Skip to main content
寄付をする

インド:性暴力に関する新大統領令を否決すべき

人権を尊重した 性暴力取締法が必要

(ニューデリー、2013年2月12日)-間もなく行われるインド議会予算委員会は、性暴力を取り締まる刑法改正を大幅に修正するか、完全に差し替えるべきである。アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは同日、このように述べた。プラナーブ・ムカジー大統領は2月3日、インド中の人権団体や女性の権利団体の反対を押し切って、刑法を改正する2013刑法(改正)令に署名した。

国際人権法が反映され、近時設立されたばかりのヴェルマ委員会の主要勧告を盛り込んだ性暴力対処法こそ必要だ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ南アジアディレクター、メナクシ・ガングリーは「本大統領令は、性暴力に関するインドの植民地時代の法をようやく改正している。しかし、重要な人権保護規定や被害者にとって重要な救済規定が欠けている」と指摘した。「インド議会は、こうした重要な課題にしっかり対処できる法律の必要性を強く求めるべきである。」

ニューデリーで23歳の女性が集団レイプされ、死亡した昨年12月の事件以来、インドでは性暴力を取り締まる刑法改正に関して国を上げての議論が巻き起こっている。政府は、性暴力を取り締まる法律を強化する改革の検討に向け、元最高裁長官J.S.ヴェルマ氏を委員長とする3名の委員で構成される委員会を設置した。同委員会は、警察の説明責任および性暴力を、女性の身体的統合性への権利の侵害と捉えることなどの勧告を行ったものの、残念ながら新たな大統領令は、これらのヴェルマ委員会の主要勧告を無視した内容となっている。

アムネスティのインド支部事務局長G.アナンサパドゥマナブハンは「いかなる法律もその成立の前に議会でしっかりと議論がされるべきであり、ヴェルマ委員会の勧告の主要部分やインドの女性団体の意見を無視するべきではない」と述べた。

大統領令には、国際的な人権基準を満たしていない部分がある。具体的には、国際人権法に沿って、あらゆる性暴力を適切な刑罰で処罰するとしていないこと、曖昧で差別的な規定があること、性暴力行為の一部に死刑を適用していることなどである。また大統領令は、治安部隊メンバーが性暴力に問われても事実上の法的免責を維持している。性交の同意年齢を引き上げているため、ティーンエイジャーへの支援どころか、不利益を与える内容となっている。しかも「人身売買」の定義は、成人間の同意に基づく性労働と同一視している。

定義上の懸念

大統領令には、性暴力から女性を十分に保護していない定義も含まれている。大統領令は、時代遅れで差別的な考え方をとどめている。その結果、性暴力を女性の身体的統合性への権利を侵害する犯罪としてではなく、女性の「慎み深さ」に対する「侮辱」や「辱め」と定義している。こうした定義上の問題は、ジェンダー差別を含むあらゆる法律を改正するというインド政府の国際法上の義務に違反している。

大統領令は「性暴力」の定義を、人体に他の者の人体の一部或は物体を挿入する性犯罪を含むとしており、挿入と非挿入それぞれの犯罪によって生じた損傷を区別していない。たとえば、他人の胸を触る行為に対し、挿入を伴う性犯罪と同じ刑罰が規定されている。

夫婦間レイプへの認識不足

大統領令は、配偶者の有無で女性を差別するとともに、法の下の平等な保護を否定している。修正刑法第375条では、「別居を命令された、あるいはその他の慣習のもとで別々に生活している」という極めて狭い事由の例外を除いて、妻は夫を「性暴力」で訴えることができない。

インド政府は、女性の性的自立に関する権利を女性の平等権の一部として支持する各条約に批准するとともに各宣言を支持してきた。その中には、女性が、強要・差別・暴力を受けずに性交をするか否かを自由に決定する権利も含まれる。インドの刑法は、あらゆる状況下における夫婦間レイプからの保護を規定すべきだ、と上記の人権2団体は指摘する。

重罰化問題

大統領令は、性暴力の結果として被害者が死亡するか「永続的な植物人間状態」となった場合、また明らかな累犯者が性犯罪行為を行った場合、死刑を導入している。

アムネスティとヒューマン・ライツ・ウォッチは、死刑は最も残虐で非人道的かつ品位を傷つける刑罰であり、かつ生存権を侵害するとして、あらゆる状況下での死刑に反対である。死刑は取り返しのつかない不可逆的な刑罰であり、世界中の過半数の国がこれを廃止している。

