ヒューマン・ライツ・ウォッチは、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシャル(B)、トランスジェンダー(L、以下あわせてLGBT)の人びとを、差別や暴力からまもるため動き続けています。LGBTの人びとは時として、その性的指向や性自認が原因で、拷問や処刑に処されることさえあるからです。私たちは、インドネシアのジョグジャカルタで採用された、LGBTに関する国際人権法の適応上の画期的な原則「ジョグジャカルタ原則」が実際に実現されるよう提言活動を行い続けています。「ジョグジャカルタ原則」は、LGBTの人びとをまもる政府の義務を取り決めたものです。こうした私たちの働きかけが、いくつかの国で功を奏しはじめています。
たとえばマラウイでは、ある同性カップルが、伝統的婚約儀式を行ったかどで14年の重労働の刑を科されました。私たちは、このカップルに対する恩赦の確保を支援。アルバニアとリトアニアでも、LGBT権利団体とともに議会でLGBTの権利を保護するよう強く求めた結果、成功をおさめました。ウガンダでは、他のLGBT権利団体と共に、非常に人権侵害的だとして世界的にも注目を浴びているウガンダの「反ホモセクシャル法案」が議会を通過するのを何とか阻止しようと奮闘中です。とりわけ抑圧的なこのウガンダの「反ホモセクシャル法案」に反対する提言活動は、今日も続いています。
マラウイ
今年5月にヒューマン・ライツ・ウォッチは、伝統婚約儀式を行ったかどで14年の重労働の刑に科されたマラウイ人同性カップルに恩赦が与えられるように支援。地元団体や国際団体と協力して、大統領が彼らの恩赦を許可するよう説得したのです。私たちは、同性カップルの逮捕が伝えられた直後に地元の弁護士や人権団体に連絡を取り、現場の状況を直ちに把握。そして、マラウイのムタリカ大統領に公開書簡を送って、私たちの見解を伝えました。同時に、ヒューマン・ライツ・ウォッチのLGBT調査員、ディピカ・ナスはマラウイの公安関係者や人権委員会に接触。カップルの釈放を強く求めたのです。私たちは、在マラウイの欧州外交官たちにも状況を伝え、協力を要請しました。
男性に生まれながら自らを女性と感じているティウォンゲ・チンバランガさん(20)と、スティーブン・モンジェザさん(26)のカップルは、昨年12月に、「不自然な行為」と「男性間のみだらな行為」 を理由に起訴されました。同性間の同意に基づく性交渉を犯罪とするマラウイの刑法は、植民地時代の刑法の名残です。その昔、英国の植民地指導者がアフリカ、アジア、太平洋地域で、性的行為や社会的行いを規制する法律を植民地に押し付けた事実について、ヒューマン・ライツ・ウォッチは詳細な報告書に明らかにしています。
しかし、今日、こうした植民地時代の歴史にもかかわらず、アジア諸国やアフリカ諸国の政府にはこうした法律を、各国の生来の文化や伝統に根付いたものとして擁護する国も多いのです。マラウイ法廷はカップルの保釈申請を却下しました。加えて、当事者の同意もなしに「男性間性交渉」の証拠採取のため、彼らを医療検査にまわしたのです。同性間性交渉を「証明」するための犯罪学上の法医学検査は、旧式で信用に足る類のものとはいえません。それに、拘束下で同意もなしに行われたとあっては、拷問にさえなりうるでしょう。
アルバニア
今年2月、アルバニアの議会は、ヒューマン・ライツ・ウォッチの強い働きかけをうけて、LGBTの人びとを暴力と不平等から守る「反差別法」を採択しました。同法の成立は、アルバニア一国における躍進を意味するだけでなく、近隣諸国にとって強力な前例となるものです。アルバニアは現在、欧州連合の一員になりたいと準備を進めている最中であることをふまえて、私たちは同法の実施状況をモニターし続けています。地元の人権団体と1年以上にわたり協力してこの法律改正を支援したのは、この法改正が、「ジョグジャカルタ原則」の謳う基準にのっとったLGBT保護を保障しうるものだからです。アルバニア社会に蔓延する同性愛嫌悪の風潮、そしてそれにも拘わらずLGBTの法的保護が全くない状況を憂慮した地元団体が、ヒューマン・ライツ・ウォッチにコンタクトしたことから、すべてが始まりました。地元団体は、職場での嫌がらせや差別、暴力の実態について伝えてくれました。そこで私たちは、アルバニアの10の人権団体と共に、首都ティラナでこの問題について話し合う円卓会議を開催しました。参加団体が出した結論は、アルバニアのLGBTに対する不平等な扱いからの明確な保護を目的とした法律こそが、政府の最優先事項であるべきだというものでした。
