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フィリピン:アキノ政権2年 人権侵害は不処罰のまま

治安部隊による殺人と“強制失踪”容疑 有罪に至らず

(ニューヨーク)-フィリピンのベニグノ・アキノ3世が大統領に就任して2年。しかし、重大な人権侵害を犯した治安部隊の責任を追及するという公約は未だに果たされていない、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。アキノ大統領就任以来に起きた事件も含め、超法規的処刑や強制失踪に関してアキノ政権下で有罪判決はひとつもない。

2010年6月30日の就任演説でアキノ大統領は、すべての人びとに真実と完全なる「法の正義」を実現する取り組みを開始すべく、司法省に“進軍命令”を出した。その5カ月後の人権記念イベントでも、「かつてを支配していた沈黙、不正、不処罰の文化は過去のものとなった」と宣言。更に2011年の施政方針演説では、「我々は、真の裁きが立件をもってしてではなく、罪人の有罪判決によって完遂するのだということを知っている」と繰り返している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレイン・ピアソンは、「アキノ大統領は、重大な人権侵害の責任者に裁きを下すという公約を果たしていない」と述べる。「今必要とされるのは更なる約束ではなく、実質の伴う具体的措置である。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、ビデオ「フィリピン:法の裁きを求める強制失踪の被害者」を発表。同ビデオ中で「失踪した」人びとの家族が、法の裁きの実現という公約を果たすよう大統領に求めている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2011年に、報告書「正義の不在続く被害者の苦しみ」を発表。アキノ大統領就任以降に発生した、10件の超法規的処刑と強制失踪事件を調査し、取りまとめた。これらの事件の容疑者は未だ誰ひとりとして逮捕されておらず、3人の「失踪者」は行方不明のままだ。

アキノ政権は、近時の重大な人権侵害事件の容疑者を訴追するために必要とされる措置を取っていない。

2010年7月に行った最初の施政方針演説でアキノ大統領は、2010年7月5日に殺害されたアクラン州出身の活動家、フランシスコ・バルドメロの事件に言及し、その他の事件と共に「解決されつつある」と述べた。同事件ではディンド・アンセロ容疑者に逮捕状が発行されたが、逮捕されないまま2011年1月、事件は「保管(お蔵入り)」扱いとなった。

2010年10月1日にネグロス・オリエンタル州で左翼活動家レネ・クィランテが制服姿の男たちに暴行されたうえ射殺される事件がおきた。容疑者2名に逮捕状が発行されたが、うち1名については執行されなかった。クィランテの親族のひとりは、その容疑者を軍の中隊で見かけたと主張している。その親族は今年4月、「どうせ何も起きやしません。裁きを待つのにも疲れてきてしまいました」と話していた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、アロヨ前大統領の政権下で起きた、殺人事件や強制失踪事件の捜査状況を監視してきた。進展があった事件では、警察や検察の積極果敢な取り組みというより、むしろ被害者家族の辛抱強さと勇気により進展がもたらされたといえる。

たとえば2006年に発生した、大学生カレン・カダパンとシェルリン・エンペノの失踪事件では、誘拐と不法拘禁のかどで兵士2名を裁判にかけるにあたって、家族の行動が極めて重要な役割を果たしている。裁判は5月に始まったが、容疑者たちの身柄は文民施設ではなく軍基地で拘束されている。事件発生当時に該当地区の軍指揮官だったホビート・パルパラン退役少将を含む2名も失踪に関与したとされているが、逮捕を逃れた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、軍とビジネス界が同少将をかばっているという情報を入手している。

フィリピンの治安部隊は過去10年の間、何百人もの左翼活動家、ジャーナリスト、聖職者に対する拷問、強制失踪、殺人に関与した容疑がもたれている。一方、共産党の新人民軍ほか反政府勢力もまた、殺人やその他の重大な人権侵害を行ってきた。アロヨ前大統領政権下で政府の治安部隊は、共産党のフロント団体とみなした団体と党員やその支持者とみられるグループを狙う、大規模な作戦を展開していた。アキノ政権下で軍が関与したとされる殺人や失踪の事件数は減少したものの、今もなお同様の事件は続いている。

フィリピンの人権状況は今年5月に、ジュネーブの国連人権理事会における普遍的・定期的審査で精査された。米国、オーストラリア、ドイツ、英国、スペイン、教皇庁を含む数カ国が、殺人、強制失踪、拷問が続いていることに警告を発した。審査の際、一部の国からは、こうした人権侵害の不処罰に終止符を打つべきだという強い意見が出された。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはアキノ大統領に対し、重大な人権侵害の不処罰終焉に求められる抜本的な改革に着手するよう、長年にわたり勧告してきた。アキノ大統領は国家捜査局に、殺人事件に関与したとされる指揮官レベルに至るまでの警察や軍関係者の捜査を命じるべきである。また、政府関係者や警察官によるいかなる犯罪も、断固として追及する責任が警察にはあるということ、もしそれを怠たるようなことがあれば、自らが刑事捜査の対象となることを、大統領は明確にしなければならない。軍に対しては、軍の人権侵害を捜査する文民当局への協力を命令し、協力しない場合は処分すべきである。更に、フィリピンの証人保護制度を独立させ、万人に利用可能とし、十分な予算を割り当てるために早急な措置を講じるべきだ。

前出のピアソン局長代理は、「アキノ大統領自身が指摘したように、人権侵害に関与したとされる個人の有罪判決こそが、彼の公約実現に対する真の試金石だ」と指摘。「ゆえに、単なる容疑者の特定、逮捕状の発行と実際の逮捕、その後の裁判を超える行動が、政府には求められているのだ。」

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