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イスラエル:軍によるガザ攻撃の調査は、公正かつ十分なものといえない

独立した調査が、未だに必要

(ニューヨーク)-昨年のガザ攻撃でのイスラエル軍の戦争法違反疑惑について、イスラエル政府が公正で十分な(thorough and impartial)調査を行なうとはいえない、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。戦争法(国際人道法)に違反した戦略を立案した軍幹部や政治家などの高官の責任も問うためには、独立した調査が不可欠である。

2010年2月4日、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イスラエル軍(IDF)の法律顧問と本調査について会談。軍による調査は継続中であるものの、イスラエル軍が公正で十分な調査を行なうことを示す情報は示されなかったほか、違法な民間人犠牲を生む原因となった戦略や命令自体も検証の対象となることを示す情報も、軍当局は示さなかった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局局長代理ジョー・ストークは「イスラエル政府は、信頼性の高い公正な調査を行なっていると主張しているが、これまでのところそうなってはいない」と語る。「多くの民間人が死亡した原因を解明し、違法な攻撃の犠牲となった人びとのために法の正義を実現するためには、独立した調査が必要不可欠だ。」

例えば、イスラエル軍の調査は、ジャバルヤ(Jabalya)の郊外にあるアル-バドル(al-Badr)製粉工場で見つかった航空爆弾の残骸という重要証拠を見過ごした。イスラエル軍は、ガザ攻撃に関する国連事実調査団に、その工場を空から狙ったことはないと主張。しかしながら、ヒューマン・ライツ・ウォッチが入手し本日公表したビデオには、攻撃をうけた工場の中に、MK-82イスラエル製500ポンド航空爆弾の残骸とすぐに分かる物体が映し出されている。しかも国連の地雷処理要員は、その爆弾の信管を抜いた、とも話している。

イスラエルの人権団体ブツレム(B'Tselem)によれば、ガザ攻撃の最中に犠牲になったパレスチナの民間人は750名以上。国連は、民家3500戸及び工場280棟近くが完全に破壊された、としている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イスラエル軍が戦争法に違反したと見られる19件の事件(民間人死者53名)について、調査をしてとりまとめた。この19件の事件の内訳は、白リン弾の違法使用6件、無人武装偵察飛行機による民間人攻撃6件、白旗を掲げていた民間人グループに対するイスラエル兵の発砲7件である。

イスラエル軍事法廷が、ガザ攻撃の際に行動をもって兵士に対して有罪を言い渡したのは、これまでに一件だけ。しかも、クレジットカード窃盗に対する有罪判決だった。

イスラエル軍法律顧問らは、ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査した全ての事件をイスラエル軍は調査している、という。うち7件は、白旗を振っている民間人に発砲した事件に対する刑事捜査とのこと。イスラエル軍は、当初、これらの事件についてのヒューマン・ライツ・ウォッチの報告を「信頼できない目撃証言」に基づいている、として無視していた。

イスラエル軍は、これまでに一定の具体的な事件について調査を行なっているものの、具体的な事件を超えて、戦争法に違反して民間人の犠牲を発生させる原因となった作戦そのものに対して検証を加えてはいない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

独立した調査を行ない、民間人の犠牲をもたらした軍事作戦を実行する前に行なわれた決定を検証しなければならない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。ハマスの政治機構を軍事標的とした決定や、居住地域で重砲や白リン弾を使用することとした決定、ガザ地区警察を攻撃するとした決定、無人武装偵察飛行機のオペレーターと地上軍に対してゆるやかな交戦規則でのぞむことを許すとした決定などの調査が必須である。

「イスラエル政府のこれまでの調査は、大抵、命令や交戦規則に従わなかった兵士たちを対象にしていた。しかし、その命令や交戦規則自体が戦争法に違反している、という重大な疑惑には、何ら答えていない」と前出のストークは語った。「こうした決定や戦略を立案した軍幹部や政府高官の責任が、問われなければならない。」

一方、イスラエルに向けて無差別に何百発ものロケット弾を発射したハマスが、無差別攻撃の容疑で関係者を訴追したという情報も寄せられてはいない。1月27日、ハマスは、報道機関向け声明と報告書の概略を発表。ハマスは、そこで、パレスチナ武装グループが発射したロケットはイスラエルの軍事目標を狙ったものであり、民間人の犠牲者の発生は事故にすぎない、と主張している。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、この結論を「法律的にも、事実の上でも、間違っている」と完全に否定。2月3日、ハマスは紛争の際に自らがとった行動に関する詳細な報告を公表した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは現在それを検討中である。