この円卓会議のあった週には、ヒューマン・ライツ・ウォッチLGBT権利プログラムのアドボカシーディレクターであるボリス・ディートリッヒがアルバニアのサリ・ベリーシャ首相をはじめとする各大臣や議員と面会し、この問題について議論。ディートリッヒはそこで、もし欧州連合や国際法に沿った反差別法をアルバニアが成立させれば、欧州連合参加の可能性も高まると強調しました。
これに応え、ベリーシャ首相は市民社会団体を招き、反差別法について議論。アルバニアの人権団体が法案の第一草稿を作成し、政府とその内容について交渉。新法は今年2月に、首相の全面的な支援を受けて議会を通過したのです。
リトアニア
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、リトアニアで児童保護法に同性愛嫌悪的条項が付加されるのを阻止する活動を支援をしました。法改訂案のひとつは、「ホモセクシャルやバイセクシャル関係」を促進する情報を学校や公共の場で禁ずる、というものでした。
私たちは提言活動を通じて、こうした改正が、若者から人生や健康に関する決断を下すのに必要な情報を奪い去る結果となると説きました。加えて、いくつかの法案条項は、LGBT団体の存在や個人の言論の自由を否定するのに使われかねないことも指摘したのです。
地元のLGBT団体は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに支援を要請してきました。これに応えて私たちは、こうした団体の主要メンバーたちと会合をもち、戦略を共に練ったのです。ヒューマン・ライツ・ウォッチのLGBT権利プログラムのアドボカシーディレクターであるボリス・ディートリッヒは、こうしたNGOとの会合に加え、リトアニア議会の委員会メンバーや、改正を支援する保守系の国会議員たちとも面会したのです。
こうした活動の結果、リトアニア大統領が、この法改定案に拒否権を発動したのです。
しかし、戦いはそこでは終わりませんでした。数カ月後に、リトアニア議会が同法案について再び議論を再開したからです。そこで私たちは、主要な国会議員と再び会合をもち、改案に反対する私たちの姿勢を改めて表明。そして最終的には、議会自身が、特に差別的な法改定部分を拒否したのです。
ウガンダ
ウガンダで、世界的な非難の的になっていたウガンダの「反ホモセクシャル法案」議会通過が延期されました。数カ月にわたるヒューマン・ライツ・ウォッチのアドボカシー活動の成果でした。この法案は、LGBTに対し、死刑を含む深刻な刑罰を下す根拠になりえる法案です。また、LGBTの人びとの権利を支援する活動が犯罪とされる可能性も含むものです。ウガンダの上級調査員であるマリア・バーネットは、ウガンダの市民社会と密接に共闘して、法案の廃止はもちろん、国家ぐるみの同性愛嫌悪が廃絶されるよう、目指しています。
同法案を支持する勢力は、保守的なキリスト教的解釈からも力を得ています。そこで私たちヒューマン・ライツ・ウォッチなどのNGOは、今年はじめに行われた「国民祈祷朝食会」(National Prayer Breakfast)でオバマ政権に、この問題について取り上げるよう要請しました。朝食会の最中にオバマ大統領は、ウガンダの同法案を「憎むべき」ものと言及、クリントン国務長官もムセベニ・ウガンダ大統領に電話し、重大な懸念を伝えたと述べたのです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、引き続きウガンダの市民社会と密接に協力し、NGOがウガンダ政府や外交官、メディア関係者などに政策提言活動(アドボカシー活動)を行なうのを支援しています。そして、この法案の無期限延期に向け、力を合わせています。植民地時代から現在に続く同性愛の犯罪化の流れをここで止めるために。