北朝鮮:国連調査委員会=United Nations Commission of Inquiry

に関するQA

 

なぜ北朝鮮に関する調査委員会(Commission of Inquiry=以下COI)が必要なのですか?

北朝鮮では悲惨な人権状況が続いています。組織的で深刻な人権侵害が広範に行われている北朝鮮の人権状況は、世界に類をみない独自のカテゴリーに分類されるとさえ言えます。

北朝鮮では人権が日常的に否定されています。指導者の交代も、人権面に一切変化の兆しをもたらしませんでした。国連の北朝鮮の人権問題に関する特別報告者のマルズキ・ダルスマン氏は、2012年の国連総会への報告書で、経済的、社会的、文化的諸権利の剥奪という深刻な問題を抱える北朝鮮において金正恩氏が「優先事項の第1、第2、第3番は軍の増強である」と宣言したことに当惑したと述べています[1]。2012年に国連人権理事会は初めて、同国での人権状況は「恒常的に悪化している(persisting deterioration)」と明言しました[2]

北朝鮮政府は自国民の諸権利を組織的に侵害し続けています。北朝鮮国民の多くが国家から食料を収奪されるとともに、集団的懲罰(連座制)や強制労働を強いられ、基本的人間性を否定された非人道的環境の強制犯収容所に閉じ込められている人は20万人以上に及びます。前特別報告者のヴィティット・ムンタボーン[1]氏は2010年の最終報告書で、北朝鮮における人権状況を世界に類をみない「独自のカテゴリーだ(sui generis)」とし、「悲惨で恐ろしい(harrowing and horrific)」と断定、「当局が責任を負うべき一般国民への言語道断な人権状況が蔓延している(egregious and endemic)」[3]と明言しました。

北朝鮮政府は、政府や関係機関に拉致・失踪させられた外国人数千人の人権も侵害してきました。北朝鮮は拉致のほとんどを否定し、全被害者の帰国に向けた諸外国政府

との協力も拒んできました。推計85,000人の韓国人が朝鮮戦争の際に拉致され、行方不明のままとなっています。被害者は皆一般市民であり、殆どが1950年7月から9月の間、北朝鮮が韓国を占拠していた際に拉致されました。朝鮮戦争の停戦が署名された以降も、3,835人の韓国人が拉致されています。その約86%が帰国していますが、およそ517人は未だに行方不明[4]です。日本政府が認定した拉致被害者は17人ですが、被害者団体は日本人拉致被害者の数は100人程度、あるいはそれよりずっと多い可能性もあると指摘しています。北朝鮮政府が日本人13人の拉致を認めてから既に10年が経過したものの帰国したのはその内5人だけとなっています。一方、北朝鮮政府は拉致問題は解決済みと表明しており、問題解決に向けた進展は見られません。

北朝鮮政府はほぼ10年にわたり、人権問題への協力と改善を求める国連などからの度重なる要請を無視し続けています。

  • 北朝鮮政府は国連への協力を再三怠ってきました。国連人権理事会及び国連総会が、北朝鮮国内の人権状況に関して採択したあらゆる決議も、断固拒否してきました。
  • 朝鮮民主主義人民共和国における人権状況に関する特別報告者が2004年から任命されるようになりましたが、北朝鮮政府は特別報告者を承認せず、会談などのあらゆる協力も拒否しています。そして、国連人権理事会の特別報告者任命そのものも拒否するという姿勢を繰り返し表明しています。2012年3月に行われた国連人権理事会の第19回会期の際、北朝鮮大使は、特別報告者の報告を「敵対分子によって捏造された」「無用な解釈」とレッテル貼りして否定しました。
  • 北朝鮮政府は2003年以来、国連人権高等弁務官事務所からの技術援助の提案を全て拒否しています。
  • 国連の普遍的定期的審査(UPR)[2]における北朝鮮の審査の過程で報告された人権侵害を、北朝鮮政府はすべて一括して拒否し、人権侵害の申し立ては「事実の歪曲や捏造」若しくは、「母国を裏切った者が捏造した誤情報に基づく[5]」北朝鮮の人権状況に対する否定的な評価に基づいたものだと主張しました。

 

なぜ調査委員会(COI)は変化をもたらせるのですか?

