(ニューデリー)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で、「インド政府は、テロ対策の取り組みに際し権を侵害しないよう、司法制度を改革すべきである」と述べた。最近、インド政府は、テロ容疑の冤罪事件についての対策を講じはじめている。しかし、それに加えて、テロ容疑者に対する多数の拷問・自白強要疑惑事件を捜査するとともに、関係者の処罰も必要だ。

106ページの報告書『"反国家的人物":インドにおけるテロ容疑者への恣意的拘禁と拷問』は、インドの治安部隊がテロ攻撃に対処する際に犯した人権侵害の調査記録。州警察や刑務局などの当局は、恣意的逮捕・拘禁・拷問・宗教差別などさまざまな人権侵害に関与してきた。報告書は、2008年以降の6件の爆弾テロの他、死者を出した複数の襲撃事件に犯行声明を出してきたイスラム過激派グループ、インディアン・ムジャヒディンのメンバーだと疑われた容疑者に対する虐待、そして、2008年の別の爆弾テロ容疑をかけられているヒンズー教徒国粋主義容疑者に対する虐待についても詳述している。

「インド警察はテロ攻撃の犯人の身元を割り出すことを求める大変な圧力の中にある。しかし、恣意的逮捕や拷問で自白を強要することなく、犯人を探す必要がある。」とヒューマン・ライツ・ウォッチの南アジアディレクターであるミナクシ・ガングリーは語る。「そのような違法手段は地域住民との関係を悪化させるだけではなく、真犯人が自由の身であり続けるのを許す危険がある。しかも、公共の安全に対する継続的な脅威の原因ともなる。」

本報告書「"反国家人物"」は、インディアン・ムジャヒディンが犯行声明を出した2008年のインドでの3件の爆弾テロのその後に焦点を当てている。同年5月13日にジャイプル市内、7月26日にアフマダーバード市内、9月13日にニューデリー市内で、それぞれの市場・病院などの公共施設を狙って連続爆破事件がおきた。これらの爆破事件で少なくとも152名が死亡、数百名が負傷した。本報告書は、ニューデリー市・グジャラート州・マハラシュトラ州・ラジャスタン州・ウッタルプラデシュ州での、容疑者・その親族・弁護士・市民運動活動家・警備専門家・法執行官など160人を越える人びとに対する聞き取り調査を基に作成されている。

全国的な一斉捜査の過程で、州警察(通常は対テロ特殊部隊)は、多数のイスラム教徒男性を尋問のために連行。その多くに、直ちに「反国家的人物」-愛国心がないという意味を含む-というレッテルを貼った。警察は最終的に、2008年のテロ攻撃及び関連する2008年7月に起きた港町スーラト(Surat)でのテロ未遂事件で、9つの州のインディアン・ムジャヒディンのメンバーまたはその支持者であるという人物70名以上を起訴、その全員を保釈せずに拘束し続けた。

警察は、いくつかの州で、数日あるいは数週間も正式に逮捕を行わないままに容疑者を拘束した。明らかに自白を得るためだった。グジャラート州とデリー市の警察も、逮捕後の法定期限である最初の15日をはるかに超えて、尋問のための容疑者拘留を可能にするべく刑事訴訟手続きを逸脱した。拘束されていた者の多くは、電気ショックなどの拷問を受けたと主張している。グジャラート州警察のアフマダーバード刑事課(Ahmedabad Crime Branch)の拘置所では特にひどい事件がおきている。そこで拘禁されたあと釈放されたある容疑者は、拘禁されている者は終始目隠しをされ、腕は膝の下で交差された状態で縛られていた、と語る。被拘禁者あるいはその親族も暴行を受け、協力しなければ家族を逮捕して虐待すると脅されたと話す。

何人もの容疑者が、警察に白紙の紙数枚に署名をさせられ、それが自白として使われるのではないかと恐れていること、あるいは警察に夜起こされて警察側が作った事件の筋書きを反唱させられたことを強く主張していた。また多くの容疑者はインドの法律そして国際法に違反して、逮捕された後、数日から数週間弁護士への連絡を許されなかった。やっと弁護士に会えても、多くの場合、容疑者は、看守に接見内容が聞こえる場所での面会しか許されなかった。イスラム教徒テロ容疑者の弁護を引き受けた弁護士の一部は、ヒンズー教徒過激派から脅され或いは襲撃に遭い、同僚弁護士の多くからは非国民というレッテルを貼られた。

2008年にマハラシュトラ州のマレガオン市で起きた、別の爆弾テロ事件で逮捕されたヒンズー教徒11名の一部は「恣意的拘留・拷問・宗教ベースの虐待を受けた」という信頼できる主張を行っている。自らを神学者だというヒンズー教徒容疑者は、ヒンズー教徒は牛肉を食べることを禁じられているのに、拷問中に警察が牛肉だと言ったものを無理やり飲み込ませてきたと訴えた。

もっともひどい人権侵害は、逮捕された後の警察による拘束中に起きている。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2009年、数十名の容疑者が、アフマダーバードとジャイプルの刑務所に移送後、暴行を受けていることも明らかにした。彼らは、虐待を受けたと告発しても、公判では無関心と偏見に直面している。

