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〒100-8968 東京都千代田区永田町1-6-1 内閣官房

内閣総理大臣 安倍晋三 殿

ASEAN首脳会議で人権を主要議題のひとつとすることについて 

拝啓

2013年12月13~15日に行われる日・ASEAN首脳会議に関し、本書簡をお送り申し上げます。総理におかれましては、ASEAN各国首脳との会談で人権問題を主な議題のひとつとし、会議の公式の場で、人権問題への懸念を明確に表明されるよう、心からお願いする次第です。

総理は2013年1月28日の所信表明演説で、重要かつ歓迎すべき方針を提示されました。日本政府は「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった、基本的価値に立脚」した外交を追求するというものです。もちろん、人権の保護と促進は国際法の中心的要素であるので、他国が人権保護を怠ることに懸念を表明することは、外交の正当な一部であり、外務省も表明しているとおり、他国への内政干渉と見なされるべきでないものです。日本はアジアの主要国であり、多くのASEAN諸国にとっては最大のドナー国です。被援助国に対し、国際人権法と国際人道法のさらなる遵守を促すことのできる特別の立場にあります。

日本の人権問題への過去のアプローチは、静かな外交を旨とし、人権を侵害する政府への批判をおおむね避けてきました。人権上の懸念に関するそうした水面下の外交と同時に、人権について忌憚のない公的な発言を組み合わせることで、日本はより効果的な外交を推進できると、我々は考えております。

我々は、総理が1月の所信表明演説で示した展望にしたがって、「水面下」外交に重きを置いてきた日本の伝統的外交が、関与と同時に公けの批判も用いる戦略的な方針へと変化することを心から望んでいます。今回の日・ASEAN首脳会議は、人権と民主主義の重要度を高めることで、総理の展望を現実のものとする絶好の機会であると存じます。この点について、ラオス、カンボジア、ベトナム、インドネシア、ビルマ、フィリピン、マレーシア、タイ、シンガポール、ブルネイ・ダルサラームの人権状況に対する我々の懸念に対し、総理が関心を向けていただくことを切に希望いたします。

ラオス

ラオスの著名な社会活動家で、マグサイサイ賞受賞者のソムバット・ソンポーン氏は、2012年12月15日に首都ビエンチャンで拉致されました。家族が入手した監視カメラの映像によれば、ソムバット氏の姿が最後に確認できたのは、タードゥア通りの検問所で警官と共にいるところでした。氏はこの後、身元不明の人物にピックアップ・トラックで連れ去られました。ラオス当局にはソムバット氏の強制失踪について説明を行う義務がありますが、この事件の徹底的な調査を拒否しています。拉致現場を映した監視カメラのオリジナル映像の専門家による分析など、外部からの援助の申し出をすべて拒絶しており、氏の失踪について信用できる説明を一切行っていません。

米国とEUは、ソムバット氏強制失踪事件への懸念を公けに表明しています。2013年12月15日が事件から1周年にあたることを踏まえ、日本もこの機会に、氏の拉致に対する重大な懸念を公けに表明すべきと思料いたします。

カンボジア

カンボジアは、民主主義プロセスを脅かす深刻な政治危機に依然囚われています。このプロセスは、日本が成立を主導し、署名に加わった1991年のパリ合意の目的でした。政治危機の主な原因は、国際法とパリ合意が定める人権の促進と保護へのコミットメントを、カンボジア政府が怠っていることにあります。なかでも直接的なものとして、自由で公正な選挙による代表者の選出と平和的集会を開催する国民の権利を、当局が尊重していないことがあります。国民の多くとカンボジアの市民団体の多くは、2013年7月28日の総選挙の公式結果を認めていません。公式発表によれば、長期政権の座にあるカンボジア人民党が過半数を得、フン・セン氏は首相の座に留まります。政府は選挙関連の抗議行動を妨害、弾圧しており、警察や憲兵による過度の実力行使がたびたび発生しています。これまでに2人が死亡し、多数が負傷しております。

