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スリランカ:反国連デモは、戦争責任回避キャンペーンの一環

国連事務総長が設置した専門家委員会 内戦時の戦争責任問題 前進の見通し

(ニューヨーク) - ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、スリランカの閣僚が率いた反国連抗議デモは、内戦における戦争犯罪の調査に対するスリランカ政府の敵意を明白にするものであると述べた。抗議の対象となったのは、国連事務総長が設置した国連専門家委員会。スリランカ政府とタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の内戦は昨年、終結した。

スリランカ政府による一連の激しい抗議にもかかわらず、潘基文国連事務総長が自ら設置した3名の司法専門家から成る同委員会を支持し続けていることは、戦争犯罪の責任を明らかにするための、重要かつ新たな事務総長の決意の表れといえよう。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレイン・ピアソンは、「在コロンボ国連施設に対するスリランカ政府主導のデモは、国連専門家委員会にまた新たな脅威が登場したことを示している」と述べた。「戦時の残虐行為に関する実態調査に、スリランカ政府が真剣に取り組むのではないかとこれまで考えていた人は、国連事務総長に提言を行なう3人の専門家に向けられた今回の騒動に目を向けるべきだ。」


2010年7月6日、ウィマル・ウィーラワンサ住宅建設相(Wimal Weerawansa)は、当初数百人規模のデモ隊を率いて国連施設の包囲を開始。国連職員の出入りを妨害するという嫌がらせを続けた。デモ隊の抗議対象は、国連事務総長が設立した専門家委員会。国連事務総長に任命された専門家陣は、スリランカ政府とLTTE間の内戦終盤における国際人権法及び人道法の違反という戦争責任問題をどのようなメカニズムで問うべきか、事務総長に提言するのが任務である。


7月8日、国連事務総長は、「閣僚の主導による無秩序な抗議活動の結果、在コロンボ国連施設の業務が妨害された。スリランカ政府当局がこれを阻止しなかったことは、容認できない」とする声明を発表。事務総長は、スリランカ国連常駐コーディネーターのニール・バヌ氏を協議のためにニューヨークへ呼び戻し、国連施設に及んだ影響の「直接対応」として、在コロンボ国連開発計画アジア太平洋地域事務所を閉鎖した。


7月10日、米国、欧州連合、並びに欧州諸国の大使8名が共同声明で、「平和的な抗議活動は民主主義の一環である。とはいえ、国連施設へのアクセス妨害....国連職員への脅しや嫌がらせは国際規範に反するものである。ついては、スリランカに対する世評にも傷がつくことになろう」と述べた。

前出のピアソンは、「コロンボでの抗議デモにも拘わらず、潘事務総長は自らの信念を堅持している。スリランカにおける法の裁きと戦争責任問題の解決に向けた、強力な後押しを意味する」と述べる。「スリランカ政府は、事務総長に抗議するのではなく、協力するべき時期に来ている。」

背景
2009年5月に四半世紀に及んだ武力紛争が終結して以来、スリランカ政府は戦争放棄違反問題に対して、真剣な調査を怠ってきた。政府軍が多くの一般市民に対する無差別攻撃に関与したとされる一方、LTTEも一般市民を「人間の盾」に使ったうえ、安全な場所への避難を妨害した。国連の推計によると、7,000人以上の一般市民が内戦終盤の数カ月間に死亡している。

LTTEの敗北からわずか数日の時点で、マヒンダ・ラージャパクサ大統領は、内戦中の人権侵害疑惑に取り組むと潘事務総長に約束したが、その実行を怠ったまま現在に至る。政府はその場しのぎの調査委員会を2つ設立したが、いずれも実質的な調査を実施する権限を欠いていた。

これを踏まえ、2010年3月5日、潘事務総長は、戦争責任問題について次段階でとるべき行動について、事務総長に提言することを目的とした専門家委員会設置の意向をラージャパクサ大統領に伝えた。スリランカ政府は、これを内政干渉とするキャンペーンを展開して事務総長を攻撃、委員会設置は「全く不当」で「不必要」なものと喝破した。インドネシア人、南アフリカ人、米国人と3名の専門家から成る専門家委員会は6月に任命されたが、未だ召集されていない。スリランカ政府は即座に、同国を訪問する専門家にビザを発給しない旨を発表している。

内戦終盤の数カ月間における、スリランカ政府とLTTE双方の戦争法違反について、独立した国際調査の実施が求められる。そのために専門家委員会は、事務総長に具体案を盛り込んだ計画(ロードマップ)を提出するとともに、これを公表すべきである。

「今回起きた在コロンボの国連本部をめぐる騒動は、戦争犯罪被害に対するアカウンタビリティーを避けるのに、スリランカ政府が躍起になっていることを裏付ける、一連のエピソードのひとつに過ぎない。」続けてピアソンは、「専門家委員会設立は、独立した国際調査に向けたごく小さな第一歩かもしれないが、真の前進であることに変わりはない。戦争犯罪の不処罰終焉を誓った世界各国の政府は、スリランカにおける正義の実現を目指す事務総長を支持すべきだ」と述べる。

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