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(本文英語、日本語訳)

100-8968 東京都千代田区永田町1-6-1  内閣官房

内閣総理大臣 安倍晋三 殿

ラジャパクサ スリランカ大統領 訪日について

拝啓

ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティー・インターナショナル、反差別国際運動(IMADR)は、2013年3月12日から15日にかけて来日予定のスリランカのマヒンダ・ラジャパクサ大統領と総理との会談において、スリランカの劣悪な人権状況について大統領に懸念を伝えると共に、日本政府に懸念を公表していただきたく本書簡をお送りさせていただいております。

「タミル・イーラム・解放のトラ(以下LTTE)」との内戦の最終局面であった2009年及びそれ以降のラジャパクサ政権下での人権状況は惨憺たるもので、人権侵害は不処罰のまま放置され、報道機関や市民社会、反体制派・野党勢力などが活動できる民主的スペースは、極めて狭くなっております。国連事務総長の専門家委員会(Panel of Experts)及びスリランカ政府の「過去の教訓・和解委員会(以下LLRC)」の双方が、国際人権法違反そして国際人道法違反が数多く行われたという信頼性の高い報告を行っているにも拘わらず、スリランカ政府は、徹底した捜査・訴追を全く行っておりません。

スリランカ政府のこれらの問題に対処する意思の欠如を受け、国連人権理事会は2012年3月、決議を採択。スリランカ政府に対し、LLRCの勧告を実施するよう求めました。スリランカ政府は2012年7月、LLRC勧告を実施する旨の「国家行動計画」を公表したものの、LLRC勧告の一部にしか対処せず、アカウンタビリティ忌避を利益とする機関にその実施を委ねている現状です。従って行動計画はこれまで全く人権状況の改善をもたらさないでいるばかりか、不処罰を終わらせる措置にも一切繋がっておりません。

スリランカ政府が法の裁きやアカウンタビリティにまったく対応しない事態に鑑み、私どもは、内戦の最終局面数ヶ月の期間に内戦の両当事者が犯した国際人権法及び国際人道法違反の独立した国際調査を行うよう求めて参りました。

内戦中の重大な人権侵害に対する法の裁きとアカウンタビリティの欠如

ご存じのとおり、スリランカ軍は2009年5月、何万もの犠牲を出した26年にわたる内戦を終結させてLTTEを壊滅させました。しかしこの内戦の間、両当事者とも国際人権法及び国際人道法への重大な違反に手を染めました。

2011年4月に公表された国連専門家委員会の報告書をはじめ、ヒューマン・ライツ・ウォッチやアムネスティ・インターナショナル、反差別国際運動(IMADR)などの独立したグループが、内戦の際に政府軍とLTTEが戦争犯罪などの重大な人権侵害を行ったという信頼性の高い報告を行っております。しかしながらスリランカ政府当局はこれまで、内戦が終結直前の数年間に行われた重大な人権侵害に対して、何らの刑事訴追も行わず、事実上の全面的不処罰が続いております。

スリランカ政府が、法の裁き実現に向けて一切の行動を起こさない実態を鑑み、国連人権理事会は2012年3月、スリランカの和解とアカウンタビリティに関する決議(A/HRC/19/L.2/Rev1)を採択しました。同決議はスリランカ政府に対し、法の裁きとアカウンタビリティに対する法的義務を果たすと共にLLRC勧告実施に向けた包括的行動計画を早急に示し、更に国際法違反疑惑に対処するよう求めると共に、国連人権高等弁務官事務所をはじめとする国連の人権関連の高官に対しスリランカがこうした措置を講じるのを支援するよう促す内容となっております。