日本は、他の国々と歩調を合わせ、選挙違反に関して、国際社会の支援を受けた独立調査を実施するよう公的に求めるべきです。総理が先日カンボジアを訪問した際、フン・セン首相からカンボジアの選挙改革に日本の支援が要請されたと伺っています。ヒューマン・ライツ・ウォッチは日本政府に対し、主要政党とカンボジアの市民団体が、今後の選挙が国際的な人権規範とベストプラクティス(完全に独立した公平な選挙管理委員会の設置、ならびに信憑性があり、信頼に足る選挙人登録名簿の作成など)に適ったで行われることを保障する、具体的で実現可能な手順について合意に至るまでは、支援を見合わせるよう促すものです。合意達成後の援助実施にあたっては、日本が主要政党とカンボジアの市民団体と協議を行うことを条件とすべきと思料いたします。他方で日本は、主要政党とカンボジアの市民団体に対し、平和的な集会への権利を促進し保護する、拘束力のある新たな規範的枠組の内容と実施について合意するよう促すべきですなおこの合意は、平和的な集会と結社の権利に関する国連の特別報告者が認めたものを含む、国際基準とベストプラクティスに完全に基づくものであるべきと思料いたします。

ベトナム

ベトナムでは、拷問禁止条約への署名や同性婚の非犯罪化など前向きな変化が存在する一方で、共産党が政府、治安部隊、国会、司法を支配し、人権抑圧を続けています。2013年11月28日に成立し、2014年1月1日に施行予定の改正憲法は、文言の上で人権へのコミットメントを謳ってはいますが、実際の条文には、国際基準に反した抜け穴が依然用意されており、抑圧的な法令の適用による人権侵害に法的基礎を与えています。多くの懸念が存在しますが、とくに表現、結社、平和的集会の権利、公正な裁判を受ける権利が懸念されます。政府がこれらの権利をかたくなに認めないことは、共産党が支配する裁判所で、2013年には少なくとも政治活動家など63人が有罪とされ、刑の宣告を受けていることからも明らかです。この数字は近年と比べて大幅に増加しています。

日本は、ベトナムに対し、次の10人の政治囚の即時無条件釈放を通じて、この傾向の転換へと向かうよう、強く求めるべきです。この10人は、有罪判決と懲役刑を宣告された容疑とは異なり、基本的人権の実践が投獄の理由であるというのが、我々の見解です。10人は、グエン フー カウ(Nguyen Huu Cau)、チャン フイン ズイ トゥック(Tran Huynh Duy Thuc)、レー ヴァン ソン(Le Van Son)、グエン ヴァン ハイ(Nguyen Van Hai)、ター フォン タン(Ta Phong Tan)、グエン ヴァン リー(Nguyen Van Ly)、クー フイ ハー ヴー(Cu Huy Ha Vu)、ディン ダン ディン(Dinh Dang Dinh)、ホー ティ ビック クゥオン(Ho Thi Bich Khuong)、ヴィー ドゥック ホイ(Vi Duc Hoi)の各氏です。日本は、ベトナムに対し、憲法に記された人権関連の文言を現実化させる、司法改革プロセスに着手するよう促すべきであり、例外規定に基づいてこうした人々を迫害するべきではないと伝えるべきであります。国民の基本的人権を否定するため、現在頻繁に用いられる条文には、刑法88条と258条があります。これらは、各々反国家的プロパガンダや民主的な自由の濫用の罪の条文で、政治的な動機やねつ造された容疑に基づいて、国民を投獄するために用いられています。状況改善に向けた一歩として、ベトナムはこれらの条項を直ちに廃止あるいは改正し、国内法を、市民的及び政治的権利に関する国際規約などの国際人権基準に適合させるべきです。なおこの取り組みは、言論および表現の自由の推進と保護に関する特別報告者との協議の下で行われるべきです。

インドネシア

スシロ・バンバン・ユドヨノ大統領は、信教の自由と寛容の拡大を公に訴えています。しかしインドネシア国内の宗教的少数者への暴力と差別の増加に対して、現政権の対応は依然不十分です。その他の領域での懸念として、NGO活動に新たに課せられた過剰な規制、女性の権利を侵害する地方政令の激増、インドネシアに到着した多数の難民と移住者(保護者のいない子どもを含む)への人権侵害などがあります。

日本は2012年のインドネシアに対する国連普遍的定期的審査の際に、信教の自由と宗教的少数者の問題を取り上げ、インドネシアは更なる対策の実施を合意しました。しかし、信教の自由のモニタリングを行う、ジャカルタのセテラ研究所によると、宗教的少数者への暴力事件が2012年には264件、2013年1月から10月には243件発生しました。日本は、インドネシアに対し、宗教的少数者への暴力行為と差別の増加への対応に注力するよう、さらに強く求めていただきたくお願い申し上げます。

