(ヨハネスブルク)-ジンバブエの挙国一致内閣は、今年予定される総選挙の前に、治安部隊が党派を超えた専門家集団として責務を果たすよう、自らの改革を断行すべきである。
報告書「もう見て見ぬふりはできない:ジンバブエ総選挙前の治安部門再編成」(全44ページ)は、ジンバブエの軍や治安部隊が、ロバート・ムガベ大統領と与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)を支持する立場から同国の政治や選挙に干渉し、ジンバブエ国民の表現や結社の自由の権利および投票の権利を妨げてきた実態を詳述している。2008年6月の大統領選挙決選投票はとりわけ顕著で、軍は殺人・暴行・拷問を含む広範な人権侵害を犯した。それ以降、軍、警察、そして国内公安機関である中央情報機構(CIO)の改革は実施されず、公然とムガベ大統領を支持してきた。
「治安部隊の幹部指導者までが、ムガベ大統領に敵対しているとみなした者を脅迫し攻撃するようでは、ジンバブエ国民は間近に迫った選挙を信頼することはできないだろう」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ・アドボカシーディレクターのティセケ・カサンバラは指摘した。「本当に意味のある選挙にしたいのであれば、挙国一致内閣は治安部隊の手綱を締め、政治に関与しないよう行動を起こさなければならない。」
2009年9月に挙国一致内閣が発足して以来、何人もの軍高官がムガベ大統領およびZANU-PFへの支持を公に表明する一方で、野党・民主改革運動(MDC)の指導者、モーガン・ツァンギライ首相を見下す発言をしてきた。最近では5月1日にオーグスチン・チフリ警察庁長官が治安部隊改革に関し、ツァンギライ首相と話し合いをすることは有り得ず、本件について報道したり、取り上げたりするようであれば逮捕される危険を冒すことになると公言した。
5月4日には、ジンバブエ国防軍司令官のコンスタンチン・チウェンガ大将も、治安部隊改革についてツァンギライ首相と会談するつもりはない、と国営週刊新聞サンデーメールに対し述べた。「我々には裏切り者と会う時間などない。ツァンギライ首相は明らかに精神病患者なのだから、有能な精神科医に診てもらわなければならない」と話した。
治安部隊幹部による政治的に偏った発言は、現場の治安部隊要員の振る舞いにも反映されている。警察は5月7日、独立系新聞であるジンバブエ・インデペンデント紙の編集者のドゥミサニ・ムレヤ氏とチーフレポーターのオーウェン・ガガレ氏を逮捕した。これは同紙が、ツァンギライ首相が各治安部隊の責任者と会談した、と伝える記事を掲載した後のことだった。警察は2人を8時間拘束して取り調べた上、刑法(成文法および改革法)に基づき、「国家に悪影響を与える虚偽の声明を出版あるいは伝達した」容疑で起訴した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、ジンバブエ国軍が兵士を同国全域に派遣し、MDC支持者あるいは政府に批判的であるとみなした者に、脅迫や暴行他の人権侵害を加えている事実を明らかにした。軍は時に、食糧配給や学校事業、さらには「軍の歴史調査プロジェクト」の名目を利用し、様々な地元コミュニティに入り込んでいる。
新憲法に関する国民投票の翌日であった3月17日、制服を着用した武装兵士5人が、ミッドランズ州ムベレンガ地方のマタガ・グロース・ポイントにいたMDC支持者の1人に近づき、国民投票で賛成票を投じたか教えるよう要求した。そのMDC支持者はヒューマン・ライツ・ウォッチに以下のように語った。
「憲法草案に賛成の投票をしたって言ったら、次になんでMDCのTシャツを着ているのかって聞いてきたんだ。だけど、それに答える間もなく、わたしの体中を殴ったり蹴ったりし始めた。そして、今度の選挙ではZANU-PFに絶対入れろ、入れなかったらまた戻ってくるからな、って言ったんだ。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ジンバブエ東部に位置するマニカランド州のブヘラ、ニャンガ、チピンゲ、ムタレ、ミッドランズ州のゴクウェ、ムベレンガ、同州クウェクウェ地方のシロベラ村とゾンベ村、ジンバブエ北東部に位置する東マショナランド州のマロンデラ地方、チブフ町、ウズンバなどの各地で、人権侵害が犯されたとの報告を入手し取りまとめた。
「ジンバブエの法律と憲法は、治安部隊要員に中立性と公平性を保つよう義務付けているが、それに従う姿勢を全く見せていない」と前出のカサンバラは述べた。「政府は、政治的理由で法律に違反した治安部隊関係者を、懲戒処分にするとともに訴追し、明確なメッセージを発する必要がある。」
挙国一致内閣は、アフリカ南部15ヶ国で構成される南部アフリカ開発共同体(SADC)の支援を得て、ジンバブエ治安部隊の政治的中立性を確保するため緊急に措置を講じるべきだ。
さらに政府は、治安部隊要員による人権侵害疑惑を捜査・起訴する必要がある。指導部に対しては、プロ意識を持ち公平に責務を果たすことを公に指示し、従わない場合は適切に処罰しなければならない。
「SADCは、同国における信憑性のある自由で公正な選挙に向けた道のりにおいて、治安部隊改革を柱とするべきである」とカサンバラは指摘した。「次の選挙は、同国にて長年続く人権上の危機の終焉に向けた、重要な一歩なのだ。」