ヘラート州アジザバッドで空襲によるダメージを受けた民家の様子。

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(ニューヨーク)-インターネットの内部告発サイト「ウィキリークス」が入手したアフガニスタン駐留米軍の機密文書により、2010年7月25日、これまで公開されていなかったアフガニスタンでの新たな民間人死傷事件が明らかになった。これらの民間人死傷事件の調査を行うことに、米軍とNATO軍は直ちに合意するべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

メディア報道は当初、漏えいした機密文書約9万点には、米軍やNATO軍がこれまでに関与を認めなかった戦闘中の民間人死傷事件が含まれていると示唆。ヒューマン・ライツ・ウォッチがこれまでに調査を行った事件のデータによる予備的研究によれば、民間人死傷者に関する戦闘後報告には誤報が多く、米軍及びNATO軍による民間人死者数に関する政府報告は、実際よりはるかに少ない数となっている上、誤報の訂正も非常に遅かった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフガニスタン調査員であるレイチェル・レイドは「流出した機密文書の内容から、米国政府とNATO関係者が、民間人死傷事件に関する軍の現場報告を信頼するべきでないことが明らかだ」と述べる。 「アフガニスタンで起きた当初段階の過ちをしっかり訂正し、誤報が公式報告に含まれることのないようにしなくては、民間人死傷事件を調査すると約束しても、意味がなくなってしまう。」

流出した機密文書のなかには、ヒューマン・ライツ・ウォッチがアフガニスタンで調査した事件に関する文書も含まれており、軍の事実調査が不正確であったために、民間人死傷者に関する政府公式報告も不正確になっていることを示している。米国政府とNATO関係者は、民間人死傷者に関するより正確な報告を無視し、流出文書にあるような「現場報告」、つまり下級指揮官による戦場実態報告に依存しすぎてきたとも考えられる。2008年8月に行われたヘラート州(Herat province)アジザバッド (Azizabad)での空爆の後、米国政府とNATOは当初、僅か5名から7名の民間人しか死亡していないと発表。漏えいした情報により、「現場報告」に記載されていたのがこの数ということが分かった。国連、アフガニスタン政府、アフガン独立人権委員会(Afghan Independent Human Rights Commission)はそれぞれ独立した調査を行い、アジザバッドでの空爆による民間人死者は78名から92名で、こうした犠牲者の大多数は女性と子どもだったと結論付けたが、米国政府とNATOはそれを公式に否定した。その後になってやっと、米国政府は、殺害された民間人の数は33名だったと当初の推定数を訂正。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチはその数も現実より過小であると考える。

米国政府側は、アジザバッド村空爆で、軍事目標であるタリバン指揮官のムラー・サディク(Mullah Sadiq)を殺害した、とも主張していた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは今回公表された機密文書を分析し、攻撃の数カ月後にあたる2008年10月から12月にかけて、サディク指揮官がその地域で軍事行動を行っていたとする情報をを得た。ヒューマン・ライツ・ウォッチは以前、ロバート・ゲーツ米国国防長官に対し、サディク指揮官の所在を含むこの空爆事件に関する調査の結果について、機密してを解除して公表するよう求めていた。

「漏えい情報公開によって、アジザバッド村の空爆の悲劇は再び注目を集めることとなった。しかし、多くの疑惑については、回答を得られないままだ」と前出のレイドは述べる。「この事件はもちろん、その他の事件についても、調査が必要なのは明らかだ」

もう一つの事件でも、米軍の現場報告は、交戦の際に民間人は負傷しただけであるとし、2009年5月にファラー州のバラ・バルク(Bala Baluk)で行われた空爆を正当化。この時も、事件に対する米国の公式政府報告は、民間人誤爆問題を軽視。後に、民間人80名が殺害されたという国連とアフガニスタン独立人権委員会の報告が出されるも、米国政府はこれを無視した。民間人26名以上が殺害された模様であると米国政府の調査員が結論付けたのは、そのたった2週間後のことであった。

民間人が多数犠牲となっている実態に懸念が高まっているのに対応して、米軍とNATO軍は、2008年9月、12月、2009年9月、2010年1月の4度にわたり、現場部隊への「戦術命令(tactical directives)」などの、戦闘ガイドラインの内容を多数変更したと発表。この変更は、民間人犠牲の原因となってきた空襲やいわゆる「夜間攻撃」の許可基準を厳格化するとともに、民間人被害がでた場合に透明性のある速やかな調査行うとともに、調査する前に民間人死者が出たことを報道発表で否定することを戒める内容となっており、ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれを歓迎している。2009年及び2010年には、空襲による民間人死者数は減少。この「戦術命令」の影響と見られる。しかし、空襲により多数の民間人が犠牲になっている状況は依然続いており、また、米軍増派により夜間攻撃が増えている。

米国政府とNATOは、流出した機密文書(2009年12月付まで存在)により提起された懸念は、先の戦術変更により対処済みである、と示唆。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、米国政府が、民間人死傷事件に対し透明性のある調査を行なうという2008年9月付ガイドラインを、時に軽視している、と指摘。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、アフガニスタン東部のナンガハル(Nangarhar)州で、2010年5月、米軍による夜間攻撃の結果、民間人9名が死亡した事件を調査。米国政府は、今日までこの事件に対する調査を行なうことを拒否するとともに、「民間人が殺された」と主張する被害者の遺族やアフガニスタン政府関係者の主張も否定した。夜間攻撃後、2人が5日間拘束されたが、尋問されることもなく釈放された。アフガニスタン駐留の米軍スポークスマンであるウェイン・シャンクス(Wayne Shanks)大佐は、7月26日、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、この襲撃でタリバン副指揮官ムラー・シャムスディン(Mullah Shamsuddin)を殺害した、と述べた。しかし、アフガン政府による調査を率いたアフガニスタン内務大臣付き犯罪情報局長モハマド・ミルザ・ヤルマンド(Mohammad Mirza Yarmand)大佐は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、地元住民たちは、以前より、米軍が殺したのはシャムスディン指揮官ではなく、シャムスラーマン(Shamsurrahman)という名前の学生だったと証言していた、という。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、米軍に対し、この事件への徹底的かつ透明性の高い調査を行うよう要請した。

「犠牲者の遺族やアフガニスタン政府からの抗議をこのまま無視し続ければ、民間人死傷事件に対するアフガニスタンの人びとの怒りを増大させるだけだ」と、前出のレイドは述べる。「米軍は民間人死傷事件を調査し、誤りがあった場合には、しっかり関係者に責任を取らせるべきである。」

今回流出した情報は、タリバンなどの反政府武装勢力も、膨大な数の民間人死傷事件を引き起こしていることを示している。国連の調査の結果、2009年中に殺害された総計2412名の民間人の2/3であたる1630名を殺害したのは、「反政府グループ」によることが明らかにされた。タリバンなどの反政府武装勢力は、民間人に意図的に無差別攻撃を行うとともに、民間人を人間の盾に使うなど、戦時国際法に対する違反行為を繰り返しており、ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれを批判し続けてきている。