調査委員会(COI)は人権侵害を徹底的に調査します。調査を行うのは、国連に任命された独立性の高い優秀な専門家グループです。専門家グループは事実を明らかにし、人権侵害行為にいかに対処すべきかを勧告します。国連調査委員会が取りまとめた事実は、公表されると共に国連に正式に提出されます。調査委員会は真実を世に知らせ、声なき被害者の声となるとともに、人権侵害行為に対するアカウンタビリティ(説明責任と責任明白化)を押し進めます。

 

国連で「北朝鮮に関する特別報告者」が任命されていますが、さらに調査委員会も必要ですか?

被害者たちの声を聞くべきです。
 
国連は2004年、北朝鮮の状況をモニターするため、「北朝鮮の人権侵害に関する特別報告者」を任命しました。以後、国連特別報告者は定期的な報告書を作成し、北朝鮮政府による人権侵害とその不処罰を非難してきました。特別報告者の報告書は、北朝鮮の一般的な状況に光をあてましたが、事態はあまりに深刻なのでより詳細な調査が必要です。調査委員会設立により更なる資金・要員が振り向けられるとともに政治的コミットメントが高まり、人権侵害の具体的内容、被害者の消息、アカウンタビリティ(説明責任と責任明白化)の必要性などについて、もっと詳細が明らかになるでしょう。調査委員会は、北朝鮮でおきている重大な事態に相応しい国際社会の関心とコミットメントをもたらし、今日まで北朝鮮での人権侵害へ全面的な調査に足りない限られた資源しか振り向けられてこなかった特別報告者の取組みをより一層強化することができるのです。
 
国連は、今こそ北朝鮮による無数の人権侵害を調査して世に問うべきです。そして、被害者の苦しみとの人権侵害の実相を明らかにすべきです。
 
国連は、北朝鮮政府によって行われている組織的な人権侵害を詳細に調査するために、調査委員会を設立するべきです。調査委員会は、北朝鮮政府が被害者らに対して犯した人権侵害を詳細に調査して文書化し、人権侵害のパターンを分析し、不処罰問題の核心に切り込むべきです。調査委員会は、数十年にわたり人権侵害の解決と犯罪者の責任追及を怠ってきた北朝鮮政府の実態を調査して明らかにするとともに、新たな対策を勧告します。

 

北朝鮮に関する調査委員会は何をするのですか?

  • 調査委員会は北朝鮮政府が行った重大な人権侵害を詳細に調査します
  • 調査委員会は数十年も続いてきた北朝鮮での人権侵害と不処罰に対する国際社会の関心を高めるでしょう。調査委員会は、被害者、その家族、生存者(サバイバー)、目撃者などの証言をはじめとする、入手可能なすべての情報を収集します。調査委員会の報告書は、北朝鮮における組織的な人権侵害の詳細に関する世界で最も権威ある文書となるでしょう。
  • 調査委員会は、北朝鮮政府によって行われた人権侵害に法的な分析を詳細に加えた上で、国内レベルならびに国際レベルで取るべき具体的な手段を勧告できます。北朝鮮に関する特別報告者も指摘したとおり、北朝鮮政府が行った人権侵害には、「人道に対する罪」に該当する犯罪もあるのです[6]
  • 人道に対する罪から自国民を守るのは、第一義的にはそれぞれの国家の責務です。しかし、重大な人権侵害の被害者には、北朝鮮国内で救済を申し立てる手立てが一切ありません。しかも、不満を表明しようものなら報復されます。その結果として北朝鮮では不処罰がまん延しているのです特別報告者は。2010年、国家権力が「アカウンタビリティを推し進める能力がない又はその意思がない」[7]以上、国際社会が国家の責任および/または個人の刑事責任を追及すべきである、と指摘しました。北朝鮮政府当局によって行われ続けている人権侵害に対し国際社会は行動を起こさなくてはなりません。調査委員会は、いかなる方法で行動を起こすべきかを検討・勧告できるのです。
  • 調査委員会は、現在進行中の人権侵害を世界に対して可視化して示すことができます。そうすることで、ジャスティス(公正・正義)を求める被害者たちを側面支援し、人権侵害の加害者に事前警告を発するのです。そして、これ以上の人権侵害を止めて改革を推進しようという取組みに対する大きな推進力となるでしょう。

 

どうすれば、国連で北朝鮮に関する調査委員会を設立できますか?