暴力事件の多くは、スンニ派のイスラム主義活動家の犯行によるものです。標的とされるのは、キリスト教徒、スンニ派以外のイスラム宗派(アフマディーヤ、シーア、スーフィーなど)などです。一例を挙げると、2013年6月20日に、800人以上のイスラム主義者が現地当局に大挙して押しかけ、マドゥラ島サンパンの競技場に避難するシーア派住民数百人を追い出すよう迫る出来事がありました。この住民は元々、スンニ派住民1,000人以上の襲撃により住居を破壊され、1人が殺害された事件を受けて、2012年8月から避難していたのです。この行動を受けて、このシーア派住民は、3時間離れた東ジャワ州シドアルジョ県に政府が用意した1棟の建物に、車で強制的に移動させられました。宗教省はシーア派住民の「監督」を行い、シーア派住民をスンニ派に強制改宗しています。

日本は、女性の権利を侵害する政令の激増に懸念を表明すべきと思料いたします。2013年8月、インドネシア政府が設置する女性に対する暴力委員会は、中央政府と地方政府が合計342件の差別的な法令を成立させたと発表しました。たとえば、女性のヒジャーブ着用を義務づける地方政令が79件存在します。このうち60件以上が2013年に施行されたものです。

ビルマ

2011年3月の新政権発足以来、ビルマは重要な、しかしいまだ脆弱な、政治・経済・社会改革を経験する一方、深刻な組織的人権侵害も依然存在しています。一連の改革について、日本は国際社会の中でもきわめて積極的なドナー国かつ投資家であるにもかかわらず、改革プロセスが基本的な権利と自由を保障していないことについて、批判的な見解を公けに表明することには依然躊躇しています。日本は、ビルマに対し、無国籍状態にあるアラカン州のムスリム住民ロヒンギャ民族を対象とした、現在も続く人権侵害を停止するよう強く求めることを、優先して行うべきと思料いたします。同州では、2012年の暴力事件を受け、現在も18万人が土地を追われています。一部の事件は、民族浄化と人道に対する罪に該当するものです。また日本政府はビルマに対し、現地での人道上の危機に対処するよう促すべきです。日本は、ムスリムであるロヒンギャ民族の状況を改善し、国籍法を改正してロヒンギャ民族への差別に終止符を打ち、2014年の国勢調査への完全参加を保障するよう、ビルマに求めるべきであります。日本には、ASEAN諸国と連携し、人道危機が悪化する前に、ビルマ政府と共同して対処する機会がございます。日本はまた、ビルマ北部でのカチン民族を対象とした人権侵害の終結に向けた行動も優先すべきです。現地では2011年から2013年の武力衝突により、推計10万人の民間人が、きわめて限られた人道援助しか受けることができず、紛争の全当事者による侵害行為からの人権保護もきわめて不十分な状況に置かれています。

また日本は、ビルマに対し、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のビルマ事務所の設置を許可するよう求めるべきであります。テインセイン大統領が2012年に示した公約ですが、2013年現在もまだ履行されていません。この事務所は、ビルマで進行中の人権侵害のモニタリングと報告を行う上で、また人権の促進と保護を行う、政府の人権メカニズムと市民社会の取り組みが共に実現することを支援する上で、重要な役割を果たすものとなります。

日本はJICAを通じて、経済の中心地であるラングーン郊外のティラワ経済特区に投資を行っていますが、本件ではこの2年間係争が起きています。日本側当局者は全当事者の意見を聞くよう善処しているにもかかわらず、ビルマ側当局者は、プロジェクトにより移転対象となる農民に対する脅迫を強めています。日本は、ビルマ政府に対し、ビルマ全土で内外の投資家によって行われる、インフラ整備、開発、農業、天然資源採掘プロジェクトで発生する広範な強制移住に見舞われた住民を保護するよう、さらに強く求めるべきであります。これらは進行中の人権侵害にかかわる大きな国家的問題です。日本は、ティラワ開発計画について、場当たり的で人権侵害を伴う違法な立ち退きから、地域住民の権利を保護すべく支援を行う義務を再認識させる警鐘として捉えるべきと思料いたします。

