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(キエフ)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で、移民と難民申請者(子どもを含む)が、ウクライナ国境警備隊と警察による人権侵害的処遇と恣意的拘禁の危険にさらされている、と述べた。なかには、ウクライナ当局者に電気ショック棒などで拷問されたと語る移民もいる。いずれも、スロバキアやハンガリーからウクライナへの強制送還時や、EU諸国への国境越えを試みて逮捕された時に、こうした暴力をウクライナ政府当局から受けた。

報告書「国境での人権侵害:ウクライナにおける難民申請者と移民の処遇問題」(全124ページ)は、ウクライナ、スロバキア、ハンガリー内で難民、移民、難民申請者に実施した161の聞き取り調査を基に作成されている。本報告書で明らかになったのは、ウクライナの収容施設の環境が一部改善された一方で、多くの移民が非人間的で人間の尊厳を損なう扱いを受けている現状だった。また、ウクライナ政府が難民や難民申請者に必要な保護を提供できない実態や、その意思さえない実態も明らかになった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの難民プログラム局長で本報告書の共著者であるビル・フレリックは、「EU諸国は人権侵害を承知で、ウクライナに人びとを送還している」と指摘。「EUへの加盟交渉やEUによる資金援助にもかかわらず、ウクライナは移民の権利を尊重する責務にも、難民を保護するという責務にも無関心のようだ。」

EU とウクライナ間で結ばれた再認定合意(readmission agreement)は2010年1月1日に発効。その中で、ウクライナを通ってEUに入国した第三国国籍保持者の送還について規定している。近年EUは、ウクライナの移民および難民制度の改善に向けて、数百万ユーロを支出してきた。

しかしながら、協定や資金援助があればEU諸国が免責されるものではない。EU諸国は、引き続き、基本的人権を定めたEU憲章に基づき、亡命(難民申請)に門戸を開き、拷問や虐待の危険のある国に人びとを強制送還しない義務や、大人の同伴者のいない子どもに対する責任を負っている。

スロバキアとハンガリーから送還され、聞き取り調査に応じた人びとの半数以上が、「ウクライナで暴行や虐待を受けた」と証言。こうした人びとの多くが、ハンガリーまたはスロバキアで難民申請(亡命申請)を試みたものの無視され、即刻国外に追放された。両国は、大人の同伴者のいない子どもも同様に強制送還している。

再認定合意は、EUのいわゆる「難民申請(亡命)および移民問題に関する戦略」の具体化の一つの基軸だ。この戦略の核心は、移民および難民がEU諸国に入国する際に通過する周辺諸国に、移民および難民に関する負担と責任を課すことによって、EU諸国への移住および難民申請者の流入を止めることにある。

前出のフレリックは、「EUは、ウクライナ政府が難民申請者に公正な審査の機会を与え、移民を人間的に扱うとともに、難民や弱い立場にある人びとに効果的な保護を保障するまで、再認定合意を一時棚上げにすべきだ。」と述べる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが収集した証拠は、ウクライナで移民に対する拷問が日常的に行われていることまで示すものではないが、聞き取り調査に応じた人びとは、拷問が起きていると証言。去る4月にウクライナの国境警備隊に逮捕されて、尋問を受けたあるイラク人男性は、次のように語った。

「扱いは残酷でした。ヤツラは私たちを殴る蹴るしたうえに、ひどい言葉を浴びせかけたんです。私は電気ショックもやられました...両耳にです。国境を越えたかったこと、密入国だったことを白状しました。心臓が止まるような心持ちでした。私は椅子に座っていて、すべてを認めたのに拷問は止まなかったんです。」

拷問されなかった人びとの多くも、暴行されたり、食事を与えられなかったりと、非人間的で尊厳を損なうような処遇を受けたと訴えた。これらの人権侵害はすべて、何をやっても罰せられることはないという雰囲気の中で起こっている。被害者は恐怖ゆえに人権侵害を告発できず、また、人権侵害を行なった犯人たちも誰も責任を問われないからだ。

かつて、ウクライナでは、移民達は過密かつ不衛生な環境下に拘束されていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが2005年にこの問題に関する報告書「非力な人びと:EUの新たな東側国境における移民および難民申請者に対する人権侵害」を発表して以来、状況には改善がみられる。しかし、重大な問題がいまだに続いている。たとえば、虐待、亡命(難民)申請手続きの不備、子どもの拘束、(家族以外の男女や子どもの)混合拘束、汚職、移民への恣意的かつ過度な拘束などが、広く一般に行なわれている。