「2008年の爆弾テロ事件との関係で拘禁された容疑者への人権侵害は、警察の留置場から刑務所、裁判所に至るまで、あらゆる段階で発生している」とガングリーは語る。「こういったことは中国にはあるだろうと我々は予想するが、世界で最も多い人口の民主主義国家ならもう少しまともであるべきだ。」

更に、ヒューマン・ライツ・ウォッチはインド当局に、2006年にマレガオンのイスラム教徒墓地で起きた爆弾テロ関連の容疑者として4年以上も拘禁され、拷問された疑いのあるイスラム教男性9名の事件に、徹底的かつ公平な捜査を直ちに開始するよう求めた。2010年末と2011年初頭に行われた捜査は、イスラム教過激派の犯行とされていたこのテロ攻撃や2006年から2007年におきた大きな爆弾テロ事件が、実はヒンズー教過激派の犯行であった可能性が高いことを明らかにしている。ハイデラバードとアジメールのイスラム教寺院、パキスタンとインドを結ぶ旅客列車、マレガオンの墓地に対するテロ攻撃で、少なくとも115名の死者と350名近くの負傷者が出た。

人権侵害容疑事件を調査する正式な権限を有するインドの政府機関である国家人権委員会(The National Human Rights Commission)は、テロ容疑者の絡んだ告発に対して冷淡な対応をしてきた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。その典型がバトラ家銃撃戦だ。2008年9月に発生したデリー爆弾テロの後、警察が踏み込み検挙を行い、インディアン・ムジャヒディンと疑われた2名の容疑者が死亡した事件である。警察は、全ての殺人事件に捜査が必要という自らのガイドラインを無視。その後デリー高等裁判所は容疑者2名の死を解明するよう命令した。同委員会は事件に対する警察側の筋書きだけをもっぱら根拠にして、警察への疑いを晴らす報告書を作成した。2名の死因について一層本格的な再度の調査が必要である、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。

「国家人権委員会(The National Human Rights Commission)は対テロ対策の中でおきた人権侵害には声をあげない」とガングリーは語る。

2008年の最大の爆弾事件が2008年11月26日に発生したムンバイ市の娯楽産業と商業の中心地でのテロ攻撃である。この事件に対応して、インド国会は2008年12月、テロ容疑者の人権侵害や基本的なデュー・プロセスの権利を侵害する可能性の高い法改正を可決。非合法活動(防止)改正法(UAPA)は、一般的かつ曖昧な文言でテロを定義し、警察の捜査及び逮捕権を強化。国際的に認められているテロ容疑者の最大未決拘禁期間をはるかに超える180日へと拘禁期間を2倍に延長した。同改正法は、与党国民会議派が人権侵害を助長するとして2004年に撤廃した、悪名高いテロ防止法の諸規定に酷似している。

しかしながらヒューマン・ライツ・ウォッチは、インディアン・ムジャヒディンの犯行とされた2010年のテロ攻撃3件に対して、当局が歓迎すべき抑制した行動を見せている、とも指摘。2月にプネ市で起きた爆弾テロは、外国人で賑わうレストランを狙ったもので17名が殺害された。また、9月にニューデリーで起きた走行中のオートバイからの銃撃テロでは、台湾人旅行者2名が負傷。12月にヒンズー教最高聖地であり人気のある観光地のバラナシ市で起きた爆弾テロでは、1歳の子どもと60代の女性が死亡した。

「最近の当局のテロ攻撃への対応には進歩が見られる。しかし、インド政府が過激派活動家への対処で長期的成功をおさめるためには、抑制のきく行動と法の尊重に向けた制度改革が必要だ。テロ攻撃はすべてイスラム教徒グループの仕業だという、2008年の爆弾テロ事件の後の警察に非常に多く見られた根拠のない推測を制度的に止めるなどが必要だ。」とガングリーは語る。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはインド政府・州政府・州警察に、改革へ向けた提案を行っている。

  • 過度に拡大したテロの定義、捜査・押収に関する警察の拡張された権限、特定の状況下での有罪推定、非常に長い未決拘禁などの対テロ法における(国際法の下での)違法規定を撤廃すること。
  • 懸案の拷問防止法を成立させること。ただし同法は、拷問およびその他の残虐な非人道的あるいは品位を傷つける取り扱いあるいは刑罰に関する条約(拷問等禁止条約)に合致する内容とすること。
  • 逮捕状なしの逮捕の場合、警察に正式な理由を記録するよう義務付けること(それによって不処罰問題を悪化させる重大な法的抜け穴を塞ぐことになる)、既に国会を通過した刑事訴訟法改正法に署名すること。
  • インドの警察要員の専門職化を進めるとともに、1997年のD.K.バス(Basu)事件での最高裁判決で示された、画期的な判例変更である警察官向けの逮捕および拘禁に関するガイドライン全体を成文化すること。
  • インドにおけるテロ容疑者などの犯罪容疑者に対する犯罪の不処罰・放置を終わらせるために、現在ではヒンズー教過激派の犯行とされているテロ攻撃に関して一斉検挙された、インディアン・ムジャヒディンと疑われた容疑者を含むイスラム教徒容疑者に対する警察官などの当局者による虐待の申し立てを、しっかり捜査すること。