ビルマでの司法改革には依然むらがあり、権利を保障するとして最近成立した法律のなかには、実際には、土地の権利、抗議する自由、報道の自由、商業開発などについて、地方当局の権力の恣意的な濫用に資するものが存在します。2013年のビルマでの政治囚釈放は賞賛に値するものですが、まだ60人が獄中にあるほか、250人が平和的な集会や行進を行ったとして立件されています。テインセイン大統領は、2013年中にすべての政治囚を釈放すると公約しました。日本は、日ASEAN首脳会議の場を利用して、ビルマ政府に対し、全政治囚釈放の公約を果たし、新たな世代の活動家を投獄している、政治的な動機に基づく逮捕と起訴の繰り返しに終止符を打つよう、求めるべきと思料いたします。

タイ

外交・政治・経済・社会文化面での緊密な結びつきは、日本政府に対し、タイ政府と人権問題を率直に遠慮なく協議する上で、大きな影響力を与えています。我々は貴政権に対し、公的な場での声明と2国間の外交的接触を通して、この影響力を行使するよう促すものであります。

インラック政権が、2004年から2011年の政治的暴力事件と汚職で有罪となった全員を対象とする、包括的な恩赦法案を成立させようとしたことで、バンコクでは街頭での衝突が新たに発生しました。10万人以上の野党支持者が、11月から12月にかけてデモを行い、少なくとも4人の死者と200人以上の負傷者を出す衝突へと発展しています。新たな暴力事件の発生の影で、過去の暴力事件の責任者は処罰を免れています。2010年の政治的な対立と暴力事件では、日本人写真家の村本博之氏ら90人以上が少なくとも死亡し、2,000以上が負傷しました。2010年の犠牲者の大半は、兵士による不必要な、または過剰な致死力の行使でした。しかし「赤シャツ」と呼ばれる反独裁民主戦線(UDD)の一部も、兵士や警察、民間人への武装襲撃の責任を追っています。日本は、タイ政府に対し、政治的な対立に関連した殺害などの人権侵害への恩赦実施に反対することを明確にした上で、政治的な所属や立場に関係なく、権利侵害に責任がある全員を起訴するよう促すべきであります。

タイ国内では、表現の自由の権利への規制が依然続いています。数千件のウェブサイトが不敬の疑いがあるとしてブロックされており、日本発のオンライン・メッセージ・サービスで、たいへん人気のあるLINEは、タイ当局の監視対象とされています。刑法の不敬罪とコンピュータ犯罪法により、タイ当局は、君主制に批判的とみなした個人を訴追しています。不敬罪に該当する内容を検閲しなかったウェブ管理者や雑誌編集者も同様です。不敬罪違反で起訴されると保釈が認められず、裁判まで何か月も拘禁されることがしばしばです。また多くの場合、有罪判決が下されると判決はきわめて重いものとなります。日本はタイ政府に対し、こうした恐怖と検閲の風潮を終わらせるよう求めるとともに、タイに対して不敬にかんする法律を改正し、国際人権基準と適合させるよう促すべきであります。

最後に、日本はタイに対し、難民と難民申請者を保護すると共に、全員に対して、国際基準に適合する、公正な難民認定プロセスへのアクセスを保障するよう、強く求めるべきです。日本は、タイに対し、1951年の難民条約と1967年の選択議定書に署名批准し、難民の地位を定める国内法を成立させるよう促すべきと思料いたします。

タイ当局は、ロヒンギャ民族を乗せ、ビルマとバングラデシュからやって来る船舶を、停船の上で送還することを繰り返しています。これにより2008年から2009年にかけて、数百人が死亡したとの訴えは無視されています。2013年1月以来、タイ当局はロヒンギャ民族2,000人以上を「不法移民」としてその場で拘束しました。家族は分離されました。女性と子どもは政府のシェルターに収容され、男性は、人員過密で資源も不足する入管収容施設に送られたのです。収容施設では、男性は大きな檻に似た小さな房に、ぎゅうぎゅうに詰め込まれており、座る場所もないほどでした。2013年10月以降、収容されたロヒンギャ民族は、タイ入管局によりラノーンへ移送され、「自発的」退去の書類にサインしてビルマに送還されています。しかしこの書類は、ロヒンギャ民族が読むことも理解することもできない、タイ語で書かれたものです。さらにかれらはビルマに送還されるのではなく、人身売買業者に引き渡されて、人里離れた森のなかのキャンプで拘束されています。マレーシアに移送する料金を工面するまで、殴打や拷問が行われています。