インド議会は、刑罰に焦点を当てるのではなく、性暴力がしっかり告発・捜査・訴追されるようなシステムの改革を行うべきである。

警察と軍に対する免責

大統領令は、性暴力事件において警察と軍を超法規的扱いにしたままである。現行の刑事訴訟法及び他の特別法のもとでは、警察と治安部隊は、それぞれを監督する政府機関が訴追を承認しない限り、たとえ性暴力を犯しても訴追されない。政府機関が承認をすることはまずなく、そのため、重大な人権侵害を行った警察や兵士は事実上免責されている。

ヴェルマ委員会は、軍特別法(Armed Forces Special Powers Act)などの不処罰を可能とする法律を撤廃するよう勧告した。警察官や軍人を訴追するためには面倒な法手続きが必要であるため、インド北東部、ジャムカシミール、毛沢東主義の影響下の地域などでのレイプ被害者に、つねに法の不正義が行われてきた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのディレクター、ガングリーは「インド法は、性暴力などの人権侵害を行う警察や軍に対し特権を与えるべきでない」と指摘する。「公務員を裁判にかけるために政府の許可を得なければならない現状は、性暴力の被害者に対する法の下の正義を果たす上で大きな障害となっている。」

性交の同意年齢

2012年の性犯罪児童保護法(Protection of Children from Sexual Offences Act)は、性交同意年齢を16歳から18歳に引き上げた。ヴェルマ委員会は、インド刑法上のこの年齢を16歳に戻すべきであると勧告した。

インド法は依然として、ある年齢未満の者が、自分で同意の意思表示ができない子ども又は未成年者と性的関係は、犯罪化すべきだとしている。しかし同法は、未成年者が自らの性行為を決定する能力の発達と成熟度、および性行為者間の年齢差も考慮すべきである。

また、不適切な刑罰は撤廃しなければならない。法制度は、未成年者が知識と責任を持って性的な関心・欲望・行為に対応することができるように支援するべきであり、保護すべき未成年者を処罰対象とするべきではない。

同意に基づく成人の性労働を「人身売買」とする危険

新たな大統領令は改正刑法第370において、「人身売買」罪を、成人による同意に基づく性労働と同一視している。

大統領令は「人身売買」を、ある個人が「搾取」を目的に、強制・脅迫・詐欺・拉致・誘導・暴行などによって、「個人又は複数人を採用・移動・収容・譲渡或は譲り受ける」行為として新しく定義している。しかし大統領令は、「搾取は売春や他の性的搾取を含む」と明示し、さらに「被害者の同意は、人身売買罪を構成するか否かの判断に影響しない」と付け加えている。強制売春は犯罪とするべきであり、かつ、犯罪への同意を被告人の有利に解釈するべきではない。しかし、この規定の文言は、成人が自分の意思で性労働に従事した場合をも、強制売春の「人身売買」と同一視する危険がある。

同意に基づく同性愛行為を犯罪とする問題

大統領令は、成人間の同意に基づく同性愛行為を犯罪とする刑法第377条を撤廃していない。デリー高等裁判所は2009年、成人間の同意に基づく同性愛行為を犯罪とするのは、憲法が保障する平等権、差別を受けない権利、人としての尊厳とプライバシーを持って生きる権利を侵害すると判示している。

新たな大統領令には、以上のような重大な欠陥がある。したがって、アムネスティとヒューマン・ライツ・ウォッチは、インド議会に対し、現状の大統領令を否決するよう求めるとともに、内閣に対し、刑法を修正する改正案を提出するよう強く求めた。

アムネスティのアナンサパドゥマナブハン事務局長は、「欠陥だらけの大統領令を承認するのではなく、内閣は間近に迫った予算委員会で、ジェンダーに基づく暴力、とくに性的暴力に対処するよりよい総合的法案を提出すべきである」と指摘した。「議会は市民社会団体と意味のある協議を行い、新法が国際基準に沿うようにするべきである。」 

GIVING TUESDAY MATCH EXTENDED:

Did you miss Giving Tuesday? Our special 3X match has been EXTENDED through Friday at midnight. Your gift will now go three times further to help HRW investigate violations, expose what's happening on the ground and push for change.
地域/国