ビルマの女性の基本的な自由に対する継続的な制限と、軍事政権に反対する女性の迫害はビルマで最も深刻な人権問題のひとつです。本日、この法廷でこの問題について証言できることを大変嬉しく思います。

ビルマでは複数政党制に基づく選挙が20年ぶりに行われことになっています。にもかかわらず、ビルマの人権状況は非常に深刻です。今回の総選挙では、現政権に反対する勢力に属する多くの人々が、投獄あるいは身柄の拘束下にあり、制限だらけの一連の選挙法によって立候補を禁止されています。国内で基本的な自由が依然として制限されているため、身の危険を感じて参加を見合わる人たちも大勢存在します。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、このような人々を排除して行われる総選挙には重大な瑕疵があると考えます。1962年のネウィンによる軍事クーデター以来、女性たちは国政から排除され続けてきました。

ビルマには約2,100人の政治囚がいると推計されますが、そこには多くの女性も含まれております。自分の村で強制労働が日常的に行われていることを告発した若手の労働活動家であるスースーヌウェさん、88世代学生グループのメンバーであり、2007年に非暴力の反政府デモに関与したとして逮捕され、65年の刑を宣告されているニラーテインさんなどがいらっしゃいます。都市部でも農村部でも、女性たちは集会や表現、結社に関する基本的な自由を日常的に制限されています。また国境に近い民族紛争の発生地域でも、女性たちは国際人道法の重大な違反に該当する人権侵害に直面しています。

紛争地域での人権侵害

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、紛争地域で、国軍による非戦闘員への人権侵害が広範に、かつ組織的な形で行われていると考えています。具体的には超法規的処刑、強制労働、拷問、暴行、土地や財産の強奪が挙げられます。ビルマの紛争地帯に住む民族的少数者の女性たちは特に深刻な人権侵害行為に直面しています。タッマドー(ビルマ国軍)や親軍政の軍閥による性暴力は、過去10年以上にわたって女性団体によって数多く報告されてきました。東部ビルマのシャン州やカレン(カイン)州や、西部ビルマのチン州やアラカン(ヤカイン)州では、未成年女性と成人女性が、たびたび強かんなどの人権侵害の標的になっております。こうした人権侵害が処罰されることはほとんどありません。ビルマ国軍兵士が性暴力で訴追されることは滅多にないのです。非国家武装集団のメンバーによる性暴力も問題です。しかし民族的少数者のコミュニティは、非常に強い恐怖心を抱いているため、そうした事例自体を報告しないケースが多く、実態の解明には至っておりません。非国家アクターによる性暴力も、政府軍による性暴力とまったく同様に深刻な被害を及ぼすものです。

女性に対する人権侵害はもちろんこのほかにも存在します。過酷な条件下で国軍部隊に従軍して行う荷物運搬(ポーター)型の強制労働もあります。国軍部隊の先頭を歩かされて「人間の盾」にされることもあります。歩哨役として、ゲリラの攻撃を防ぎ、地雷被害から部隊を守るのです。後者は「人間地雷探知機」と呼ばれています。このほかにも軍のキャンプを設営し、無償で料理や掃除をさせられています。ビルマの紛争に関係するすべての勢力が対人地雷や簡易爆発物(IED)を用いていますが、女性たちは特にこの被害を受けやすい立場にあります。地雷が多数敷設された地域で、農耕や畜産を任されることが多いためです。

国際人道法違反について言えば、ビルマ国軍と非政府武装集団は、対人地雷を恒常的に使用し、食糧生産や非戦闘員の生計を維持する手段への攻撃を行っています。ヒューマン・ライツ・ウォッチは今年2月に、水牛の世話をしている時に地雷を踏み、左脚を失った女性から話を聞きました。妊娠9カ月だったそうです。こうした出来事がごく当たり前のように起きているのです。

アラカン州西部の民族的少数者であるロヒンギャ・ムスリムの女性たちは、とりわけ過酷な扱いを受けています。ロヒンギャはビルマ国籍法により1982年から実質的に無国籍状態に置かれており、しかも長年にわたる軍事作戦の標的となっているために、ビルマからバングラデシュに逃れざるを得ない状況にあります。1978年と1991年には数十万人がバングラデシュ側に越境しています。ビルマ側のロヒンギャの生活の現状はきわめて悲惨です。様々なサービスへのアクセスが難しく、労働や生計の維持、教育、基本的な宗教活動のために移動することを禁じられています。女性たちの扱いは特に過酷です。たとえば基本的な医療を受けることができず、結婚には当局の許可が必要です。この15年間、ロヒンギャの窮状は多くの報告書に記されてきましたが、現状の改善に向けた動きはほとんどありませんでした。このことからわかるのは、ビルマ国軍が国際社会の非難に耳を貸すのは、対象限定型制裁や重大な人権侵害に関する訴追といった強力な手段の裏付けがあるときだけなのだということです。

