(ニューヨーク)-本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「シリア治安部隊が、2011年9月7日、ホムス市中央にあるアル・バール病院から、負傷者18名(手術室にいた5名含む)を強制連行した」と、医師など複数の目撃者からの報告に基づいて述べた。治安部隊は同日、同市の複数の場所の負傷者を救出に向かった医療関係者も妨害した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、アル・バール病院の医師2名そして赤十字ボランティア2名から聞き取り調査を行った。シリア政府当局は、負傷した抗議運動参加者が速やかに治療を受けるのを認めなくてはならない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局長サラ・リー・ウィットソンは「手術室から患者を連れ去るのは、生命を危険にさらすのはもちろん、非人道的かつ違法である。必要不可欠な最も重要な医療を人びとから奪うことは、患者に苦しみを与えるのみならず、取り返しのつかない損害をもたらす可能性がある」と語る。

シリア治安部隊は9月7日早朝、ホムスで大規模な軍事作戦を開始。多くの住民が午前6時30分に激しい銃声が始まったのを聞いている。地元活動家たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに、当日治安部隊によって殺害された23名のリストを提供した。国営シリア・アラブ通信SANAは、「テロリストグループ」が治安部隊員8名を殺害したと伝えている。2名の地元活動家によると、9月7日、兵士の一団が脱走し、街中に大量動員されている治安部隊と闘う地元住民の側に加勢参加した。

緊急支援要請を受け、バブ・ドゥレイブ地区に急行したある医師は当時の状況を以下のように話している。

「私はバブ・ドゥレイブに午前8時30分頃着きました。既に3人が死亡し、8人が怪我をしていました。負傷者のうち5人は腹に銃弾を受けていて、入院が必要でしたが、どこの病院にも搬送できませんでした。政府の狙撃兵がこの地区を出て行くあらゆる車に発砲しますし、待機している武装車両が無差別に発砲していたからです。私はモスク内に即席で作った仮設病院で負傷者に手術を施すしかなかったんです。負傷者の数は増え続け、一時18人になりました。最終的にやっとのことで負傷者8人をアル・バール病院に搬送することが出来たんですが、ほとんど自殺覚悟の作戦でしたね。若い男たちが負傷者をピックアップトラックに乗せ、狙撃兵からの銃撃や武装車両からの手当たり次第の発砲を避けて、ただもう出来るだけ速く運転したんです。」

アル・バール病院の別の医師は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、治安部隊がやってきて、負傷者たちを病院から連れ去った様子を以下のように話していた。

「私は午後1時頃病院に到着しました。50人程の治安部隊員が病院を取り囲んでいましたよ。彼らは空に威嚇射撃をしながら、医務長との面会を要求しました。ビラルという人物を探していたんです。医務長は、確かに、ビラルという人物は入院したものの、怪我が原因で死亡し、遺体はすでに家族が引き取ったと伝えたんです。そうしたところ、治安部隊は、その日病院に到着した負傷者リストを要求したんです。その後、治安部隊が、病院内の部屋を見回り、いつ入院したかに関係なく、銃創のある患者を手当たり次第連行していったのをこの目で見ました。治安部隊は、合計18人の負傷者を病院から連行しました。5人は、手術室から連れ出されたんです。うち2名は意識不明だったのに。」

「緊急治療が必要な負傷者を私たちが守ろうとすると、治安部隊は、こいつらは犯罪者で強姦犯だといって、私たちを押しのけたんです。病院から連れ出す際、負傷者を殴っていました。負傷者の母親か姉でしょうか、[治安部隊に]治療を受けさせてやってほしいと必死に頼んでいました。でも治安部隊は彼女を押しのけて行ってしまいました。そして、負傷者を救急車に乗せて走り去ったんです。走り去る前、救急車の中でも負傷者を殴っていました。どこに連れて行ったのかは分かりません。」

負傷患者の強制連行は病院内にパニックを引き起こした。治安部隊に逮捕されるという恐怖ゆえ、多くの家族が患者を退院させた、とその医師は話した。

ホムスの赤十字ボランティアたちは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに、負傷者の救助を治安部隊から妨害されたことがある、と話した。あるボランティアは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに、ある日の午前7時頃電話で、入院の必要な4人の怪我人がバブ・タドゥモル地区の救護所にいるという報せを電話で受けたので救急車を派遣したところ、救護所から800mの所にある検問所で治安部隊に止められ、かわりに2名の治安部隊を搬送するように命じられた、と話した。救急隊員は命令に従い治安部隊2名を搬送し、一方、赤十字は負傷した民間人4名の搬送用にもう1台の救急車を送ったが、検問所の隊員は救急車の通過を許さなかった、という。

別の赤十字ボランティアはヒューマン・ライツ・ウォッチにこう証言した。「ある日の朝、警官がオペレーションセンターに来て、自分が監督するよう命令を受けている、と言った。その警察官は、その日の午後2時頃までセンターにいて、負傷した治安部隊員の救助を赤十字スタッフに命じていた。負傷した抗議活動参加者は助けなかった」

負傷者に必要な医療を妨害する行為は、その負傷者が、政府抗議活動に関与していたか、政府支持者かに拘わらず、生存権、健康に対する権利、非人道的若しくは品位を傷つける取扱いを受けない権利を尊重・保護すべきシリア政府の義務に違反する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまでにも、怪我をした抗議運動参加者の救助行為を、治安部隊が妨害してきた実態を報告してきた。こうした妨害行動の結果、多くの負傷者が民家やモスク内の仮設病院で治療を受けるしかない状況となっている。

赤十字国際委員会(ICRC)総裁のヤコブ・ケレンベルガー(Jakob Kellenberger)氏は、9月5日にシリア訪問を終えるにあたり、「シリアのアラブ赤十字のボランティアと医療従事者が、安全に救命活動を行うことを認められなければならない」と強調した。

「医療拒絶は、どんな理由でも正当化されない。アサド大統領を含むシリア政府当局は、命にも関わりうる健康に対する権利の侵害行為に対し、最終的な責任を負う立場にある」と前出のウィットソンは指摘した。