(ジュネーブ)-完全自律稼動型兵器またはキラーロボット(殺傷ロボット)は、戦時の使用にせよ、法執行機関による平時の使用にせよ、基本的な人権を危険にさらす、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。明日から国連で初めて、この問題に関する多国間会議が開催される。
報告書「根底から覆る:キラーロボットが暗示する人権のゆくえ」(全26ページ)は、キラーロボットがはらむ危険について、戦時のみにとどまらない平時の法執行機関による使用という観点から、初めて詳細に検証したもの。完全自律稼動型兵器は、国際法に謳われる生命への権利、救済を受ける権利、個人の尊厳の原理など、最も基本的な権利と原則に対する脅威となりうるものであることが、本報告書で明らかになった。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ武器局局長のスティーブ・グースは、「戦争と同様に警察活動においても、殺傷力ある武器使用をめぐるあらゆる判断について、決して欠かせないのが人間の意思決定だ」と述べる。「各国政府は完全自律稼動型兵器のいかなる使用も許すべきではない。手遅れになる前にこうした兵器をあらかじめ禁じてしまう必要がある。」
完全自律稼動型兵器をめぐる国際的な議論はこれまで、武力紛争においていかに利用されるか、そして国際人道法(戦争法)にそった使用が可能か否かに終始してきた。そこで本報告書では、武力紛争同様に平時に適用される人権法に照らし合わせ、完全自律稼動型兵器が及ぼす潜在的な影響について検証した。
しっかりした人間の介在なしに、標的を定めた上で攻撃することができる兵器をあらかじめ禁ずる国際法を各国政府は採択すべきだ。国々はますます自律した兵器を追い求めており、すでに先駆型も存在している。
ハーバード大学法科大学院国際人権クリニックとの共著である本報告書は、これらの兵器に関する初の国際会議開催にあわせて公表された。特定通常兵器使用禁止制限条約のメンバーである117カ国の大半が出席するとみられている。同国際会議は殺傷力のある自律稼動型兵器の専門家たちを迎え、国連ジュネーブ事務局で5月13日~16日まで開催される。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、同国際条約のスキームで完全自律稼動型兵器について検証し、話し合うとの合意は、当該兵器を禁ずる新たな国際法に最終的に至る可能性があると確信する。同国際条約は1995年にも、失明をもたらすレーザー兵器の使用をあらかじめ全面禁止している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは「ストップ・キラーロボット」キャンペーンの創設メンバーかつコーディネーター。20数カ国から51のNGO 団体が参加する本連合は、完全自律稼動型兵器の開発・製造・使用の全面禁止を求めている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、当該問題についての初の報告書「失われつつある人間性:殺人ロボットに反対する根拠」を2012年11月に発表。翌年4月には、超法規的・即決・恣意的処刑に関する特別報告者のクリストフ・ヘインズ教授も報告書を発表して、様々な視点から完全自律稼動型兵器の使用を反対した。教授は同時に、世界各国がこうした兵器をめぐる動きを一時停止し、問題への対処について国際的な議論を開始するよう要請している。
完全自律稼動型兵器は、ありとあらゆる状況に対応するようにはプログラムできないため、不法に人びとを殺害する可能性がある。ロボット工学によると、こうした兵器がたとえば、不測の事態に生命への権利の遵守を重んじる判断力といった人間性を持つようになる見通しはほとんどないという。
また完全自律稼動型兵器は人間の尊厳を傷つけるものでもある。これら無機質な機械は命の尊さを理解することも重んじることもできないが、それを奪う力は持ちうるからだ。
これら兵器がとった行動について、意味のあるアカウンタビリティ(真相究明・責任追及)を求められるのかについても重大な疑問が残る。いかなる人物であろうと—それが上官であれ、プログラマーや製造者であれ—ロボットがとった行動の責任を問うのには、法的・実務的な問題が生じることとなろう。既存の刑事・民事法はこの問題に対処するには全く不十分だからだ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ武器局上級調査員かつハーバード大国際人権クリニック講師で、本報告書の執筆者でもあるボニー・ドチャティは、「こうしたアカウンタビリティを問えない領域の発生は、将来の違反行為の抑止効果を弱めてしまう」と指摘する。「機械に身内を不法に殺された遺族たちは、法の裁きや補償の機会を得るのが極めて困難となってしまうだろう。」
キラーロボットが人権に与える影響に加えて、多数の法的、道徳的、科学的懸念がある。たとえば軍拡競争の可能性やキラーロボットの激増、そしてキラーロボットが戦場や街頭で一般市民を適切に保護できる能力の有無の問題などである。