During a demonstration in Alexandria, protesters hold pictures of 28-year-old Khaled Said, beaten to death on the streets of Alexandria by two undercover police officers on June 6, 2010. Said’s death set off an unprecedented series of demonstrations across the country.

© 2010 AP Photo

(カイロ)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で、エジプトでは拷問が蔓延しており、民衆デモが湧き上がった要因のひとつが警察による拷問に対する抗議である、述べた。拷問事件を裁判にかけ、警察等の治安部隊に対する不処罰の連鎖の原因となっている非常事態法を廃止することが、エジプト政府の優先事項であるべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

報告書「自白するまで拷問:エジプトにおける拷問の不処罰」(全95ページ)は、ムバラク政権下で、被害者の救済が行なわれない一方で、拷問の容疑者である法執行部当局者に対する捜査や刑事訴追が行なわれず、警察による虐待が容認されている実態を明らかにしている。

「拷問や警察の不処罰、つまり、拷問者が法の裁きを免れるシステムに終止符を打つために、エジプト人は街に出てデモを行った」とヒューマン・ライツ・ウォッチ中東・北アフリカ局局長代理ジョー・ストークは語る。「エジプト政府がこの問題について違法行為を続けてきたという事実が、現在でも人びとが道に繰り出して抗議を続けている主要な理由のひとつだ。」

6月にアレクサンドリアの街頭で28歳の男性ハリード・サイードが2人の私服警官に殴る蹴るの暴行を受け死亡した事件は、ニュースのトップ記事を独占し、国中でデモを引き起こした。地方検察は当初捜査を終了し、サイードの埋葬を命じたが、人びとの抗議運動の高まりによって、検察官は捜査の再開と事件の法廷付託をせざるを得なくなった。フェイスブックのグループ「私たちは皆ハリード・サイード」は、2011年1月25日の集団デモの開始を促した。

本報告書は、司法制度が拷問の加害者の責任を問い、将来の虐待を防ぐために、緊急の法的、構造的、政治的改革を約束するよう当局に促している。

被害を訴えた被害者や目撃者に対する警察の脅迫、不十分な法的枠組み、被害者に対する医師の診断の遅延などが原因で、拷問の被害のほとんどは司法救済されていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。拷問の容疑者に対する証拠収集や証人召喚を担当するのが同僚の警察官であることも、拷問の不処罰の原因のひとつである。

サイード事件は、メディア報道と民衆の怒りが検察幹部を動かした数少ない事例であり、迅速で徹底した捜査が行なわれた例外的な事例であった。2009年11月発表のエジプト政府統計によれば、2006年から2009年の間に拘禁中の拷問事件や死亡事件は何百件も報告されているものの、同時期にエジプト司法により拷問や非人道的扱いの容疑で有罪を言い渡された警察官はたった6名。2010年7月、アレクサンドリアの控訴裁判所は、ようやく、7人目の警察官に対して懲役5年の刑を下した。

「拷問が深刻な組織的問題であるエジプトで、4年以上の間に僅か7名の警察官しか有罪判決を受けていないという実態は、拷問の現実と大きなギャップがある。何百人もの犠牲者やその家族が、法の正義から見捨てられているのだ」と、前述のストークは語った。

法執行当局が、政治的反体制派や治安上の理由で拘禁されている者に対してと同様、一般刑事事件の被疑者に対しても、自白の強要や情報収集、そして単なる懲らしめなどのために、拷問や虐待を日常的かつ意図的に行っていることを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは明らかにした。

カイロ市インババ(Imbaba)の22歳の運転手アフマド・アブド・アル-モエーズ・バシャ(Ahmad Abd al-Mo'ez Basha)は、2010年6月に自宅で警官に逮捕された様子を、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し以下のように語った。

彼らは俺をインババ警察に引っ張って行って、俺1人だけを部屋に入れたんだ。警官が2人入って来て、白状しろって言った。俺は「何を?」って聞いたよ。彼らは「窃盗の自白だ」って答えた。犯罪捜査部の部長は「白状するまでやれ」って言ったんだ。彼ら、俺の腕を前に差し出させて手錠を掛けて、2時間以上ドアから宙づりにしたんだ。彼らはムチを持っていて、俺のスネや足の裏、背中を叩いた。俺を下ろした後、今度は黒い電気の器械を持ってきて、俺の腕に4回か5回、煙が出始めるまで電気ショックをかけた。その間ずっと、「白状しなければだめだ」って言っていた。次の日の朝、俺はまた殴られ、ケーブルで背中と肩を叩かれた。3時間殴られて俺は気を失ったよ。

