(ニューヨーク) - ヒラリー・クリントン米国務長官は、米国籍を持つ収監中のビルマ人の人権活動家チョーゾールウィン氏(政治的な動機で起訴され、現在ビルマで公判中)の釈放を公けに求めるべきだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。チョーゾールウィン氏は、ビルマ国内の政治囚の状況に抗議して12月4日からハンガーストライキを行なっており、その影響もあって、健康状態がすぐれない。
米国は9月に新しい対ビルマ政策(「実際的な関与策」とうたわれている)を発表。しかし、今までのところビルマ軍政と民主化勢力との政治和解はまったく前進しておらず、政治囚がわずかに釈放された程度だ。カート・キャンベル国務次官補とスコット・マーシェル国務次官補代理が11月にビルマを訪問したが、これまで米政府高官は誰もチョーゾールウィン氏の釈放を公けに求めていない。
「ビルマが米国民を継続的に収監している状態は、米国の新政策に暗い影を落としている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理のエレーン・ピアソンは述べた。「オバマ政権はチョーゾールウィン氏の即時無条件釈放をはっきりと要求すべきだ。」
今週送付された書簡には超党派の米国下院議員53人が署名。この書簡はビルマ政府の指導者タンシュエ氏に対し、チョーゾールウィン氏を即時釈放するよう求めている。
チョーゾールウィン氏(40)(別名ニーニーアウン)は、タイでビルマ政治囚の即時釈放を求めるキャンペーン活動に関わっていた。母と2人のいとこは、2007年の平和的な抗議行動に参加したとしてビルマで長期刑を下され収監されている。
ビルマ当局は9月3日にラングーン国際空港でチョーゾールウィン氏を逮捕した。氏は当初は、国家安全保障に関わる法令に違反した容疑とされた。しかしその後、米国旅券の所持者であるにもかかわらず、偽造したビルマの国民登録証を所持したという容疑で起訴された。氏はまた税関検査時に外貨所持を申告しなかった容疑も問われているが、そもそも当局は、氏が税関窓口を通過するより前に身柄を拘束している。
チョーゾールウィン氏には、米国の領事館職員が定期的に領事訪問を行っていた。だが氏が12月4日にハンガーストライキに入ってからは面会が途切れている。訪問は、領事館側からの再三の要請にもかかわらず、12月3日を最後に許可されていない。領事関係に関するウィーン条約は「領事官は、留置され、勾留され又は拘禁されている派遣国の国民を訪問し、当該国民と面談し及び文通し並びに当該国民のために弁護人をあっせんする権利を有する」(第36条1項c)と定めている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは長年にわたり、ビルマ国内で行なわれた不公正な裁判に関し、調査・報告を行ってきた。ラングーンのインセイン刑務所内で行われたチョーゾールウィン氏の裁判は一般には非公開とされ、米国の領事代表一人の出席が許可されただけだった。12月11日、裁判所は「健康上の理由」で審理を延期した。
米国政府は、今年前半に民主化指導者アウンサンスーチー氏の自宅を泳いで訪れたジョン・イェトー氏の件については公の場ではっきり言及していた。しかし、チョーゾールウィン氏の件を取り上げていないことにヒューマン・ライツ・ウォッチは懸念を表明した。イェトー氏の行動により、本人とスーチー氏と氏の世話係2人は全員が拘束され、起訴されている。スーチー氏は有罪とされ3年の刑を宣告された(後に刑はビルマ政府の指導者タンシュエ氏により1年半の自宅軟禁措置に減刑)。8月、クリントン氏は「私たちはまた2,000人以上のビルマ政治囚の釈放を求める。そこには米国人のジョン・イェトー氏も含まれる」と述べていた。
8月後半にジェイムズ・ウェッブ米上院議員はビルマを訪問し、軍政幹部とスーチー氏との面会を行った。この際にイェトー氏を釈放するとの確約を取り付けた。ウェッブ氏はチョーゾールウィン氏への領事訪問を要求したものの、即時釈放までは求めなかった。
「米政府高官が、チョーゾールウィン氏のような献身的な人権活動家が逮捕されている件については何も発言しない一方で、スーチー氏が投獄される原因となった人物を弁護する態度を取ったことは理解に苦しむ」とピアソンは述べた。
チョーゾールウィン氏は、1993年に米国で難民と認定され、メリーランド州に住んでいた。婚約者のワーワーチョー氏は現在もメリーランド州で暮らしている。11月10日に、メリーランド州選出のバーバラ・ミカルスキ米上院議員はクリントン国務長官に書簡を送り、チョーゾールウィン氏の件について直接クリントン長官が取り上げるよう求めた。同議員は「私は、貴殿に対し、ルウィン氏の拘束を可能な限り強く非難するとともに、国務省がルウィン氏の釈放にむけてその権限の範囲内であらゆる事を行うことを確約するよう強く求める」と記した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチも、国連に対し、チョーゾールウィン氏の釈放に向けた働きかけを強めるよう求めた。チョーゾールウィン氏は2009年6月に、国連事務総長特別顧問でビルマ担当特使イブラヒム・ガンバリ氏に68万の署名を手渡すため、タイからニューヨークに渡った。この嘆願書は、潘基文国連事務総長に対して、2,000人を超す政治囚の釈放を強く働きかけるよう訴えるものだった。
「国連高官に会見して政治囚の釈放を働きかけた当の本人が投獄されているというのは、残酷で皮肉な事態だ」とピアソンは述べた。「国連は、ガンバリ氏とチョーゾールウィン氏が会談したことが理由となって氏が投獄されていることを認識すべきであり、その上で、潘事務総長はチョーゾールウィン氏の釈放をはっきり求めていくべきだ。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、過去2年で、ビルマ国内の政治囚の数は2倍になったと述べた。お笑い芸人のザーガナ氏や元学生指導者ミンコーナイン氏、女性活動家のスースーヌウェ氏、仏教僧のウー・ガンビラ師など社会のあらゆる層の人びとが政治囚として投獄されている。民主化指導者スーチー氏が抑圧に対する闘争の世界的な象徴だが、その他に少なくとも2,100人の政治囚が、現在もビルマ国内の狭苦しい刑務所で厳しい生活を送っている。
9月以降も、政治活動家やジャーナリスト、仏教僧の逮捕が続き、当局はビルマ全土で推計約50人が逮捕・拘束。活動家に対する秘密裁判も進行中で、弁護士が嫌がらせを受けるケースが多いだけでなく、弁護士本人が投獄された事例もある。