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中国:ビルマに強制送還されるカチン難民

紛争、人権侵害、援助不足で数千人が危険な状態に

(ニューヨーク)- 中国は、カチン難民数千人をビルマ北部に強制帰還させる措置を停止すべきだ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。ビルマ側のカチン難民は武力紛争、ビルマ国軍による人権侵害と援助不足により、危機的な状況に置かれている。

2012年8月19日からの1週間で、中国当局は少なくとも1千人のカチン難民を強制的に帰国させた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、中国がこのほか難民4千人をまもなく国外退去させる予定との情報を得た。帰還させられた者の大部分はあまりに危険で元の村には戻ることができず、ビルマ国内の紛争地域で避難民となる見込みである。

「中国は、ビルマ国軍による人権侵害が多数発生する戦闘継続地域にカチン難民を強制帰還させることで、自国が負う国際法上の義務に背いている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ難民局長のビル・フレリックは述べた。「中国はただちに方針を変更し、雲南省の難民に一時的保護を提供すべきだ。」

8月19日の週に送還されたカチン難民は、2011年6月以来生活してきた、中国側にある10以上の仮設キャンプでの滞在延長を拒否された。2012年7月、ビルマ北部と国境を接する雲南省の当局者がカチン難民を訪問し、中国は滞在の受入れをやめるので、ビルマに帰国するようにと伝えた。

雲南省当局者と直接やりとりをした地元のカチン民族人道援助要員はヒューマン・ライツ・ウォッチにこう述べた。「[中国側]当局者がこのことを難民に話す時に私もキャンプに行きました。当局者は『私たちは皆さんがここで生活することを許容できません。1年以上にわたって滞在を認めてきましたが、もう限界です。帰国してください』と述べました。」

中国政府は、ビルマでの紛争に関わる人権侵害から逃れ、雲南省に避難した7千~1万人のカチン民族に滞在を認めてきたが、一時的保護や支援は提供してこなかった。国連や国際人道援助機関による支援が強く求められているにもかかわらず、中国政府は難民へのアクセスを認めていない。ビルマに帰還した人びとは国内避難民キャンプでの生活を余儀なくされるが、十分な支援はなく、現在も国連機関からのアクセスはない。ビルマ政府が当該地域への人道的アクセスを認めていないからだ。

雲南省にいる多数の難民はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、中国当局による強制送還を恐れていると語った。2011年8月、ジンルン出身のある難民(25)はヒューマン・ライツ・ウォッチにこう述べた。「ここにいてはまったく安心できません。国境地帯にいることは変わりがないし、ビルマ側に近すぎます。戦闘が続くだけに気がかりです。もし中国政府が私たちの滞在を拒否すればどこにも行き場はありません。どこで生きていけというのでしょう。この問いには答えがないだけに不安です。」

6月15日に雲南省に逃れた女性(36)は「私たちは中国側がビルマ側より安全だと考えています。だからこちらに来たのです」と話している。ジンルン出身の大工(29)はこう付け加える。「みんな村に戻りたいのです。しかし何が起きるかも、いつになったら戻れるのかもわかりません。私たちは今すぐ帰れるのならばそうします。しかし今は危険なのです。」

反政府組織のカチン独立機構(KIO)は、帰還促進で中国当局に協力した。8月22日は難民数百人がバスに乗せられ、カチン州のKIO支配地域の一つマイジャンから数キロの仮設キャンプに移動した。難民の所持品はトラックで運ばれた。このほか数百人がビルマ政府支配地域のナムカム近郊に移送されたとの情報が、カチン民族人道援助要員筋からヒューマン・ライツ・ウォッチに伝えられた。KIOは難民に対して、KIO支配地域かビルマ政府支配地域のどちらに戻るかのオプションを提示した。そして難民が政府支配地域に戻ることにするならば、KIOによる保護は保証できないと警告した。KIOも中国当局も中国に引き続き滞在するという選択肢は提示しなかった。

KIOはカチン州の支配地域に新しいキャンプを建設中だが、数は依然不足している。少なくとも1つのケースでは、新規到着者が身を寄せるのは、伐採会社が以前使っていた廃屋だ。強制帰還は雨季のさなかに行われ、輸送や人道援助の配布は困難だ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2012年6月に、報告書「雲南省での孤立:中国雲南省のビルマ・カチン難民」(68ページ)を発表し、7千~1万人のカチン難民と庇護希望者が、雲南省に設置された衛生状態の悪い即席のキャンプに滞在しており、中国当局の規制により国際的な人道援助がほとんど届かない状態にあるとの考察を明らかにした。難民の大部分はビルマ国軍による強制労働・殺害・強かんなど、戦時下での人権侵害やその恐れから逃れてきた。

カチン州には国内避難民キャンプが85か所以上存在し、約7万5千人の住居となっているが、人道援助は十分に行き届いていない。このうち、KIO支配地域にある16か所ほどのキャンプには、すでに少なくとも5万5千人のカチン民族が滞在する。食糧が不足しているキャンプもある。

KIO支配地域内のキャンプには、安全保障上の懸念を口実としてテインセイン大統領側が課す規制のために、国連機関が一切アクセスできない。地元のカチン民族主体の組織がこの穴を埋めるために、限られた資源を用いて衣食住と医療を提供している。国連機関やその他の援助団体からの支援は、政府支配地域にある70か所のキャンプに滞在する避難民に定期的に提供されているが、資源が限られており、援助への妨害もあるためにここでも不十分な量に留まっている。

「ビルマ国内のキャンプにさらに数千人のカチン難民が加わることで、カチン州の国内避難民が直面する危機はさらに悪化する」とフレリックは指摘する。テインセイン大統領は援助団体に対し、支援を必要とするあらゆる人々へのアクセスを直ちに認める必要がある。」

背景

2011年6月、ビルマ北部カチン州にある中国が建設する水力発電ダム付近で、ビルマ国軍とカチン独立軍(KIA)との戦闘が発生した。この戦闘により、17年の停戦合意は崩れ、75,000人以上のカチン民族が土地を離れることを余儀なくされた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ビルマ国軍が2011年6月以降にカチン民族の住む村を攻撃し、家を破壊し、財産を略奪した時の様子を記録している。ビルマ国軍兵士は、尋問では民間人への脅迫・拷問を行い、カチン民族の女性を強かんし、対人地雷を使用し、わずか14歳の子どもを含む住民を徴用して前線などで強制労働にあたらせた。

土地を離れたカチン民族に対する保護はビルマでも中国でも不十分だ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは2011年に、中国当局がカチン難民約300人に対してビルマ側への強制帰還を命じた2件の事例など、ルフールマン(追放・送還)に該当する事例を複数記録した。中国当局が国境でカチン民族の保護希望者の越境を拒否し、紛争地帯への帰還を強要する事例も、戦争開始時点から存在する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2011年6月以来中国に入国したカチン民族に「難民」という用語を適用する。すべてがカチン州で起きている武力紛争と人権侵害を逃れた人びとであり、もしカチン州に帰還させられれば生命に対する深刻な脅威に直面するだろうからだ。中国政府は、1951年難民の地位に関する条約と1967年議定書だけでなく、難民と保護希望者を保護する、その他の国際人権条約の締約国でもある。難民条約は「難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ」強制送還することを禁じている。ノン・ルフルーマン原則は難民保護の要であり、中国政府の難民に対する法的義務の基本である。 

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