(ニューヨーク)イラン政府は、イラン弁護士会の独立性を著しく侵害するとともに、弁護士資格の付与・剥奪の権限をイラン政府に与えるとする新たな規則を撤回すべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
弁護士会の独立性を定めた法の施行規則に対する改正の結果、弁護士資格の認可の決定権を、司法権が握ることとなった。司法権は長官がイラン最高指導者により任命され、法務省を管轄する組織だ。過去50年間、弁護士会が、弁護士資格の認可を行ってきた。弁護士会の独立性を定めた1955年法は、弁護士会の承認無しにこの法律を変更することはできないと定めている。
「今回の『改革』は、イラン政府に、政府に都合が良い弁護士だけを選ぶ権限を与えることとなる」とヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局長代理ジョー・ストークは述べた。「イラン政府が、何百人もの人びとを容疑も明らかにせずに拘束をし続けている現在、この改定規則は、イランの刑事弁護人に対する事実上の脅迫にほかならない。」
アーヤトッラー・ハーシェミー・シャーフルーディー司法権長官は、6月17日、イラン弁護士会の独立性を定めた1955年法の施行規則の改定を承認。改定後の施行規則は、議会など他の政府機関の承認が不要のため、すぐに効力を持つ。これにより弁護士会の独立性は損なわれ、イラン政府が、政治を批判する弁護士や人権派の弁護士から、弁護士資格を剥奪できることになる。
イランの有力な弁護士らは、司法権長官には、弁護士会との協議なしに施行規則を変更する権限はない、と述べる。「シャーフルーディー長官は、こうした規則改定の権限が自分にはないことを知っているはずだ」とノーベル賞受賞者で著名な人権活動家のシリン・エバディ弁護士はヒューマン・ライツ・ウォッチに述べた。「彼は、政治的圧力を受けて、この改定を承認したのだろう」
第11条は、弁護士会の入会の承認や資格更新に関する決定は、5人の委員会が行うとする。3人は、司法権長官が任命し、残りの2人は弁護士会の理事会が指名した後、司法権長官が承認する。
第17条は「副司法権長官その他司法権の代表が、弁護士資格付与に関する権限を有する」とする。
ここ数年、イラン政府は、エバディ弁護士やモハンマド・セイフザーデ弁護士などの有力な人権弁護士たちについて、政治的動機に基づき、イラン弁護士会に懲戒申立てを行なっている。現在までのところ、弁護士会側はこの申立を拒否してきた、と弁護士たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに述べた。
司法権は、激しい抗議運動の原因となった6月12日の大統領選挙から1週間もたたずに、この規則の改定を承認。丸腰で抗議活動を行なった人びとにイラン政府が苛烈な弾圧を加えている真っ最中の出来事である。厳しいメディア規制がひかれ、著名な人権弁護士たち数名が拘束されたほか、何百人もの活動家やジャーナリストたちが拘束されるなか、人びとは、今回の規則改訂に対して異を唱えたり、法改正がもたらす危険について論じることが困難な状況におかれている。
1955年法は、弁護士会の独立を定めるとともに、弁護士会のみに(法務省の承認なしに)弁護士資格の付与や剥奪の権限を与える。この1955年法は、法律上は現在も有効で、弁護士の独立に対する司法権の介入を認めていない。また、1955年法は、同法やその施行規則の改正には、弁護士会の承認が必要と規定している。
テへランのナスリーン・ソトゥーデ弁護士は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、この施行規則改正により、自分のような弁護士は危険にさらされることになったし、仮に無免許で弁護士業務を行なえば、とても重い処罰が待ち受けている、と述べた。
「私たちは投獄される危険がある。それで、弁護士会に所属するすべての弁護士たちは、行政裁判所に異議申立を行なう準備がある、と宣言した。それから、人権活動家たちとも会合をもって、広範な法曹関係者が今回の改訂に反対していることを示すため、これから毎日、5人から10人が、改定規則を無効にするよう求める異議申立を提出し続けることにした。そうやって、司法権に、今回の改定に反対しているのは弁護士会だけではない、ということをわからせるのよ。」
7月6日、人権擁護協会の創立者で著名な人権弁護士モハンマド・アリー・ダードハーフ弁護士が、テヘランの事務所内で逮捕された。ダードハーフ弁護士のある同僚弁護士によると、ダードハーフ弁護士は、他の弁護士たちと今回の改定規則の検討会議を行なっていた最中に逮捕された、という。ダードハーフ弁護士の娘のマリーヘも、サーラー・サバギアンやバハーレ・ドワルーやアミ-ル・ライーシャンらとともに逮捕された。彼らのその後の行方は不明である。
7月4日、弁護士会の前会長バフマン・ケシャーヴァルズ弁護士は「エッテマーデ・メッリー」紙に対し、以下のように述べた。
「今後、政府批判をした弁護士や、政府に敵視された人物を弁護した弁護士などは、突然、弁護士資格を剥奪される憂き目にあうだろう。イランの知識人たちは、自らの思想ゆえに訴追され、しかも、適切な弁護を受けることもできない。なぜなら、そんな事件を受任する勇気のある弁護士たちは、既に資格を剥奪されているか、あるいは、将来資格を剥奪されてしまうだろうからだ。イラン政府のブラックリストに載せられた政治家たちも、自分を弁護してくれる独立した弁護士を探すことすらできない。重大な罪に問われているにも拘わらず、司法の場で弁護を受けることができない人のことを考えると、本当に胸が苦しい。」
国連の「弁護士の役割に関する基本原則」は、「弁護士の職務上の自立性を守るため」、弁護士は、独立した「自治」組織を設立する権利を有し、「外部の干渉なく職務を行なう」と定める。ナイジェリア政府が、弁護士資格の得失に関する権限など弁護士会の権限を政府に移行しようとした際、アフリカ人権委員会は、これを結社の自由の基本的権利の侵害と判示している。