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ビルマ:潘基文国連事務総長のビルマ訪問 

政治囚と紛争下の人権侵害に焦点を

(ニューヨーク)- 潘基文国連事務総長は、いまだ深刻なビルマの人権問題に対処するための真の改革が必要なことを強調すべきだ、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。潘事務総長は2012年4月29日から数日の予定でビルマを訪問し、政治改革、開発、人道援助、難民など様々な問題について政権側と協議を行う。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは潘事務総長に対し、まだ獄中にある政治囚の全員釈放とともに、現在も投獄中の人びとの消息を確認し、報告を行う独立審査委員会の設置、民族紛争地域での人権侵害の停止、国連難民高等弁務官事務所のビルマ現地事務所の設置について、公的かつ私的に強く求めるべきだと述べた。

「潘基文国連事務総長がビルマでの最近の改革の動きに勇気づけられていること自体は正しい。しかし、現在も続いている人権侵害行為を考慮したら、そうした楽観的な見方はできなくなってしまうだろう」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレイン・ピアソンは述べた。「改革プロセスを促すために国連がすべきことは山のようにある。しかし潘事務総長がまず行うべきことには、政治囚全員の釈放と、民族地域での人権侵害行為の停止を求めて強く働きかけることがある。」

「課題は山積している」と潘事務総長は4月24日に報道陣に語った。「未解決の懸念事項が確かに数多く存在している。しかし、明るい未来に向けた同国の歩みを後押しするにあたり、かつてないチャンスが訪れていると確信している」。潘事務総長の最後のビルマ訪問は2009年7月だ。自宅軟禁状態にあった野党指導者アウンサンスーチー氏との面会が許可されず、訪問に「深く失望している」とコメントしていた。

過去1年間に、ビルマ政府は政治囚の大量釈放を行った。これは国連事務総長と国際社会が長年強く求めてきたことだ。テインセイン大統領は計4回の恩赦(2011年5月と10月に各1回、2012年1月に2回)を発表し、推定で政治囚659人が釈放された。いまだ獄中にある政治囚の人数の見積もりにはばらつきがあるが、数百人が現在も獄中にあると見られる。タイに本部のあるビルマ政治囚支援協会(AAPPB)の推計によれば、政治囚473人について裏付けがとれたが、その他465人は未確認のままだ。最大都市ラングーン(ヤンゴン)にある、最近釈放された政治囚が作る団体のリストによれば、現在も445人の政治囚が投獄されている。

ビルマ政府は、他国政府や人権団体が政治囚とみなす囚人のうち120人については、治安関係の罪状や暴力犯罪で有罪となったと主張している。ビルマの不透明で恣意性の高い司法制度の現状を踏まえれば、政治的理由で逮捕された人びとが非公開の審理により一般刑法犯として訴追されることも多く、法的支援も得られなければ、弁論の機会がないことも少なくない。またビルマの裁判官は権力から独立していない。

潘事務総長がビルマ政府当局と協議対象とすべき政治囚には次のような人びとがいる。

・ミンエイ:NGO人権擁護促進ネットワークの共同創設者。2008年に逮捕され、爆発物所持、非合法結社法、入管法違反などの容疑で訴追された。ラングーンのインセイン刑務所内の特別法廷で終身刑を宣告され、現在はカレンニー(カヤー)州ロイコー刑務所に収監中。氏の裁判には重大な瑕疵がある。たとえば弁護人2人は制限的な審理の進め方に抗議したことで法廷侮辱罪とされ、4~6か月の刑を宣告された。

・クンコーリオ(27):カレンニー人の青年活動家。2008年の憲法制定国民投票時にカレンニー州で抗議活動を行ったとして37年の刑を宣告された。現在中央ビルマのメイッティーラに収監中。

・タンゾー(44):学生活動家として1989年に逮捕され、爆弾事件で死刑判決を受けた後、1993年に終身刑に減刑された。収容中の拷問で犯行を「自白」したとされる。民間人にもかかわらず非公開の軍事法廷で裁判が行われた。この法廷は公平な審理に関する国際基準を満たしていない。現在マグウェ管区のタイエッ刑務所に収監中。この爆弾事件を「自白」した別の囚人はタンゾー氏の無罪を証言しており、この人物はすでに釈放されている。

・コーエイアウン:1996年と1998年の学生デモに参加し、59年の刑を宣告された。現在カレー刑務所に収監中。

潘事務総長はビルマ政府に対し、残存政治囚の問題に対処するため、信頼できる機関を設置するよう求めるべきだ。たとえば、国連人権高等弁務官事務所とビルマの民間セクターのほか、ビルマ政府の関係機関などの委員から構成される審査委員会が考えられる。

この審査委員会は刑務所へのアクセス権を持ち、残存政治囚の人数を確定し、有罪判決の理由と裁判の状況を検討し、審査の進展状況について定期的に公表するものとなるべきだ。赤十字国際委員会(ICRC)は2006年以来、政治囚の安否確認に必要な、刑務所への自由なアクセスを許可されていない。

国連事務総長事務所は政治囚問題を強調しない意向があるようだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。ビルマに関する国連事務総長特使ウィジャイ・ナンビア氏は、最近ニューヨーク・タイムズ紙に論説を寄稿したが、そこで示された事務総長のビルマ訪問に関する「4つの主要な懸念事項」に残存政治囚問題は含まれていない。

「1年前、ビルマ政府は政治囚の存在自体を否定していた。そして現在では、うち600人以上を釈放したことの評価を求めている」と前出のピアソンは述べる。「もし政府がこの問題の解決を真剣に望むなら、全政治囚を釈放し、今後の不当な収容を防ぐ仕組みを導入すべきだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた潘事務総長に対し、民族紛争地域での国軍による人権侵害が現在も続いていることに懸念を表明するよう強く求めた。政権側は複数の民族武装勢力と和平交渉を行っているが、民族居住地域では国軍による民間人への残虐行為が行われている。

カチン州では2011年6月以来、国軍とカチン独立軍(KIA)との間で戦闘が続いており、7万5千人が住んでいた土地を離れることを余儀なくされた。うち2万人が政府支配地域、4万5千人が紛争下のKIA支配地域でそれぞれ暮らし、1万人が越境して中国側に逃れた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは今年3月に発表した報告書『語られない悲劇:ビルマ・カチン州での戦時人権侵害と強制移住』にて、この紛争での人権侵害を記録している。

ビルマ国軍は国際人道法違反行為を続けており、超法規的処刑や拷問、性暴力、略奪、虐待的な強制労働の使用、対人地雷の敷設などを行っている。KIA側も子ども兵士と対人地雷を使用している。

今年3月下旬以降、ラングーンにある複数の国連機関はカチン州の避難民に対し、計5回支援物資を送ったが、人道的ニーズの増大には追いついていない。潘事務総長はビルマ政府とKIAに対して、国内外の人道援助機関による当該地域への定期的かつ自由なアクセスを保障するよう強く求めるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

また潘事務総長は、紛争全当事者による民族紛争地域での人権侵害行為について、その申立を調査報告する独立した機構を設置することも要求すべきだ。

「今回ビルマを訪問するにあたり潘事務総長は、改革の公約という外皮の裏側をよく見て、人道的アクセスの制限を含む、紛争地域で今も続く人権侵害問題を取り上げるべきだ」とピアソンは述べる。「ビルマ国内での人権侵害に言及しなければ、国軍内の人権侵害行為に関わる部分や、改革に熱心に取り組まない政権内の妨害分子を勢いづけるだけだ。」 

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