残念ながら、本決議の採択にもかかわらず、スリランカ政府は、法の裁きとアカウンタビリティを確保するための重要な措置を一切とっておりません。2013年1月に公表された2012年国家行動計画のアップデートによれば、政府はLLRC勧告の実施に向け措置を講じたとしておりますが、何らかの有意義な取組みを行ったという証拠は全くございません。ジュネーブで開催された国連人権理事会での発言でスリランカ政府代表は、2006年1月にトリンコマリー(同国北東部の港湾都市)で起きた学生5人の殺人事件と、2006年8月にムトゥール(トリンコマリーが面する湾の対岸)で起きた援助関係者17人殺害事件の捜査に関して政府は大きな進展を果たしたと述べましたが、これらの件についてもいかなる進展があったのかを示す証拠は全く提示されておりません。スリランカ政府代表は捜査の進展を文書で明らかにしないばかりか、国連人権理事会決議は平和と和解に悪影響を及ぼしていると根拠もなく主張し、国際社会を脅迫するに等しい態度を取っております。

アカウンタビリティを求める声に対し、スリランカ政府はこれまで捜査を実施するという対応ではなく、疑惑自体を否定するという態度に終始してきました。例えばヒューマン・ライツ・ウォッチは2013年2月26日に報告書(https://www.hrw.org/node/113790)を公表し、タミル系の被拘禁者が政府治安部隊の手によって性暴力などの拷問をされた事件を75件も(内戦終結以降の事件を含む)調査して詳述しましたが、スリランカ政府の対応といえば、全疑惑を否定するだけでした。ヒューマン・ライツ・ウォッチはLTTEを批判する調査報告を長い間行って参りましたが、政府は当団体をLTTEの同調者であると公然と示唆し、その旨を国防省のウェブサイトにも発表しております。国民の福祉に真に関心を寄せる政府であれば、単に疑惑を全否定するのではなく、公平な観点から捜査するべきであります。

2012年における人権状況の悪化

残念ながら2009年の内戦終結はスリランカ政府による重大な人権侵害の終焉を意味せず、状況は昨年を通じてますます悪化しました。ラジャパクサ政権は、立法部門と司法部門に対する支配を強化する一方で、民主的スペースを侵害してきました。スリランカ政府は2012年後半の最高裁の政府提案法案に対する違憲判断を受けて、長官の弾劾を画策し最高裁の独立性を事実上剥奪しました。政府支持派議員が大半を占める議会委員会で行われた弾劾審理は適正手続きの担保に疑惑があり、最高裁判所も控訴裁判所もこれに憲法違反の判断を行っております。しかしラジャパクサ大統領はそれらの裁判所判断を完全に無視し、内戦時の人権侵害に対するアカウンタビリティを否定する発言を続けてきた自らに、政治的に近い人物を新たな最高裁長官としたのです。

安倍政権が提起した外交政策「日本外交の新たな5原則」の重要原則である思想と表現の自由は、スリランカで今も侵害され続けています。2012年3月の国連人権理事会決議への支持を表明したNGO活動家や人権活動家を、政府と国営メディアは公然と脅迫。国賊のレッテルを貼り、氏名と顔写真を公表しました。決議への支持を表明した活動家を公然と脅迫した閣僚のメルヴィン・デ・シルバ大臣に対しても、政府は何らの措置も取っておりません。

スリランカ政府は2012年、政府に批判的論調のニュース・ウェブサイトを少なくとも5つ閉鎖すると共に、全てのウェブ上のメディアサービスに煩雑な登録義務と料金を課しました。多くのニュース・ウェブサイトは、検閲を避けるために中継サーバーを海外に移しております。当時サンデイ・リーダー紙の編集者だったフレデリカ・ヤンス(Frederica Jansz)氏は、ゴタバヤ・ラジャパクサ国防次官がスイスから子犬を引き取るために政府専用機の飛行ルートを変更したことを批判した昨年7月、国防次官から脅迫されたと報告しています。

独立系のNGOのメンバーや、人権活動家、ジャーナリストなどが脅迫・威嚇・嫌がらせなどの被害にあったという報告が相次いでおり、特に同国北部と東部でこれが顕著であります。私どもはこの地域で、監視され恐怖のなかで住み、働き、移動せざるをえないと訴える多くの人の声を聞いてきました。人々はシンハラ語を話す要員が大部分を占める治安関係機関に人権侵害の訴えを行うことを恐れており、進行中の人権侵害の不処罰が続いています。人権活動家たちは、安全を確保しつつ被害者からの聞き取り調査を行うことは極めて困難である結果、人権状況の調査報告そのものが不可能であると訴えています。