  • 20132月から3月にかけての国連人権理事会(於 ジュネーブ)の会期は、調査委員会を設立するチャンスです。その会期で日本政府は、EUの支持を得て、例年どおり北朝鮮決議案を提出するとみられます。
  • 決議の主要な提案国である日本政府とEUは、リーダーシップを発揮して2013年に調査委員会を設立すると提案すべきです。
  • 特別報告者の活動と重複するのを避けるため、日本政府とEUが共同提案する決議は、北朝鮮政府による広範、組織的な重大人権侵害を調査するため、現特別報告者であるマルズキ・ダルスマン氏が率いる調査委員会を設立するよう呼び掛けるべきです。また、十分な調査をして人権理事会に報告できるよう、日本政府とEUは、調査委員会に十分なリソース(資金・要員)が必要だと求めるべきです。

 

なぜ今なのですか?

今であれば、北朝鮮の調査委員会を設立する決議が確実に採択される情勢です。これは国連史上初めてのことです。

国連人権理事会は理事国47カ国[8]で構成されており、この47カ国が各会期で決議を採択する権限を持っています。採択の方法は単純多数決制です。

過去、国連人権理事会における北朝鮮の年次決議に対する支持は、以下の表のように増加

してきています。

採択年

決議

賛成票

反対票

棄権

2008

Res 7/15

22

7

18

2009

Res 10/16

26

6

15

2010

Res 13/14

28

5

13

2011

Res 16/8

30

3

11

2012

Res

全会一致

             
             

 

国連人権理事会で決議を採択するには、賛成票の数が反対票の数を超えなければいけません。2013年に人権理事会の理事国になる47ヶ国中、28ヶ国が2010年以降、国連内の北朝鮮に関するあらゆる決議に対して一貫して賛成票を投じて来ており、一方、一貫して反対票を投じて来たのはベネズエラ1ヶ国だけとなります。その他の国は、棄権或いは賛成と反対が入り混じった投票行動をとっています。人権理事会が調査委員会を設立する方向で決議を強化するからといって、一貫して賛成票を投じてきた政府がその投票行動を変えるとはほとんど考えられません。

以上の根拠から、効果的なアドボカシーが行われれば、北朝鮮に関する調査委員会(COI)を設立する決議が、賛成多数で採択される可能性が濃厚です。2012年の北朝鮮に関する決議が全会一致で採択されていることからも、この可能性は一層高いといえるでしょう[9]。2012年、キューバ政府は過去に取って来た行動と決別して投票を求めませんでした。伝統的に北朝鮮政府の強力な支持者であり続けているロシア政府と中国政府も同様でした。中国、キューバ、ロシアは2013年には人権理事会の理事国ではなくなる予定です。ベネズエラ(人権理事会で北朝鮮を一貫して支持し続けてきた唯一の政府となる)のような国が投票を求めない限り、再び全会一致で決議が採択される可能性があります。

 

国連の高官たちは、どんな立場なのですか?

  • 特別報告者は2010年、北朝鮮政府にはアカウンタビリティ(説明責任と責任明白化)を果たす能力又は意思がないと指摘し、国際社会が行動を起こすよう提言しました。国際社会がとれる行動の選択肢の一つが「人道に対する罪に関する調査委員会を設立する(establishing a Commission of Inquiry on crimes against humanity)」ことだと特別報告者は明らかにしています[10]
  • 2012年11月2日の国連総会への声明で、特別報告者は、甚だしい人権侵害がこの数十年の間に調査・報告されてきたと述べ、「北朝鮮の事実調査を行うより詳細な仕組みの設立を検討するよう(consider setting up a more detailed mechanism of inquiry for North Korea)[11]」、国連に求めました。
  • 国連人権高等弁務官は、北朝鮮にもっと関心を払う必要性を強調しました。2012年10月18日にジュネーブで行った記者会見の席上で人権高等弁務官は、北朝鮮などの世界の中でも特に無視されてきた現実に「もっと光を当てる」と約束しました。

 

北朝鮮が調査委員会への協力を拒否したら、どうなりますか?

