判決を受けたが、今回ジャヤプラのアデプラ刑務所をウィドド大統領が訪問した際に釈放された。襲撃に関与したのは、5人のうち終身刑を宣告されたTelenngenとMuribの両氏だけだ。後の3人は、パプア独立支持を理由に逮捕された。

「今回の5人の釈放により、投獄中の多くの政治囚が釈放されるとの希望も出てきた。とはいえ、投獄がそもそも不当なものだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのフェリム・カイン アジア局長代理は述べた。「インドネシア政府は政治囚全員に大統領による即時恩赦(アムネスティ)を与えるべきだ。『有罪』と認めるよう求めるのは、基本的人権の侵害だ。」

政治囚問題のアドボカシーに取り組むNGO「獄中パプア人」のリストによれば、表現・結社の自由を侵害する容疑で投獄、拘束、公判中、または公判前拘束中のパプア人は計38人。このほかモルッカ諸島にも29人の政治囚がいると、人権団体「タマス」(本部アンボン)は指摘する。

パプア人政治囚の多くが恩赦(クレメンシー)措置を拒否している。釈放と引き換えに有罪を認めなければならないからだ。

独立などの政治改革を非暴力で訴える人びとを、インドネシア政府は恒常的に逮捕、投獄してきた。こうした逮捕や訴追の対象の多くが、パプア・モーニングスター旗や南マルッカRMS旗など、非合法とされたシンボルを非暴力的で掲げた活動家たちだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは自決権に関しては立場を持たないが、自決権支持を非暴力で訴えた人びとの投獄には反対する。

インドネシアの法律では、大統領が囚人を釈放する方法は3つある。恩赦(クレメンシー)、恩赦(アムネスティ)、起訴取下だ。恩赦(クレメンシー)を行うには、囚人自身が申立を行うとともに有罪を認める必要がある。インドネシア法は大統領に対し、クレメンシー実施前に最高裁判所の意見を求めることを義務づけている。その他にも、大統領は有罪判決を受けた囚人に恩赦(アムネスティ)を与える権限があるほか、司法手続が終了していない刑事被告人に対しては起訴取下を行う権限もある。起訴取下も恩赦(アムネスティ)についても、囚人の申立・有罪認容を条件としていない。しかし大統領は、起訴取下又は恩赦(アムネスティ)前に下院の意見を仰がなければならない。

インドネシアの政治囚の大半が刑法第106条、110条の「マカル」(反乱罪あるいは大逆罪)で有罪とされている。政令77/2007第6条は、地域のシンボルとなるものを規制している。「組織、団体あるいは分離独立派の運動体」と同じかたちの旗やロゴの掲揚は禁止だ。パプア・モーニングスター旗と南モルッカ諸島共和国(RMS)の「ベナン・ラジャ」(虹の意味)旗は、この禁止措置の対象と見なされている。

政治囚の多くが10年以上の刑を宣告されている。活動家が未決拘禁時に警察の拷問を受けるケースは多い。獄中で暴力を受けても医師の受診が認められないこともある。政府はパプア人活動家の逮捕を、自由パプア運動(OPM)との紛争の一環だとして正当化している。だがOPMは勢力も小さく、組織としても脆弱だ。パプア州では2013年2月に、インドネシア国軍が自由パプア運動とおぼしき部隊の攻撃を受けて8人が死亡する事件が起きて、緊張が高まった。それが過去10年以上の間に同州で起きた最悪の暴力事件だった。

政府のクレメンシーの提案を拒否したパプア人政治囚に、公務員のFilep Karma氏がいる。2004年12月に西パプア独立運動の象徴「パプア・モーニングスター」旗を掲げたとして15年の刑に服している。2011年11月、国連の恣意的拘禁に関する作業部会はKarma氏を政治囚とし、インドネシア政府に「即時無条件」釈放を求めた。インドネシア側は勧告を拒否した。

パプアでのインドネシア治安部隊の行動も、パプアの地元市民たちとインドネシア当局の溝を深める原因となっている。パプアの治安部隊は過去十年で数十件もの人権侵害への関与が疑われている。たとえば2014年12月8日には、人里離れたエナロタリ(Enarotali)の町で武器を持たず、非暴力デモを行っていた5人を殺害した。この殺害事件については公式な調査が3件、警察、全国人権委員会、軍と警察の内部作業により行われたが、結果はまだ1つも公表されていない。

こうした人権侵害の解決が実現されていない原因のひとつが、透明性の欠如だ。パプア州での政府による報道の自由への規制も状況を悪化させている。インドネシア政府は数十年にもわたり、外国メディアのパプアでの自由な取材活動を実質的に禁じている。パプアを訪問できる外国人ジャーナリストは、当局から特別許可を受けた人物に限られている。政府はそもそもめったに許可を出さない。また、申請処理手続に時間をかけて、ジャーナリストやNGOに重大事件を取材させないようにしている。政府から訪問許可を取れた場合でも、政府がつける案内役がジャーナリストにぴったり張りつき、移動先に細かく注文をつけ、インタビュー相手との連絡を厳しく管理するのが実態だ。

ジョコ大統領は5月9日に外国人記者団に対し、5月10日には一連の規制を全廃すると述べた。だが詳しい話は一切なかった。パプアへの国外メディアの立ち入りを長年統制してきたインドネシア外務省が、どれだけ迅速かつ実質的な形で規制撤廃措置を実行するのか予断を許さない。パプアの治安部隊が国外メディアに対し、パプア州内で自由な取材をどの程度認めるかについても大きな疑問が残る。

インドネシア政府当局は2014年8月、ドキュメンタリー映画を撮影していたフランス人ジャーナリストのトマ・ダンドワ氏とヴァランティン・ブラ氏を拘束し、分離独立派の自由パプア運動(OPM)のメンバーを撮影したとして、その行動が「国家転覆罪」にあたると脅迫した。10月6日、パプア州の州都ジャヤプラの裁判所は2人を「入国ビザの濫用」で有罪とし、拘束日数分の刑を言い渡したうえで即日釈放した。

政府は国内メディアがパプア州で報道を行うことを認めているが、政府がパプアからの情報の流れを統制しようとしている中で、その信頼性や客観性に重大な疑いがある。2011年に流出した公文書によれば、インドネシア軍はパプア在住のインドネシア人ジャーナリスト20数人を情報提供者として雇っている。また国軍はジャーナリストやブロガーに資金を与えて研修を実施した上で、米国など外国勢力がパプアに干渉する可能性があると戒めている。

「ジョコ大統領がパプア州を覆う恐怖や不処罰、人権侵害への対処に本腰を入れるなら、全政治囚の釈放、報道規制の撤廃、人権侵害事件に対する真摯な捜査の指示がまずは必要だ」と、前出のカイン・アジア局長代理は指摘。「インドネシアの政治囚は、一人ひとりが人間としての基本的な尊厳を侮辱されている。この現状は、インドネシアは人権尊重国だという政府主張に影を落としている。」

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