A Palestinian man sells newspapers in front of his shop in the Gaza strip in 2007. Hamas has since banned the Al-Ayyam daily, pictured on the lower rack.

© 2007 Reuters

(ラマラ)- ヨルダン川西岸地区とガザ地区のパレスチナ人ジャーナリストたちが、パレスチナ自治政府ならびにハマスの治安機関からの激しい人権侵害の標的にされている。その結果、表現の自由の深刻な萎縮効果が見られる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。本日発表された新しい報告書の中で、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ヨルダン川西岸地区ならびにガザのパレスチナ当局に対して、こうした組織的かつ深刻な人権侵害の責任の明白化と裁きを求めるとともに、外国の援助機関に対し、パレスチナ自治政府への援助条件として、治安機関への具体的な捜査と裁きをを求めるよう促した。

報告書「『便りがないのは良い知らせ』:パレスチナの治安機関によるジャーナリストに対する人権侵害の実態」(35ページ)は、治安機関のジャーナリストに対する拷問、暴力、恣意的拘束、取材機器の押収、西岸とガザからの移動妨害などの実態を取りまとめている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東・北アフリカ局局長代理のジョー・ストークは「パレスチナの治安機関は、純粋にジャーナリストとしての仕事を遂行しているだけの報道関係者に対し、暴行し脅迫することで悪名高くなりつつある」と言う。「ヨルダ​​ン川西岸地区のパレスチナ自治政府とガザ地区のハマスは、両者ともに、表現の自由に対する露骨な攻撃を今すぐにやめなければならない。」

ヨルダン川西岸地区では、2008年12月から2009年1月にかけてのイスラエルのガザ攻撃の最中に、パレスチナ自治政府治安部隊によるジャーナリスト攻撃が一時的に増加。しかし、全体状況は悪化の一途をたどっている。人権団体Center for Development and Mediaによると、2010年に起きたパレスチナ治安機関による物理的な攻撃、逮捕、拘束、取材機器の恣意的押収、その他ジャーナリストの権利侵害は、ガザ地区ならびにヨルダン川西岸両地域で、前年比45%の増加となっている。

報告書は、パレスチナ人ジャーナリスト、ジャーナリスト団体の関係者、パレスチナ自治政府当局者からの聞き取りをもとに作成された。パレスチナ自治政府の治安機関がジャーナリストを虐待した7つの事件を中心に調査するとともに、ガザ地区のハマス公安部隊がジャーナリストを虐待した2つの事件についても記録している。ハマスによるガザ地区での人権侵害、そして、イスラエル軍がパレスチナ占領地区全体で行っている人権侵害については今後の報告書で中心的に扱う、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

最近では、ハマスとファタハ主導でパレスチナ自治政府の政治分裂に反対してガザ地区で行なわれた大衆デモを取材していたジャーナリストたちが、ハマス公安局による頻繁な権利侵害に直面している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。例えば、2011年3月19日、およそ15人の私服治安部隊が、ロイター通信のガザ支局事務所に侵入。あるジャーナリストに銃を向け、他のジャーナリストを窓の外に投げ出すと脅した後、コンピュータを壊して暴力をふるった、とジャーナリストたちはヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。その他にも、アルクッズ(Al Quds)ラジオ局のある記者は、3月27日にハマスの保健当局を批判する番組を放送した直後、ハマス警察に脅迫されてののしられ、1時間以上拘束された、とヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。彼がハマスの治安部隊に誰何されたのはある死体安置所でのこと。彼は、その死体安置所でイスラエル軍の攻撃で殺害されたとみられていた男性(その後、生存が確認された)に関して報道していた。


2007年6月にハマスがガザ地区を奪取して以来、ヨルダン川西岸地区とガザ地区両方でおきているジャーナリストへの暴力事件の大半が、パレスチナ自治政府とハマスの間の緊張関係に関連して起きていることを、報告書は明らかにしている。ヨルダン川西岸地区で主に標的にされているのは、パレスチナ自治政府公安局によってハマスやイスラム聖戦 (Islamic Jihad) などのイスラム教勢力支持を疑われているテレビやラジオ、ウェブサイト、新聞などで働いているジャーナリストで、パレスチナ自治政府に批判的なジャーナリストも標的とされている。