北朝鮮政府が長年国連の人権メカニズムを無視し続けてきた歴史からすると、国連の調査委員会に協力するとは考えられません。しかし非協力は調査委員会の活動を妨げません。今日、北朝鮮政府による数千に及ぶ人権侵害の被害者が北朝鮮国外、特に韓国で生活しています。こうした人びとが、調査委員会に証言をし、過酷で組織的な人権侵害の実態について語ればいいのです。調査委員会は、情報を収集してきた被害者家族など、被害者自身以外の情報源からも証拠を入手できます。また、調査委員会は、北朝鮮の衛星映像その他の信頼できるデータを利用することも可能です。そして、拉致問題も調査委員会の焦点のひとつとなりますが、北朝鮮機関員に拉致され北朝鮮に拘束された韓国人や日本人、タイ人などの拉致被害者家族から聞き取り調査を行うことも可能です。

北朝鮮が協力を拒否するからといって、国連が北朝鮮における「人道に対する罪」の調査を行わないなどということがあってはなりません。対象国政府の協力がないままに調査委員会(COI)や同様の国連調査機関が設立され、徹底的かつ効果的な調査が行われた例は複数あります。たとえば、対象国が協力を拒否した最近の例として、シリアに関する調査委員会、2008年ガザ紛争に関するゴールドストーン調査団、スリランカに関する国連事務総長専門家委員会などがあげられます。

国連は人権侵害を調査して文書化し、加害者と対峙すべきです。声なき被害者の声を代弁すべきなのです。


 

[1]国連総会、北朝鮮の人権状況に関する特別報告者の報告書、マルズキ・ダルスマン、A/67/370、2012年9月13日、パラグラフ50。

[2]国連人権理事会、朝鮮民主主義人民共和国における人権状況、決議19/13、A/HRC/RES/19/13。

[3]国連人権理事会、北朝鮮における人権状況に関する特別報告者の報告書、ヴィティット・ムンタボーン、A/HRC/13/47、2010年2月17日、パラグラフ86及びパラグラフ8。

[4]2012年8月公表、北朝鮮の人権問題に関する「韓国統一研究所(Korean Institute for National Unification)」白書。

[5]国連人権理事会、普遍的・定期的審査作業部会報告書、朝鮮民主主義人民共和国、A/HRC/13/13、2010年1月4日、パラグラフ89。

[6]国連人権理事会、北朝鮮の人権状況に関する特別報告者の報告書、ヴィティット・ムンタボーン、A/HRC/13/47, 2010年2月17日,パラグラフ60、国連総会、北朝鮮の人権状況に関する特別報告者の報告書、マルズキ・ダルスマン、A/67/370、2012年9月13日、パラグラフ38。

[7]国連人権理事会、北朝鮮の人権状況に関する特別報告者の報告書、ヴィティット・ムンタボーン、A/HRC/13/47、2010年2月17日、パラグラフ58。

[8]アンゴラ、アルゼンチン、オーストリア、ベニン、ボツワナ、ブラジル、ブルキナファソ[3]、チリ、コンゴ、コスタリカ、コートジボワール、チェコ共和国、エクアドル、エストニア、エチオピア、ガボン、ドイツ、グアテマラ、インド、インドネシア、アイルランド、イタリア、日本、カザフスタン、ケニア、クウェ-ト、リビア、マレイシア、モルジブ、モーリタニア、モンテネグロ、パキスタン、ペリー、フィリピン、ポーランド、大韓民国、モルドバ共和国、ルーマニア、カタール、タイ、シエラレオネ、スペイン、スイス、ウガンダ、アラブ首長国連邦、アメリカ合衆国、ベネズエラ。

[9]国連総会も2012年、北朝鮮に関する決議を、国連総会第3委員会で全会一致で採択した。2012年12月の総会投票でも全会一致で採択される可能性が高い。

[10]国連人権理事会、北朝鮮の人権状況に関する特別報告者の報告書、ヴィティット・ムンタボーン、A/HRC/13/47、2010年2月17日、パラグラフ58。

[11]国連総会、北朝鮮の人権状況に関する特別報告者の報告書、マルズキ・ダルスマン、A/67/370、2012年9月13日、パラグラフ13。