米国境取締局職員は、「車両内の人間が致死的な有形力の行使を試みない限り」走行する車両へ発砲すべきではない。また、メキシコ側国境から石やそのほかの物体を投げられても、それらが「重傷や死」を招くようなものでない限り、同じく人びとへも発砲すべきではない。むしろこうした状況に直面した場合、いかに「現場を退く」かの訓練がなされるべきである。―― 実はこれらは、米税関・国境取締局による殺傷力のある有形力行使をめぐる重要な内部調査報告書(先月30日発表)が勧告した「重大な変更事項」の一部だ。これほど明らかに常識的な政策が、すでに同局の「標準活動手順」でないことは、控えめに言っても憂慮すべき事態である。
が、全くの驚きというわけではない。国境警備隊は過去4年の間に少なくとも9人を、疑問が残る状況下で殺害。石を次々と投げつけられたため発砲した、と隊員が発言しているケースもある。報告書によると、運転者への発砲を正当化するため、走行する車の前方に故意に割り入ったケースもあったという。アナスタシオ・ヘルナンデス・ロハスさんは2010年、傍観・撮影する人びとの眼前で、国境警備隊に殴打され電気ショックを与えられ死亡した。2012年に米議会のある議員グループが国家安全保障省に宛てた書簡で、米税関・国境取締局に内在する「より大きな文化的問題」に警鐘を鳴らす。死亡者数の多さに加え、刑事訴追が皆無という現状は、同議員グループの懸念の信憑性を高めるばかりである。
米税関・国境取締局は米警察の研究機関「ポリス・エグゼクティブ・リサーチ・フォーラム」(PERF)に、先週発表された報告書の作成を依頼していたが、一般公開は拒否。数カ月にわたる情報公開法に基づいた要求および民事訴訟の結果、最終的に公開を余儀なくされた。同フォーラムの調査員たちは、2010年1月~2012年10月の国境警備隊による致死的な有形力行使67件について検討。「致死的な有形力行使をめぐり、客観的な合理性の基準を満たしていないと思われるケースがあまりにも多すぎる」と結論づけた。また、この問題をめぐる米税関・国境取締局の捜査の一部は「注意義務を欠く」ものだったとしている。加えて、米税関・国境取締局の「害はないからOK」的方針は、よからぬ活動に対する暗黙の了解に繋がりうるとの見解を示した。
米税関・国境取締局は、先月30日に報告書と併せて発表した改訂版「有形力行使をめぐる政策手引き」に、同フォーラムの勧告を反映した。これは前向きな一歩である。しかし、米税関・国境取締局に内在する「より大きな文化的問題」は、単に紙上で対処できる類の問題ではない。米税関・国境取締局のギル・カーリコウスキー長官は発表当日、新政策にそった職員の基本訓練カリキュラムの改訂を確約した。これは大変重要だ。長官はまた、国境周辺住民および国境越えをする人びとに、日々何千と接する同局職員たちが規則から外れるようなことがあれば、必ずやその行動の責任を問うべきだ。致死的な有形力の悪質な誤用で起こりうるほか多くの人権侵害についても責任を問うことが不可欠だ。