2009年9月、リチャード・ゴールドストーン判事率いる国連ガザ紛争事実調査団は、イスラエルとハマスが戦争犯罪を行なったと認定したほか、人道に対する罪にも該当する可能性がある、と判断。両当事者に対し、6ヶ月以内に公正な調査を行なうよう求めた。

11月5日、国連総会は、このゴールドストーン報告を承認。潘基文国連事務総長に対し、両当事者の国内の調査の進展状況について報告を作成するよう求めた。2月4日、潘事務総長は、イスラエル及びパレスチナ自治政府(ヨルダン川西岸が本拠地)から潘事務総長宛に提出された文書とともに、事務総長作成の報告書を総会に提出。両当事者による信頼性の高い公正な調査を改めて求めた。

「潘事務総長は、単に両当事者の主張を総会に伝えたに過ぎない。しかし国際基準に沿った信頼性の高い調査の重要性も、再度主張した」と前出のストークは語った。「しっかりした調査を行なうようにというイスラエルとハマスに対する圧力は今も加えられている。」

イスラエル政府によれば、軍はガザ地区での約150件の「調査」を行ってきた、という。しかし、事件の一覧表を開示することは拒んだ。150件の調査の内、約90件は、軍が「作戦報告聴取(ヘブライ語でターキル・ミヴザイ)」と称するものである。これらの調査は、作戦遂行の報告であり、犯罪捜査ではない。指揮系統上の上官が、事件に関与した兵士から聞き取り調査を行なうものの、被害者や目撃者からの証言は聴取しない。90件の内45件の調査が既に終了している。

イスラエル軍によれば、軍警察が36件の刑事捜査を命令しており、軍警察捜査官1名が、兵士たちから供述を取るとともに、外部からの証言も集めている、という。その中の1件が、クレジットカードの窃盗容疑に対する有罪判決で、懲役7ヶ月半の有罪判決が言い渡された。一方、うち7件は、証拠不十分または被害者に証言の意思がないために捜査が終了となっている。残りの28件の捜査は継続中である。

イスラエル軍は、ガザ攻撃の際の命令違反を理由に、兵士と将校4名を懲戒した、と述べた。その内の1件では、指揮官2名が、国連職員が砲撃を中止するよう数十本の電話をしたにも拘わらず、民間人700名が避難していた国連施設構内に、高性能爆薬を装てんした砲弾を撃ち込んだ件で、文書による戒告を受けている。この攻撃の際、砲弾に装てんされた白リン弾により国連倉庫が火災を起こし、構内にいた3名が負傷している。イスラエル軍は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、この事件における白リン弾使用の側面は今も捜査中であり、戒告処分の理由にはなっていないと述べた。その他2件の懲戒処分については、一件は国連の財産若しくは要員への攻撃の件であること、もう一件は器物損壊事件に関する件である、という以上の情報をイスラエル軍は公表していない。

アル-バドル(al-Badr)製粉工場への攻撃に関してヒューマン・ライツ・ウォッチが本日公表したビデオ映像は、2009年1月10日、被害を受けた後に工場の所有者が撮影したものである。国連事実調査団の報告は、イスラエル軍はガザ地区にある民間インフラに打撃を与えるために意図的に工場を爆撃した、と述べている。イスラエル政府は、イスラエル軍の調査の結果、その地区でハマスが活動していたのでこの工場は正当な軍事目標であったと結論付けるとともに、この攻撃は、戦車砲の攻撃であって工場への空爆ではないと判明した、としている。

国連は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに、2009年2月11日に地雷処理要員がその工場を訪れ、工場の上階に500ポンドMk-82航空爆弾の前半分を目撃したと伝えており、このビデオ映像はその証言を裏付けている。

イスラエル軍の法律顧問は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、新証拠が提出された場合には、捜査を再開する可能性があると述べた。

ガザ地区やヨルダン川西岸での戦争法違反疑惑について、これまでも、イスラエル政府はしっかりとした調査を行なってこなかった、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。イスラエルの人権団体イエシュ・ディン(Yesh Din)は、違法行為によって非常に多くの犠牲者が出ているにも拘らず、刑事捜査や訴追は少数にとどまっている実態、及び、兵士に対しても軽い刑罰しか言い渡されていない実態を取りまとめている。

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