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ジンバブエ:不安定な再定住を強要される

水害被害で避難生活の2万人に十分な食糧や住宅もなく

(ハラレ、2015年2月3日)— ジンバブエ政府は暴力や嫌がらせを用いたり、人道援助に故意の制約を課すことで、約2万人もの水害被害者を強制移住させようとしている、と本日発表の報告書内でヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。政府が再定住先に指定しているのはさとうきび農場の開拓予定地で、それぞれに与えられるのはごく小さな土地区画にすぎない。

報告書「家なし、土地なしの極貧状態:ジンバブエのトクエ・ムコシダム水害被害者の窮状」(全57ページ)は、2014年2月にトクエ・ムコシダム流域で起きた大規模な洪水のため、突如避難生活を余儀なくされた人びとが今も苦しむ人権侵害違について調査・検証したもの。一部専門家はこの水害被害について、回避も可能だったとみている。被害者たちは避難後、さとうきび栽培用農地内の土地区画1ヘクタールを受け入れる以外に選択の余地がなかった。当該農地の開拓計画は、ロバート・ムガベ大統領率いる与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(以下ZANU-PF)と密接に関係している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの南アフリカ担当上級調査員デワ・マブヒンガは、「ジンバブエ政府は、政府プロジェクト用の労働力を確保するため、2万人の水害被害者を脅迫し再定住計画を受け入れさせた。しかしこの計画は、被害者たちを貧窮に陥らせている」と指摘する。「政府は被害者に対して速やかに、適切な無条件援助を提供し、損害に相応した補償措置をとるべきだ。」

水害被害者の一部は、災害以前にすでに強制移住が決まっていたが、財産に見合う補償をもらうまでは動かないと抵抗。政府は暴力と脅しで応え、再定住計画を受け入れない人びとへの食糧配給や保健・教育サービスを制限した。

政府計画のもとで水害被害者は、マシンゴ州ムウェネジ地方のヌアネツィ農場でのさとうきび栽培を義務づけられており、収穫は国有のエタノール燃料生産プロジェクトに利用される。そのほかの作物を栽培することは許されていない。プロジェクトがフル稼働するまで約7年かかるとみられ、それまでは全く生計がたてられない仕組みだ、と人びとは話す。水害被害者は政府計画に反対している。人びとはヒューマン・ライツ・ウォッチに、土地区画は小さすぎて、栽培用ガーデンだけでは一家の食糧さえ十分にまかなえないと話した。5ヘクタールの土地区画が約束されているとはいっても、それはさとうきび栽培以外に選択の余地がないうえ、人びとは栽培経験をもたない。多くは失った土地に対する補償も受け取ってない。

マシンゴ州のクダクワシュ・バシキティ(Kudakwashe Bhasikiti)総務相は2014年8月にヒューマン・ライツ・ウォッチのインタビューに応じ、水害被害者は最終的にエタノール燃料生産プロジェクトの恩恵を受けることになるだろうと述べた。更に、さとうきび栽培に専念すれば、自ら作物を選ぶことを許可するよりも早いスピードで、プロジェクトの採算が取れるようになると話した。また、総務相は他のインタビューで、政府計画に反対する人びとを「反乱者」や「国家の敵」と呼んだ。

水害被害の直後、ジンバブエ軍は2万人 (3,300世帯) をヌアネツィ農場内のチングウィジ避難民キャンプに移送。そこで国連ほか人道援助機関からの支援を受けた。その後政府は、20キロ離れたボンゴとニョニにあるさとうきび栽培予定農地内の新土地区画の移動するよう、水害被害者たちに告げた。

人びとが移動を拒否すると、政府当局は食糧支援をやめ、水やトイレへのアクセスを制限し、被害者支援を目的とした寄付を禁じたり、転用しはじめた。2014年4月に地方政府のイグナチウス・チョンボ(Ignatious Chombo)担当相が、「食糧支援は、土地区画への永住に同意した世帯のみを対象とすることにする」と公言。避難民キャンプは開設から6カ月で、診療所および学校ともども政府の手により閉鎖された。