日本はタイに対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の「庇護希望者の拘禁及び拘禁の代替措置に関して適用される判断基準及び実施基準についてのガイドライン」に従うことを勧告すべきであります。同ガイドラインは、原則として、子どもを含む難民申請者は拘禁されるべきではなく、地域に留まり、一時的保護の下で労働し、生活することを許可されるべきだとしています。日本は具体的な援助を提供した上で、タイ当局に対し、UNHCRと緊密に協働するよう強く求めるべきであります。UNHCRは、難民の地位に関するスクリーニングを行う技術専門家を有しており、難民と無国籍者を保護するマンデートも担っています。

フィリピン

ベニグノ・アキノ大統領は6年の任期の後半に入りますが、現政権は人権にかんするコミットメントの多くをまだ果たしていません。政府は、超法規的処刑、拷問、強制失踪などの深刻な人権侵害事例の調査、訴追を促進するとの公約を大きく前進させるには至っていません。アキノ氏が2010年に大統領に就任して以降、超法規的処刑は著しく減少したものの、政治的動機に基づく殺害はしばしば報告されており、都市部での「暗殺団」による軽微な犯罪者の処刑が依然続いています。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、総理が2006年と2007年に、当時のアロヨ大統領に対して、超法規的処刑について公的に懸念を表明した事実を評価しております。しかしこの3年で、超法規的処刑で訴追が行われたのはわずか2件であり、その2件にしても、重要な被疑者が訴追を免れています。左翼活動家や環境運動家への嫌がらせと暴力は続いています。ジャーナリストの殺害は最近増えており、2013年に限っても殺害された報道関係者は10人に上ります。

日本は、フィリピンとの間で、超法規的殺害の問題を引き続き取り上げ、フィリピン政府に対し、こうした人権侵害事例の不処罰を終わらせるよう強く求めるべきであります。具体的には、日本はフィリピンに対し、アキノ大統領が201211月に設置した、超法規的処刑にかんする省庁横断型委員会を完全に機能させるよう、強く求めるべきです。この委員会は、特定の事案の調査と訴追を促進し、迅速化することを任務としています。日本は、アキノ大統領に対し、フィリピン国軍に明確な命令を出し、左翼活動家を攻撃対象とすることを止めさせ、過去の攻撃に関与した兵士と将校について捜査を行うよう求めるべきであります。日本は、アキノ大統領に対し、大統領命令第546号の取消を命じることも強く求めるべきです。これは前大統領が布告したもので、地方自治体に民兵組織の武装化を許可するものです。我々は、貴政権が、アキノ大統領に対し、民間人軍地域部隊(CAFGU)、CAFGU特殊補助部隊(SCAA)、市民志願者組織(CVO)など、人権侵害を重ねてきた準軍事的組織と民兵組織の解散を命じるべきことを強調するよう促すものであります。これらの組織には多数の人権侵害の責任があります。

マレーシア

2013年5月5日の総選挙では、与党・国民戦線が議席を減らしながらも政権を維持しました。以来ナジブ・ラザク首相は、主要な人権改革を後退させる一方で、市民的・政治的権利の行使を続けてきた反対勢力の迫害を強めています。たとえば、現政権は長らく無視されてきた1959年の犯罪防止法を持ち出し、これを改正して、司法審査の対象とならない「犯罪者」とされた人物への最長2年の行政拘禁規定を再び設けることで、適正手続きを損なっています。日本はマレーシアに対し、同法の改正を取り消し、国際人権基準に適合する犯罪行為についての法律を成立させるよう促すべきであります。

マレーシア政府は、政治的な動機に基づき、野党指導者アンワル・イブラヒム氏に対し、まったく信用性のない「ソドミー」容疑での裁判を続けています。ちょうど数日後のことですが、12月11日にアンワル氏は再び出廷します。無罪判決に対し検察側が上訴したためです。日本はマレーシア政府に仲介をはたらきかけ、司法長官室に対して上訴を取り下げ、アンワル氏の裁判を終結させるよう促すべきであります。さらに、日本はマレーシアに対して、ソドミー法を廃止して、強かんを犯罪とするジェンダー中立的な法に置き換えるとともに、性的指向と性自認(ジェンダーアイデンティティ)に基づく差別を行う政策や法律を全廃するよう促すべきと思料いたします。

