(マニラ)-アジアと中東19ヶ国の労働担当大臣は、移民労働者に対する諸保護策を支持するとともに、市民社会との対話を増やさなければならない、と本日、アジア移民フォーラムとヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。労働大臣たちは、2012年4月17日から19日、マニラで会合を行う。これは、第2回目の「アブダビ対話」の一環である。「アブダビ対話」とは、契約移民労働者に関し、労働力を送る側の政府と労働力を受け入れる側の政府との間で行われる地域間協議である。
会議のテーマは、「アジアにおける労働移動性の管理改善に向けた地域協力の維持」である。主催者は先週、会議の一部を傍聴する市民社会代表への招待の範囲をわずかに拡大したが、会議で発言をすることは認めなかった。市民社会は各国政府への提案を議論するため、この会合に並行した協議プロセスを持つ見込みである。
アジアの200を越える移民労働者権利保護団体で構成する地域ネットワーク、アジア移民フォーラムの地域コーディネーター、ウィリアム・ゴイス氏は「地域的な協力の強化は、移民労働者の権利保護改善にとって必要不可欠だ。市民社会として、私たちは会合で何が起きているのか知りたいし、そのプロセスの一員となって真に参加する機会を求めている」と語る。
各国政府は、国際労働力移動の利益増加に向け、国内的、相互間的、多国間的対策を講じることを各国に求めることを目的とした「アブダビ対話における地域協力に関する2012年の枠組み」作りに向けた草案を議論する見込みである。草案は第一回の対話及び1月に行われた高官レベルの会議でのインプットを踏まえている。今回の会議に向けた準備的書面は、成功事例及び、採用活動・海外での雇用・帰国準備・社会への再統合などの、海外出稼ぎにおける4段階の政府による監督に対する勧告を盛り込んでいる。
現在の草案の枠組みは、人権侵害防止の一助となり、移民による利益を一層発展させる規定を含んでいる。たとえば、採用活動コスト削減、雇用契約基準の向上、採用業者に地域の労働力斡旋業者としての活動に責任を持たせる規定などである。草案は、移民労働者向けの出発前及び移民対象国到着後の情報説明会を開催すること、及び職場の査察と労働法の執行に向け政府が行動を起こすことも勧告している。
草案で示された枠組みは、各国政府に、労働者の技術・資格を向上させる事、労働力の需要と供給のバランスを取る制度を改善させる事、海外で得た経験の価値を認める事も求めている。草案は、最終的には安全で手頃な料金での母国への帰国対策と、移民労働者の貯蓄支援策に関する研究を行うよう勧告している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの女性の権利上級調査員ニーシャ・ヴァリアは「草案の枠組みは、契約移民労働者の採用における搾取と職場での人権侵害を減少させる助けとなるかもしれない建設的な要素を沢山含んでいる。しかし、これらに加えて、草案は、各国政府に、家事労働者を除外している労働法と、労働者たちの雇用主に移民労働者の住所を結び付けて実施されているスポンサーシップ制度のような、人権侵害を引き起こす労働法制と移民政策を改正することも求めるべきである」と語る。
アジア全域の移民労働者団体、非政府組織(NGO)、宗教的倫理に基づいた社会活動団体、労働組合を代表する市民社会団体が、政府間会合と同様の協議プロセスを並行して持つ見込みである。彼らはスポンサーシップ制度の改革や、移民家庭内労働者の総合的な労働保護策を盛り込んだ契約の標準化に向けた勧告と共に、最低賃金の対案であるレファレンス賃金(労働者が公正と考える賃金)の提案や、地域的協力の枠組み作りの草案についても議論する予定である。
移民労働者は、重要な経済的役割を担っている。彼らは受け入れ国の労働需要を満たすと同時に、母国が必要とする収入を供給している。2011年の世界銀行の試算によれば、アジア人移民労働者は、送金により1,910億ドルを母国に仕送りしている。湾岸諸国はとりわけアジア人の契約労働に大きく依存しており、実例を挙げれば、クウェートではクウェート国民2人に対して1人の海外出稼ぎ家事労働者がいると見積もられている。バングラデシュ、インド、パキスタン、スリランカからの移民労働者が、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーンの建設ブームに必要とされる労働力を提供してきた。
しかし、多くの移民労働者は人権侵害に遭う危険性が高いと、アジア移民フォーラムとヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。週休や労働時間制限などの基本的な労働者保護から、家庭内労働者は除外されている。多くの移民労働者は、自らの権利について限られた情報しか持っておらず、仕事に関する詐欺、過大な就職あっせん手数料を原因とする大きな借金、賃金の未払い、危険な労働環境への配置などの人権侵害に遭っている。救済を受けることがままならない状況は、一部の移民労働者が、強制労働や人身売買に巻き込まれる事態が発生していることを意味している。
フィリピンを本拠地とする移民労働者の人権保護団体である、移民労働者アドボカシーセンター代表、エレーン・サナは「地域間協力に向けた枠組みが、移民労働者の人権を全面的に保護する対策を盛り込むよう、アブダビ対話に参加する各国政府は努めなければならない。またそれに向けた進展を監視する基準を備えた、具体的な行動計画も作成しなければならない」と語る。
上述したアジア各国の市民社会団体は、会議参加各国政府に、ILO条約189号「家事労働者のディーセント・ワークに関する条約」及び、「すべての移民労働者及びその家族構成員の権利の保護に関する国際条約」などの、労働と人権に関する国際的な基準を、批准・実施するよう求めた。
アブダビ対話に参加している労働者を送り出している国は、アフガニスタン、バングラデシュ、中国、インド、インドネシア、ネパール、パキスタン、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナムの11ヶ国であり、労働者受け入れ国は、バーレーン、クウェイト、オマーン、カタール、サウジアラビア、シンガポール、アラブ首長国連邦、イエメンの8ヶ国である。日本、マレーシア、韓国もオブザーバーとして参加する見込みである。労働者を送り出している国の地域会議であるコロンボ・プロセスから派生した、第一回アブダビ対話は、2008年にアラブ首長国連邦の主催で開催された。