2009年8月から2010年8月を通して、ウクライナでは政治対立ゆえに難民申請制度が麻痺していたために、難民認定は行われなかった。難民申請手続はその後復活はしたものの、事実上機能停止状態のままで、汚職もまん延している。多くの難民申請者が、「難民申請手続、審査の通訳依頼や必要書類入手の際に、出入国管理局関係者にワイロを贈らねばならなかった」と証言した。

国境警備局関係者が、拘束中の難民申請者からの申請を、審査を担当する地方出入国管理局へほとんど提出していないという事実も、本報告書で明らかにしている。出入国管理局が難民申請を受理したために国境警備局が管轄する一時拘束施設を解放された外国人の数は、2008年の1,114名から2009年の202名へ急減した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた難民申請者たちは、地方出入国管理局による難民審査が形式上のものに過ぎず、通訳は多くの場合不十分で、審査官は時に無情で独善的だったと訴えた。審査官に「難民申請は100%却下されるだろう」と言われたという、あるアフガン人の証言にはかなりの現実味がある。

難民認定申請制度は大きな法的欠陥を抱えている。ウクライナ国内法には、暴力や戦争から逃れてきた個人の保護規定や人身売買の被害者に対する保護規定がない。難民の地位を認められたのは、知られているだけでソマリア人2名と大人の同伴者のいない子ども1名のみ。また、ウクライナの一部地域では、子どもは難民申請手続きを行なえないことになっている。

とくに、大人の同伴者のいない子どもたちは、必要書類入手や難民申請手続きの上で困難に突き当たる。申請には法的代理人が必要だが、一部地方の関係当局者は、子どもたちのための法的代理人の指名を拒否している。審査には時間がかかり、多くの子どもが難民申請の決定が下される前に成人してしまう。これが子どもたちの難民申請に不利に働いている。

更に悪いことに、国境警備隊は「寮」とぼかして呼ばれている刑務所のような施設に、子どもたちを数週間も拘束することがある。関係当局者がヒューマン・ライツ・ウォッチに明かしたところによると、子どもたちをこの「寮」に、(時には少女を少年や成人男性と一緒にすることも含み)家族以外の成人と共に拘束しているので、子どもたちの心身が危険にさらされているという。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの子どもの権利局上級調査員で本報告所の共同執筆者のシモーネ・トローラーは、「ウクライナでは子どもたちがとんでもない扱いを受けているというのに、スロバキアやハンガリーは、大人の同伴者のいない子どもをウクライナに即決で送還している」と指摘。「事実上、子どもたちは大人と同じ要領でウクライナに帰されている。子どもたち特有の脆弱性やウクライナにおける保護の不在という事実は、全く考慮されていない。」

大人の同伴者のいない17歳のアフガン人少年。スロバキアから強制送還された後のウクライナでの体験を次のように証言した:

「僕たちはスロバキア国境を越えたんだけど、そこで捕まってしまった。警察には助けてくれって頼んだけど、1日と1晩で国外退去だった。署名した書類なんて何のことだか分からなかったよ...。国境にいたウクライナ兵のことをしゃべるのは怖い。あいつら僕たちを無茶苦茶殴ったんだ。ロシア語でしゃべれって殴るんだよ。捕まえた途端にね。あれは夜だったな...。僕たちが別の部屋に行くと、今度は平服の男に殴られた。そいつは、"どうやって国境を越えた?"って一人ずつ聞いてまわった。僕は1時間も蹴られたり、警棒や素手で殴られたり、ずっと乱暴されたよ。はじめはそいつだけだったけど、結局3人か4人の制服のヤツにもやられた。」

出入国管理法違反による拘束期限は6カ月。しかし、過度に事件をかかえているウクライナ裁判所は、通常この期限内で案件を審査することができない。また、証言者の何人かは、「6カ月収容すると命じられたが、その間に裁判官の前に出る機会も、拘束へ異議を申し立てる機会も与えられなかった」と話した。子どもなどの多くの人びとが、「賄賂なしならば、期限の6カ月いっぱい拘束する、と国境警備隊から脅された」と訴えた。

ウクライナ国内法には、釈放直後に移民を再逮捕して、更に6カ月拘束することを禁ずる規定がない。ヒューマン・ライツ・ウォッチが今回の聞き取り調査を行った人のなかには、複数回拘束された人も多くいた。移民収容センターに拘束されている23歳のパキスタン人ズラビチ(Zhuravychi)は、次のように証言した:

「あいつらはゲートを開けて、出て行けっていうだけさ。今はルツク(Luts'k) から40キロの所にいる。俺たちパキスタン人は刑務所から出ても、マフィアが名簿を持って外で待ってる。で、1,500米ドル払ったら助けてやるって言うんだ。払わなかったら持ってる書類を破られて、もう6カ月の監獄生活に逆戻りってわけなんだ。」

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