マレーシアでは5月の総選挙後も、集会・結社の自由の権利に対する正面からの攻撃が続いており、勢いを取り戻した野党の政治活動家と市民活動家が、その被害を受けています。少なくとも43人が平和的集会法違反で起訴されています。抗議行動の10日前までに警察に届けなかったことが理由ですが、国際的な人権基準から見ると過剰な要件です。このほか、暴力を呼びかけていないにもかかわらず、公共の場での演説や論評を理由に扇動法違反で立件された野党活動家がいます。かれらは、国際的に認められた表現の自由の権利の下で保護されるべきです。日本はマレーシアに対し、ナジブ首相が総選挙前に行った扇動法違反撤廃の公約を履行するよう、強く求めるべきと思料いたします。

最後に、国連人権理事会のメンバー国にもかかわらず、マレーシアの国際人権文書の批准状況は極端に悪く、東南アジアでも最悪の部類に入ります。日本はマレーシアに対し、主要な国際人権条約を批准するとともに、国連人権理事会の特別手続に基づいて活動する、国連特別報告者を正式に招致するよう勧告すべきと思料いたします

シンガポール

シンガポールは、表現の自由と報道の自由への規制を著しく強化しています。従来は、政府による著しい干渉を受けない形での運用が許可されていたインターネットのニュースサイトに、過剰な規制が課せられています。6月に、政府は、政府が設定する基準を満たしたウェブサイトについて、5万米ドル(500万円)分の国債の提出と一年毎の免許更新を要求するようになりました。さらに、「公益」「公安」「国家の調和」という曖昧な定義の概念に違反すると、政府が一方的に判断したコンテンツを削除するとの要件も課されています。11月下旬、メディア開発局(政府のメディア監視機関)は、ブレックファースト・ネットワーク(www.breakfastnetwork.sg)に対し、同局への登録を命じ、このサイトが「その準備、管理、稼働のすべて、あるいはいずれかについて、外国からの資金提供を受けない」ことを明確にするよう求めています。日本は、インターネット上の表現の自由を阻害する規制を実施することについて、シンガポールに憂慮を表明し、同国に対し、6月に導入した規制を取り消すよう促すべきであります。

シンガポールでは、「司法を当惑させる」との古めかしい容疑を用いて、同国の裁判所に触れた論評を押さえ込むケースが増えています。この法に基づいて何が違法行為となるかは、政府の判断に委ねられており、今年当局は、LGBT活動と社会活動を行うアレックス・オー(Alex Au)氏と、フェイスブックで活動する風刺画家レスリー・チョウ(Leslie Chew)氏を起訴しています。日本はシンガポールに対し、同国の刑法に記載されたこの犯罪を無効とし、司法の判断を分析批判する国民の権利を尊重することは、公正で透明な司法手続にとってきわめて重要なものであることを認めるよう、強く求めるべきであります。

シンガポールは、2009年の公序法を用いて、政府が指定するホンリム公園内の「スピーカーズ・コーナー」以外での集会やデモ行進を規制し、多くの場合不許可にしています。さらに、結社登録所が実施するきわめて制約的な規制により、10人以上の団体は結成時に政府の承認をとることが求められています。日本はシンガポールに対し、表現と公共の集会の自由についての国内法と規制を見直し、国際基準に見合ったものにするよう促すべきであります。マレーシア同様、シンガポールも国際人権条約の批准状況や、国連人権理事会の下で活動する特別報告者への協力の現状ははかばかしくなく、日本政府はこれら2つの領域で著しい改善を求めるべきと思料いたします。

ブルネイダルサラーム

10月に、絶対君主であるハサナル・ボルキア国王は新しいイスラム刑法(シャリーア)を公布しました。これにより姦通に対する石打ち刑、窃盗に対する四肢切断等の刑罰などが導入されます。こうした処遇は、国際法の基準によれば、残虐な、非人間的な、または品位をおとしめる刑罰にあたります。日本はブルネイ国王に深刻な懸念を表明し、この決定を取り消すよう促すとともに、ブルネイ刑法が国際人権基準に完全に適合的であることを保障するよう求めるべきであります。イスラム刑法は2014年に施行予定で、ムスリムのみに適用されるとはいえ、ムスリムはブルネイの人口の約3分の2を占めております。

我々には、ASEAN加盟国の人権状況について、そのほかの情報やより詳しい情報を提供する用意がございます。我々の見解をご検討いただき心より感謝申し上げます。

敬具

ヒューマン・ライツ・ウォッチ  アジア局  局長  ブラッド・アダムス

ヒューマン・ライツ・ウォッチ  日本代表     土井 香苗

                

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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