日本政府への提案

アカウンタビリティに関する国連人権理事会での昨年の決議をスリランカ政府が実施しようとしない実態--- のみならずスリランカにおける人権状況の改善にむけて一切の有意義な行動をとらない現状--- に鑑み、法の裁きとアカウンタビリティの実現に関し真摯な進展を実現するための唯一の方法は、内戦の両当事者による国際人権法及び国際人道法に対する重大な違反疑惑に対して、国連人権高等弁務官事務所が独立した調査を行うことを求める国連人権理事会決議を採択することであると思料いたします。

ナビ・ピレイ人権高等弁務官は2013年2月に報告書を公表、内戦中の人権侵害はもちろん現在進行中の人権侵害疑惑も捜査しないスリランカ政府を批判しました。政府が昨年一年を通じてこの問題に有意義な対応をしなかったことを理由に、この国連報告書はスリランカにおけるアカウンタビリティ問題について独立した国際的調査を行う必要があると提言しています。

米国は既に、2013年国連人権理事会でスリランカに関する決議を再度提案する旨を公表しております。インド政府もまた既に、その決議を支持する旨表明しております。私どもは、日本政府におかれましても同決議を支持するとともに、その旨を訪日の際ラジャパクサ大統領に伝達されることを強く要望いたします。

加えまして、安倍首相におかれましてはラジャパクサ大統領に対し、スリランカ政府が表現・集会・結社の自由の権利を尊重すること、司法権はもちろん国家人権委員会などの機関の独立性を回復すること、そして国連専門家委員会やLLRC、国連人権高等弁務官事務所の報告書で提言された勧告を速やかに実施することを求めていただきたく、ここに強く要望する次第です。

ラジャパクサ大統領そして同政権は、国際社会の行動は不当であり正義は「国内で育成」されるべきもの、と主張しています。この主張に対しては、内戦終結以降4年間もの期間、大統領は法の裁きの実現を怠り不処罰を放置してきた事実をご指摘いただくべきと思料いたします。加えまして、2008年の定期的普遍的審査の場で日本政府が強制失踪問題を提起したことを大統領にご指摘していただきたく存じます。スリランカ政府は今なお続く強制失踪事件に関し、誰も訴追をしていないのみならず、改善に向けた行動をとっておりません。更に、2012年の定期的普遍的審査で勧告された、国連の強制的・非自発的失踪に関する作業部会による同国訪問の依頼に従うことも拒否いたしました。スリランカ政府はこれらの問題について自ら行動を起こす意思はなく、曖昧な約束は時間稼ぎと国際社会の行動の機先を制すための手段に過ぎないのは明白であります。

私たちどもは、安倍首相が従前総理大臣でいらっしゃった当時の麻生太郎外務大臣が、スリランカ外務大臣との会談の際に、人権の懸念を提起されたことを高く評価するものであります。麻生外相は人権問題に対する国内の関心の増大に言及された上で、治安悪化は民間部門の投資と観光客数の減少をもたらすと共に、経済協力に悪影響を及ぼす可能性があるのでスリランカ政府が事態に適切に対処するよう望んでいる、と発言されました。

しかし残念ながら、内戦の終結はスリランカ政府治安部隊による重大な人権侵害の終焉には繋がりませんでした。一国の政府が自らの国民のために正義を実現することを怠る場合には、関係国や影響力を有する国が問題解決のために行動を起こすことが肝要であります。日本政府はスリランカ政府に対する最大の援助国であり、すべてのスリランカ国民のための正義の実現と人権尊重の改善に向けて指導的役割を担うことができる稀有な立場にございます。

ご都合の宜しい時間がございましたら、本件について面会させていただき、さらなる意見交換をさせていただけましたら幸いでございます。

敬具

ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表 土井 香苗

アムネスティ・インターナショナル日本 事務局長 若林 秀樹

反差別国際運動(IMADR) 事務局長 原 由利子

CC: 外務大臣 岸田文雄 殿 

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