Charles Hector

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(東京)-出稼ぎ労働者への人権侵害に反対するブログを書いた人権活動家に対する名誉棄損訴訟は、マレーシアにおける公共の利益に関する議論の活力を削ぐ恐れがあると、本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。マレーシア人の活動家チャールズ・ヘクター氏は、2011年2月8日と9日に自身のブログで、日系企業である旭工精株式会社のマレーシア子会社(以下旭工精マレーシア)施設におけるビルマ人出稼ぎ労働者の処遇を批判。これに対し旭工精マレーシアは、1,000万リンギット(330万米ドル)の損害賠償を求める名誉棄損訴訟をマレーシアの裁判所に起こした。

ヘクター氏のブログは、ビルマ人出稼ぎ労働者31名への聞き取り調査で収集した情報を基礎にしている。その情報をインターネット上に投稿する2日前、ヘクター氏は自身の主張を同社にメールで知らせて対応を求めたが、返答は得られなかった。旭工精マレーシアは、同氏のメールはほとんど使用されていないアカウントに送信されていたと主張し、その6日後に提訴。同社の申し立てはブログに記載されていた人権侵害の情報について争う内容ではないとみられ、それより、出稼ぎ労働者と同社の労使関係についてヘクター氏が誤ったとらえ方をしているという主張と見られる。申し立てによると、出稼ぎ労働者は社外から派遣されているため同社の直接の給与支払い対象ではなく、同社は責任を負うものではないとしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィル・ロバートソンは、「旭工精マレーシアが要求しているのは天文学的な金額で、被告を破産させるとともにマレーシア全土の労働運動家や人権活動家を萎縮させる恐れがある」と指摘。「自社の評判を守る企業の権利を、社会的関心事についての重要な議論を妨害する手段として利用すべきではない。」

2月17日に旭工精マレーシアは、裁判が終了するまで同社の出稼ぎ労働者の処遇に関するヘクター氏のブログ記載を差し止める命令を得ている。裁判は6月28日に始まる見込みであるが、裁判終了までには何年もかかる可能性もある。

3月11日にマレーシア弁護士会はヘクター氏支援の声明を公表。2010年成立の内部告発者保護法、1999年成立のマレーシア人権委員会法、その他の法律を引用しつつ、マレーシア弁護士会は「『内部告発者』を攻撃し続けるのではなく、むしろ必要な調査を始め、当該企業で働く労働者のすべての権利が侵害されることなく正義の実現を保障するために、必要なことを実行するのが最善の措置であろう」としている。

マレーシアにおける出稼ぎ労働者の権利問題は長きにわたる問題だ。出稼ぎ労働者はしばしば、低賃金で、汚く危険な労働環境の中で働かされるうえ、転職も禁じられている。雇用主は多くの場合、パスポートを取り上げて、移動の自由を制限。出稼ぎ労働者の多くが母国やマレーシアの仲介業者に法外なあっせん料支払う。手数料を払い終えるまでは、事実上借金でがんじがらめになるのだ。また、内務省の規制により、出稼ぎ労働者は団体や組合の結成を禁じられている。加えて、違法就労状態となった出稼ぎ労働者は、"不法移民"として逮捕される危険性がある。不法移民と認定された男性は、拷問のひとつであるムチ打ちの刑に処される。

言論と表現の自由の保護・促進に関する国連特別報告者は、10年以上にわたり、刑事名誉棄損法と同じく民事名誉棄損法が、表現の自由を不適切に制約する危険性について指摘している。2000年に特別報告者アビド・フセイン氏は、民事名誉棄損法による表現の自由の尊重を満たすのに必要な最低条件をまとめ上げた。その中で民間や政府当局による訴訟に関連したものは以下の通り。

  • 名誉棄損に対する制裁措置は、「言論と表現の自由」および「情報を求め入手し開示する権利」に萎縮効果をもたらすような強力な措置であるべきでない。損害賠償額は実際の被害と厳に均衡のとれたものであること。
  • 名誉棄損法は、公共の利益についての開かれた議論の重要性を反映したものでなければならない。
  • 公共の利益に関する事がらの公表において、名誉棄損の免責に真実性を要求するのは行き過ぎである。むしろ、公表者が真実究明のために妥当な努力をすることで十分である。

前出のロバートソンは、「表現の自由に対するマレーシア政府の評判はとても悪い」と述べる。「『人権問題に関するさまざまな意見を自由に公表する権利』の改善は、言論に対する過度な制約を"民営化"することで達成し得えるものではない。」