(ニューヨーク)–バングラデシュ政府は、宗派間暴力から逃れてきたロヒンギャの強制送還を停止すべきだ。少なくとも18人のロヒンギャ庇護希望者(幼い子ども3人を含む)が世界難民の日にあたる6月20日に、ビルマに強制送還される危険が迫っている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはバングラデシュ政府に対し、安全な帰還が可能になるまで、ビルマから避難するロヒンギャに人道援助と少なくとも一次的な庇護を提供するよう強く求めた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの難民局長ビル・フレリックは「バングラデシュは、暴力から逃れてきた幼い子どもらの命を、送還によって危険にさらそうとしている」と述べる。「悲劇的に皮肉なことに、バングラデシュは国境を閉鎖し、世界難民の日に強制送還を行うという。本件は、難民保護の基本原則の尊重の必要性が依然あることを思い起こさせるものだ。」

6月18日、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、バングラデシュ沿岸警備隊が、ロヒンギャ140人以上を乗せているとみられる9隻の船を、港町シャフ・ポリル・ディプの突堤からビルマの領海に曳航し、送還するのを目撃した。6月19日の送還作業は悪天候のため延期された。バングラデシュ国境警備隊と警察も最近バングラデシュ領内に入ったロヒンギャを逮捕・送還しているが、その人数は不明だ。

バングラデシュ政府当局は、越境した庇護希望者の送還を行い、国際法に違反している。

バングラデシュは、国際法上の義務を履行し、ビルマでの暴力を逃れるロヒンギャの送還をやめなくてはならないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。少なくとも18人の庇護希望者が直ちに強制送還されかねない状況に置かれており、その他の人も将来送還される恐れがある。この18人には、バングラデシュ沿岸警備隊が身柄拘束中の、子ども3人のいる5人家族1世帯も含まれる。子どもの一人は新生児のサンラム(「闘い」の意味)ちゃんで、一家が拘束された後の6月13日頃、バングラデシュ側のセント・マーティン島で生まれた。この世帯はビルマのアラカン(ヤカイン)州の州都シットウェーから避難した模様だ。同じ船に乗っていた人びとは既にビルマに送還された。この他にも少なくとも13人がバングラデシュ国境警備隊により身柄を拘束中とみられる。

前出の難民局長フレリックは「バングラデシュ政府が船を送還すべきではないのはもちろんだ。しかしそれよりひどいのは、流血の事態が続く地域に子どもを送還しようとする政府の対応だ」と述べる。「同国はビルマからの避難民に一次的庇護を提供し、海外からの人道援助を受け入れるべきだ。」

バングラデシュ政府は難民の地位に関する条約(1951年)と議定書(1967年)のいずれの当事国でもないが、拷問等禁止条約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、子どもの権利条約など、難民と庇護希望者に保護を提供する国際条約の締約国だ。これらの条約と国際慣習法は、各国にノン・ルフールマン原則を尊重する義務を定める。ノン・ルフールマン原則とは、難民はその生命または自由が脅威にさらされる恐れのある場所に送還されてはならず、何人も拷問を受ける恐れがある場所に送還されてはならない、とする原則である。

拷問等禁止条約第3条は、いかなる人についても、その人が拷問を受ける恐れがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国には送還してはならないと定める。国連子どもの権利委員会は、各国に対して、ある子どもが、取り返しのつかない危害を受ける現実的な危険があると信じる実質的な根拠がある国に、その子どもを送還してはならないと定めている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはバングラデシュ政府に対して、独立した人道援助団体に国境地帯への自由で制約のないアクセスを許可するよう重ねて求めた。他方、各国政府は、難民への人道援助などの支援を行うと共に、ロヒンギャの国籍問題を解決し、恒久的な解決を図るようビルマ政府に強く働きかけるべきだ。ロヒンギャはビルマ国民と認められておらず、これまで長年にわたりビルマ政府による迫害と差別の対象となってきた。

アラカン州の仏教徒とムスリムとの間には、悲惨な暴力事件が6月3日に発生。治安部隊はロヒンギャに発砲・射殺したが被害者数は不明だ。また双方の暴徒が住宅や商店に放火した。6月10日に、ビルマのテインセイン大統領は一帯に非常事態を宣言し、法執行の権限をビルマ国軍に委ねた。

ロヒンギャは過去何十年間にもわたって、ビルマ政府治安当局から、超法規的処刑、強制労働、土地没収、移動の自由の制限などの人権侵害を受けてきた。

「ビルマ治安部隊の過去の行状を踏まえれば、アラカン州の住民、とりわけロヒンギャが深刻な人権侵害に遭う恐れのあることを私たちは強く憂慮する」と前出のフレリックは述べた。