(ニューヨーク、2014年5月13日)-国連安全保障理事会は、シリアの事態を国際刑事裁判所(以下ICC)に付託する内容のフランス政府作成の決議案を、速やかに採択すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ロシアと中国は拒否権を行使すべきでない。

シリアにおける人道に対する罪および戦争犯罪をめぐって2014年5月12日、ICCに管轄権を付与する内容の決議案をフランス政府が安保理理事国に配布した。シリア内戦では全陣営が、処罰なきまま残虐行為に手を染め続けている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの国際司法プログラムディレクターリチャード・ディッカーは、「シリア内戦による死者数がゆうに15万人を超える事態となり、日々残虐行為が続くいま、安保理には法の裁きのために速やかな行動をとる責任がある」と述べる。「安保理は内戦の全当事者が処罰などされないと考えている現状を変え、理不尽な虐殺に手を染めれば、オランダ・ハーグにあるICCの監獄に送られうるという明確なメッセージを送るべきだ。」

15の安保理理事国のうち過半数が、シリア内戦についてICCが捜査を開始することを公に支持している。フランスや英国、米国、ルクセンブルク、アルゼンチン、オーストラリア、韓国、チリ、リトアニア、ナイジェリアだ。安保理の決議案採択に必要な賛成票は9。だがロシアは過去ICC付託に反対の意を表明。2013年1月15日にシリアのICC付託を「時期尚早で非生産的」と評したのだ。中国はこれまで沈黙を守っている。両国とも常任理事国であるため、決議案に対し拒否権を発動することができる。

シリアで起きている残虐な犯罪にくり返し懸念を表明してきた理事国ほか世界各国は、重大な人権侵害に対する法の裁きに支持を表明するため、同決議案の共同提案国となるべきだ。各国はまた、シリア内戦の全当事者による残虐行為に対するアカウンタビリティ(真相究明・責任追及)を要求する今回の決議案に拒否権を発動しないよう、ロシアと中国に忠告すべきだ。2013年1月14日にICCへの付託を共同で支持した58カ国は、フランスの決議案を正式に支持するよう、国連加盟国に呼びかける公開書簡を提出する見込み。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは過去3年にわたって、シリア政府と反体制派勢力による残虐行為を広く調査し、取りまとめてきた。そこから導き出した結論は、双方が「人道に対する罪」および「戦争犯罪」を犯しているというもの。政府は引き続き無差別の空爆や砲撃を一般市民居住区に加えており、市民および戦闘員の恣意的拘禁や拷問、超法規的処刑も後を絶たない。ヒューマン・ライツ・ウォッチは一方で、非政府系武装勢力による戦争犯罪および人道に対する罪も調査して取りまとめている。例えば、一般市民を標的にした自動車爆弾や無差別な迫撃砲の使用、誘拐や拷問、超法規的処刑などの犯罪が犯されてきた。

過去及び現在進行形の深刻な人権犯罪に対し、シリア政府当局も反体制派勢力指導者層も、加害者の責任追及に向けた意味のある措置を何も講じないでいる。加害責任が問われない現状をよいことに、内戦の全当事者が更なる残虐行為に手を染めるという悪循環がおきている。

シリア国連調査団(Commission of Inquiry)が2014年3月5日に発表した最新の報告書は、内戦の全当事者が国際法に抵触する重大な犯罪に手を染めており、安保理はこうした犯罪に対する不処罰の現状打開を怠っていると結論づけている。同調査団は2011年8月の設置以来、7つの詳細な報告書を発表し、安保理がシリアの事態を訴追する管轄権をICCに付与するよう勧告してきた。世界65カ国がすでにICC付託へ支持を表明している。国連人権高等弁務官事務所も複数回にわたって(直近では今年4月8日)、安保理へのブリーフィングで同様の勧告を行っている。

シリアはICCの設置条約であるローマ規程の締約国ではない。そのためICCは、安保理が同国の事態を付託した場合に限り、シリアでおきた犯罪に対して管轄権を行使できる。安保理の付託によりICCは、シリア内戦の全当事者による重大な人権侵害を訴追する権限を有することになる。安保理はこれまでも同様の付託を2度行っている。ひとつはスーダンのダルフール地方の事態(2005年)で、もうひとつはリビアの事態(2011年)だ。リビアの事態についてはロシア・中国の双方が付託を支持し、全会一致で採択された。

ICCは「戦争犯罪」および「人道に対する罪」を当該国が訴追する能力または意思を持たない場合に、管轄権をもつ常設の国際裁判所。まさに今日のシリアが陥っているような事態に対処するために設立されたといっていい。

フランス政府が提案した決議案の文言には「非ICC締約国国民が安保理のマンデートに基づく作戦に参加した場合、ICCの管轄権から除外される」という条項が含まれるという。加えて同決議案は、付託の結果行われる捜査等から生じる財政負担は、すべてICC締約国が負うという条項(国連からの資金拠出を禁じる内容)も含む。複数の外交筋によると米国政府に譲歩した結果だと言う。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれら条項の存在を遺憾に思うものの、それでもこの決議はシリアにおける法の裁きを前進させると確信している。

前出のディッカーディレクターは、「ロシアと中国は安保理をあまりに長くこう着させてきた。シリアの人びとや世界の国々が求める、法の裁き実現に応える時期がもう来ている」と述べる。「殺人と混とんの数年の後に拒否権発動では、あまたの被害者の横っ面をはたくようなものだ。それは必ずや両国政府にとっても報いとして返ってくることになるだろう。」