水害被害者たちがこれに抗議して暴力事件に発展すると、対暴動警察部隊が無差別に約300人を殴打し、逮捕。目撃証言によると、被害を受けた人の大半が男性だったという。

逮捕者のほとんどは、女性1名と男性3名をのぞいてその後釈放された。身柄を拘束されたままの4人には、現場に居合わせていなかったマイク・ムダヤネンブワ(Mike Mudyanembwa)氏も含まれている。彼は、被害者組織であるチングウィジ避難民キャンプ委員会のマイク・ムダヤネンブワ(Mike Mudyanembwa)代表である。この4人は公衆暴力罪で訴追され、2015年1月27日に禁固5年を言い渡された。弁護団は4人が拘束中に拷問を受けていたとしている。

抗議をきっかけに多くの男性が逮捕を恐れてキャンプを離れた。罰として警察部隊は、あとに残された女性や病人、障がい者に対し、トイレにも行かせずに直射日光の中で2日間座っていることを強制。その後、1ヘクタール土地区画に移動させた。

強制移住先で水害被害者は極貧状態に置かれている。世界食糧計画(WFP)による最後の食糧配給は2014年9月だったと人びとは話す。政府が水源確保に試掘した穴は枯渇しているか、塩水が湧き出るため、清潔な飲料水を求めて最長で20キロも歩かねばならないという。

多くは未だ仮テントに住んでいる。政府が土地所有権争いを理由に、恒久的な建物を建設しないよう通達したからだ。なお所有権は、政府/大統領の支配下にある企業であるジンバブエ開発信託基金(DTZ)と、ヌアネツィ農場有限会社/ジンバブエ・バイオ・エナジー社(ZBE)の間で争われている。

前出のマブヒンガ上級調査員は、「ジンバブエ政府は水害被害者の権利を全く省みないでいる」と指摘する。「政府は、新土地区画が被害者たちにとって恒久的な解決策だと主張するが、それが真実からほど遠いことを、土地所有権をめぐる争いが体現している。」

トクエ・ムコシダムの建設は、ほぼ不毛の地である南東部のマシンゴ州に灌漑と電気を提供するため、1998年に始まった。資金調達ほかの問題から建設は遅れ、2015年の終わりに総額約2億9,870万米ドルかけて完成の予定だ。

2014年2月、ダム流域を洪水が襲った。それをきっかけとして、不穏な強制移住が始まった。当局は、洪水が地球温暖化のもたらした記録的豪雨による自然災害であるという見解を維持。一方でダム建設に詳しい関係者や技術者たちは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、洪水は下流での放水で防げたはずだと証言した。

2013年12月〜2014年5月の間に撮影され、ヒューマン・ライツ・ウォッチが分析した洪水の衛星画像は、洪水が始まってから何週間も、水位を下げたり、洪水を最小限化する対策が取られなかったことをはっきりと示している。

周辺住民はダムの放水を懇願したが、武装した兵士たちが人びとを所有地から立ち退かせた。被害地域から離れた土地に住む人びとも一部含まれていた。ある被害者は、兵士たちが住民に次のように言ったと証言する。

「ムガベ大統領はこのダムを完成させ、貯水できるようにしろと命じられた。なのにお前たちは放水してくれと言うのか? だめだ。去るときが来たんだよ。補償は後でされる。政府が金を手にしたときにね。」

前出のマブヒンガ上級調査員は、「洪水に至った状況は疑わしく、水害被害者はそれが回避可能だったのか否かを知る権利がある。多くの人びとが緊急の移動で財産を失ったのだから」と述べる。「ジンバブエ人権委員会は、速やかに洪水発生までの状況を捜査し、必要に応じて関係者の責任を確実に問うことが求められている。」

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