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(ニューヨーク)-シリアのアサド大統領は非常事態の解除を決定した。しかし、シリア治安部隊が日常的に行っている重大な人権侵害を止める具体的措置も伴わなければならない、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。シリア国民が2011年4月22日に平和的な集会の自由を行使することを認めるよう、ヒューマン・ライツ・ウォッチはシリア政府当局に強く求めた。

4月21日、アサド大統領は、発令161号で1963年以来敷かれたままになっていた非常事態体制を解除するとともに、発令53号で国家治安法廷を廃止、更に発令54号で平和的な抗議運動を行う権利を認めるとともに、これを統制する命令を下した。4番目となる発令55号は、治安部隊が一定の国家に対する犯罪容疑者を検察官に引き渡す前に拘禁できる期間を、1日から7日間に延長すると見込まれている。容疑者が司法当局に引き渡される前に拘禁される期間が長いほど、拘禁中に虐待や人権侵害に遭う危険が大きくなる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東・北アフリカ局局長代理のジョー・ストークは「シリアのセイフ治安機関がデモ参加者への発砲・拘束・拷問を止めて初めて、改革は意味を持つ。暴力による弾圧を加えずに明日のデモ活動を認めることは、アサド大統領にとって、自分の意思を明確にするチャンスだ」と語った。

シリアの人権活動家らによれば、3月16日に大規模なデモが始まって以来、シリア治安機関はシリア全域でデモ活動家に対して実弾発射を繰り返し、少なくとも200名を殺害。また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、デモ参加者・活動家・ジャーナリストに対する恣意的拘束が頻繁に行われ、多くの場合彼らが拷問・虐待されている実態も調査して取りまとめた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査をした被拘束者たちは、供述調書に目を通すことを許されないまま署名を強いられたうえに、デモ活動に今後は参加しないことを約束する誓約書に署名を強いられたと話した。

新しい大統領令は、シリア法により治安当局者が享受している広範囲な免責特権は取り上げていない。1969年1月15日に出された法律令14号は、シリア最大の諜報機関の1つである統合情報局(General Intelligence Division、Idarat al-Mukhabaraat al-`Ama)を設立するとともに、「統合情報局に雇われた者がその与えられた職務の遂行上行った犯罪に対して、法的措置が取られることはない・・・ただし長官が命令を発した場合を除く」と規定している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査した限りでは、統合情報局長がそのような命令を出した事はまったくない。2008年9月30日、アサド大統領は法律令69号を発令。国内治安機関、政治治安部門(シリアの治安機関の1つ)及び税関警察などの当局者を訴追する場合には、軍・武装部隊総司令官の命令を必要とするという規定を設けて、この免責特権を他の治安機関に拡大した。

「シリア国民は本当の改革を望んでいる。しかし、そのような改革は、シリア政府の治安機関が超法規的存在であり、国民の基本的権利を意のままに侵害できる限り、実現できない」と前出のストークは語った。

シリアが真の改革に向かって着実に前進するために、ヒューマン・ライツ・ウォッチはアサド大統領に以下に掲げる事項を強く求めている。

●   平和的なデモ活動を行い逮捕された人びとを含む、全ての政治犯を釈放すること

●   3月に始まった一連のデモ活動の際、デモ活動参加者や被拘束者に対して治安機関や軍が行ったとの疑惑が持たれている、重大な人権侵害について、速やかにかつ公平な捜査を命じるとともに、全ての責任者を法の下に裁くことを確約すること

●   統合情報局職員及び他の治安機関関係者に対する捜査を阻む命令を撤回すること

●   権利侵害から守るため、逮捕された人が拘束当初から自分が選んだ弁護士との接見を迅速に認められるよう保証すること

●   治安部隊の特権を制限するため、広範囲にわたる改革を導入すること

●   平和的に表現をしたに過ぎない人びとを恣意的に弾圧・処罰するのを政府当局に許している、シリア刑法の曖昧な規定(以下に掲げる規定を含む)を改正若しくは廃止すること:刑法278条(「シリアを好戦的行為の危険にさらし或いは諸外国とのシリアの関係を混乱させる、政府によって承認されていない活動・著作・言論」を企てた者を対象とする)、刑法285条(シリアが戦時中或いは戦争に突入することが見込まれる際に、国民士気を弱め或いは民族間的若しくは党派的緊張を引き起こすような要求をする者を対象にする)、刑法286条(「シリアが戦争をしている際或いは戦争に突入することが見込まれる際に、国民士気を弱める偽り或いは誇張した情報」を広める者を対象にする)、刑法307条( 「党派的・民族的・宗教的な衝突を煽る活動・著作・言論」を企てる者を対象にする)、刑法376条(大統領を侮辱した者を1年から3年の刑に処す)

●   結社の自由を認めるため、①合法な目的をもって作られた結社が形式的に必要事項を満たした場合には、すべてその登録を自動化し法的地位が承認されるよう、1958年成立の「結社及び私的社会に関する法律(法律93号:Law on Associations and Private Societies)」を修正し、②違法な活動を行っていない限り、未登録の団体に参加したことを処罰する刑罰規定を撤廃すること

●   新しい放送法を制定し、名誉棄損や中傷行為に対する懲役刑を廃止し、国内外の発行物に対する政府の検閲を止め、新聞などの発行媒体に対する国家支配を撤廃すること

●   国際人権基準に沿った政党法を制定すること

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