拷問の不処罰は、政治的反体制派を監視する任務を負う内務省の一部門である国家保安捜査局(State Security Investigations :SSI) で特に深刻である、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。SSIは日常的に人を強制失踪させ、長期間容疑者を施設に拘禁するとともに、拘束している事実を否定、もしくは容疑者の所在に関する情報を提供せず、被拘禁者に弁護士、家族、医師への連絡を認めていない。

国家保安捜査局(SSI)の施設での拘禁は法に違反する。エジプト法は、刑務所および警察署以外の施設における拘禁を禁止している。SSIが容疑者を拘禁していることを示す相当数の供述があるにも拘わらず、エジプト政府はこれを否定。そして、容疑者たちは、SSI施設で頻繁に拷問にさらされているのである。拘束されたにもかかわらず、当局が拘束の事実を否定したり拘束したことを認めることを拒否する場合、その個人は法律による保護を受けられない。こうした場合は「強制失踪」に該当し、国際法上、拷問と同じく重大な犯罪とされている。

国家保安捜査局(SSI)関係者は、少なくとも3つの事件で裁判所に出頭したものの、いずれも拷問で有罪判決を受けてはいない。ムスリム同胞団のメンバーでSSIで拘禁されていたナスル・アル・サイード ハッサン・ナスルは、彼が2010年にSSIに拘束されていた60日間について証言し、その間ずっと目隠しされ続けていた、とヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。

彼らは俺の顔を靴で殴った。そして立てなくするために股間に蹴りを入れたんだ。一度倒れたら、電気ショックをかけて俺を立たせ、また蹴ってきた。首を絞められそうにもなったよ。彼らは守衛を呼んで、「4時までにこいつの嫁と娘たちをここに呼び出し、こいつの前で裸にさせろ」って言った。そして俺が裸で拷問を受けている写真を撮って、公開するって脅したんだ。

「司法は、拷問の被害者たちの権利を保護する場となる必要がある。そして、被害者たちが、報復を恐れることなく告発できるようにしなくてはならない。」とストークは語る。

エジプト法は、拷問を完全に犯罪とはしておらず、国際法に沿っていない。それが不処罰問題のもう1つの要因となっている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。刑法第126条の拷問の定義は、自白を得るため以外の理由による拷問行為(例えば刑罰や脅迫)を拷問から除外。エジプト法は拷問容疑に対して僅か3年から5年の懲役刑-この程度の刑罰は拷問という犯罪の重大性に見合わない-しか規定していない。さらに、エジプト刑法は、情状酌量や減刑に関して裁判官の自由裁量を認めており、裁判官はそれを頻繁に行使する。2009年11月と2010年2月、エジプト政府は国連人権理事会の遍的・定期的審査(UPR)の際、国際法に沿った形で拷問の定義を改正するとまた約束した。しかし、それから1年以上が経過するにもかかわらず、その約束について何の進展も見られていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、エジプト政府に対し、拷問もしくは非人道的扱いを受けたという信頼に足りるすべての申し立てに対し、たとえ正式な告発がされていない場合でも捜査を行なうことを強く要求。検察は、上官を含む責任があると思われる者全てを捜査することを確約するとともに、そうした捜査を迅速・公平・徹底的に行うべきである。また、法医学的捜査は迅速に行われなければならない。虐待容疑をかけられている当事者が証拠収集にかかわったり、証言者などと接触するべきではない。エジプト政府は、容疑者を国家保安捜査局(SSI)の施設に違法拘禁することをやめるとともに、これを遵守していることを確認するため、SSI施設への検察官の抜き打ち訪問も認めるべきである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、EUと米国政府に対し、エジプトにおける拷問、そして政府が拷問の予防と責任者の処罰を行なっていないという事実を公に非難するよう求めた。

「法執行官とその上官たちへの不処罰が蔓延している結果、警察の虐待が当たり前のことになっている。エジプト政府は、まずは捜査における人権侵害を止めて拷問という犯罪と本気で向き合い、拷問を行った者の責任を問うという強いメッセージを発する必要がある」とストークは述べた。