以上に概説させていただいたような人権侵害についてこれまでにも、ヒューマン・ライツ・ウォッチはもちろん、国連諸機関、研究者、ジャーナリスト、女性団体などが、過去20年近く様々な事例を記録してきました。しかし人権侵害は、実行者が処罰されることのないままに今も続いているのです。

ビルマ市民社会での女性団体の活動

ビルマの公的な女性団体である、ミャンマー女性問題連盟(MWAF)やミャンマー母子福祉協会(MMCWA) は実質的には政府の組織です。団体の幹部は、現軍事政権=国家平和発展評議会(SPDC)高官の妻が独占しており、親政府プロパガンダの発信元として度々利用されています。民間セクターへの規制は都市部に関してはいくぶん緩和されました。しかしビルマ人自身や国際団体が担う事業は依然として規制の対象です。民族紛争発生地域では、シャン女性行動ネットワーク(SWAN)などの女性団体メンバーは「国家の敵」と見なされているので、もし国軍に逮捕されれば深刻な事態が発生します。このSWANはタイ・ビルマ国境とタイ国内に拠点を持ち、シャン人女性への支援やアドヴォカシー活動に取り組む団体として知られています。民族紛争発生地域や、政府の統制が及ぶ国内のそれ以外の地域でも数多くの女性団体が大きな危険を冒しつつ、大切な活動に取り組んでいます。例えば、難民キャンプの女性や子どもたちに医療サービスを提供する助産婦と医者の活動がありますし、本法廷で証言がされるような女性に対する無数の人権侵害を記録する活動に取り組む団体もあります。こうした団体の多くは、軍政当局から非合法組織と見なされており、活動を行うにあたっては大口寄付を受けることもできず、戦闘が発生するビルマ国内の地域に国境の反対側からアクセスするというきわめて危険な形で行われていることもしばしばです。

法の支配と女性の権利

ビルマ国軍は法制度を圧政のために利用しています。女性に対する人権侵害、とくに民主化蜂起が起きていた期間中や、武力紛争地域で広範に性暴力が発生しているとの訴えに対して、ビルマ政府はこれまで一度も、中立かつ独立したしっかりした調査を行うことはありませんでした。2003年に調査なるものが行われましたが、これは訴えをまともに取り合おうとしないミャンマー女性団体連盟や政府職員による茶番であることが明らかになりました。人権侵害の訴えが、ビルマ政府によって近いうちに調査される見込みはほとんどありません。2008年憲法の第343条によれば、ビルマ国軍の構成員は通常の裁判による訴追を実質的に免れることになります。司法面での最終決定権は国軍最高司令官にあるからです。ビルマ国軍は重大犯罪に関して自ら調査を行い、兵士を罰することをこれまでひたすら避けてきました。軍政は子ども兵士の問題について国連に多少の協力をしてきましたが、この問題を解決するために必要な最小限の前進すらないのが現実です。女性に対する人権侵害の恒常的な発生という事態は、子ども兵士問題よりもっと広範な問題ともいえますが、法的な調査が行われる見込みはより薄いと言えます。

戦争犯罪及び人道に対する罪に関する 調査委員会設置への支持を

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、あらゆる当事者によるビルマ国内での国際人道法及び国際人権法違反に関する違反の実態を調査するとともに、こうした人権侵害の実行者を、その責任の確実な追及を確保するために、特定することを目的とした調査委員会の設置を強く支持します。これは国連総会が設置するのが最も望ましい形と考えます。なお、こうした調査への支持は、すでにイギリス、オーストラリア、チェコ共和国、スロバキア各国政府が表明しているところであり、欧州議会では決議という形で示されています。日本政府が、国連のトップレベルでの調査委員会設置を公式に支持すれば、世界に対するリーダーシップ、法の支配の尊重、そしてビルマ国民へのコミットメントを表明することになると考えます。

これまで長い間、重大な人権侵害をめぐって、ビルマの女性たちには正義がもたされてきませんでした。しかし、我々は、今こそそれがなされるべき時であると考えます。