本報告書にまとめたある事件では、裁判所がテレビ放送局の記者タリク・アブ・ザイド(Tariq Abu Zeid、34歳)を釈放する決定を2度も下したにもかかわらず、ジェニン(Jenin)のパレスチナ自治政府軍事裁判所は彼に1年半の判決を言い渡した。アブ・ザイド氏は、ガザ地区北部のアル・アクサ(Al Aqsa) テレビ局の特派員で、ガザ地区を拠点とするアル・アクサ新聞社に勤務した経験もある。いずれもハマス支持とみられる報道機関である。

パレスチナ自治政府公安局は、パレスチナ自治政府に批判的な報道をした疑いのあるフリージャーナリストも標的にした。パレスチナ自治政府の治安当局は、フリージャーナリストで映画製作も手がけるムハナド・サラート(Muhannad Salahat)氏を2010年の3月から4月にかけて14日間、起訴や逮捕理由を通知することなく拘束。治安当局は、カタールに本拠を置く衛星テレビ、アルジャジーラのために、パレスチナ自治政府に関するドキュメンタリーを作ったのかどうか、彼を何日間も尋問し続けた。衛星テレビのアルジャジーラは、パレスチナ自治政府に批判的な報道をしており、パレスチナ自治政府は同衛星チャンネルをハマスよりとみなしている。パレスチナ自治政府公安局は、2010年5月、再びサラート氏を10日間にわたり拘束。後に、ヨルダン川西岸地区からヨルダンに入ろうとしたサラート氏をヨルダン政府諜報局員たちが阻止。パレスチナ自治政府による特別認可がなければ入国は認められない、とした。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査・記録したジャーナリスト弾圧事件や、地元の人権団体が明らかにした事件の大半に、パレスチナ自治政府の治安警察 (Preventive Security)機関と総合情報機関 (General Intelligence Services)が関わっていた。また、パレスチナ自治政府の軍司法機関も身柄拘束に関わっていた。先だって、軍司法機関が民間人に対する裁判管轄行使を止めると発表したのは歓迎すべき展開であるが、多くの民間人が未だに軍に拘束されているのが実態である。

全体的として、ジャーナリストへの弾圧と見られる事件の増加の背景には、パレスチナ自治政府当局者が人権侵害を野放しにしてきた歴史がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。パレスチナの人権団体は、2010年、パレスチナ自治政府公安当局によると見られる拷問容疑事件が合計200件以上(2009年の申立は164件)あったと明らかにしているが、被拘禁者虐待事件に関して公安当局者が刑事訴追されたのは1件だけ。しかも、軍事裁判所は、2010年7月、起訴された5人全員に無罪判決を下した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、公安局によるこうした虐待をパレスチナ自治政府高官が指示したと示すことはできない。しかし、パレスチナ自治政府高官らがこうした人権侵害を野放しにして捜査・裁きがまったくなされていない実態は、こうした人権侵害が政府の政策の結果であることを示唆するものである。

米国政府は、2010年、パレスチナ自治政府に対する1億5,000万ドルの直接予算支援に加え、治安関係支援及びプログラム支援のため3億5,000万ドルを提供した。EUも、パレスチナ自治政府へ軍事・治安支援を含め2億3,000万ユーロ(3億1,500万ドル)以上を提供した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、こうした深刻な人権侵害の責任を負う治安当局者の捜査・起訴・処罰に向けてパレスチナ自治政府が有効な措置を取ることを、パレスチナ自治政府治安機関向けのすべての支援の条件にするよう、米国政府及びEUに求めた。

一方、ガザ地区のハマス治安部隊は、ハマスに批判的なジャーナリストを尋問のため呼び出している。ジャーナリストたちは、治安部隊の呼び出しを「脅迫だ」という。また、ハマス当局者がジャーナリスト数人に報道が「偏っている」「バイアスがかかっている」などと警告の電話を入れている。例えば、ファタハ支持のハヤート・ジャディーダ紙(Al-Hayat al-Jadida) を理由に、ハマス治安当局がガザ地区に拠点を置くある女性ジャーナリストを脅迫した事件があった。2010年には3ヶ月にわたって繰り返し彼女の家を訪問して脅迫した。他にも、例えば、ハマス内務省が、秘密拘禁施設でのハマス当局による拷問に関する記事を掲載したジャーナリストを呼び出す事件も起きている。謝罪記事を発表しなければ法的措置を取ると脅し、「バイアスのかかった」報道を修正するようそのジャーナリストに警告するという事件もあった。