(ニューヨーク)-6月12日のイランでの選挙結果をめぐる対立が続き、治安目的の弾圧が拡大する中、虐待で悪名高いイランの検察官サイード・モルタザヴィ(Saeed Mortazavi)が、逮捕された改革派指導者や党役員たちの捜査を担当している、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。強権的なイラン治安部隊が、選挙後の抗議運動を鎮圧しようと、既に1週間以上も弾圧を続けている。その中で、過去、拷問、違法逮捕、虚偽自白強要などの事件に関与してきたと見られるモルタザヴィが暗躍していることが明らかになった。

「イランは、改革派の抗議運動参加者に暴力的かつ恣意的な弾圧を行ない、既に幾人もの命を奪い、1,000人以上を逮捕した」、とヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局長サラ・リー・ウィットソンは述べた。「こうした弾圧事件の捜査をモルタザヴィ検察官が担当していることは、イラン当局が、改革派勢力に対し、捏造した容疑を強制しようとしていることを示している。」

6月19日、イラン最高指導者アリ・ハメネイ師は、その説教の際、選挙結果に対する抗議運動は終結されねばならず、いかなる暴力の責任も改革派政治指導者にあると、強硬な意見を述べた。これを受けて、イランの治安部隊は、6月20日、民衆の抗議運動に対する大規模な弾圧を開始した。

特別機動隊、革命防衛隊、準軍事組織バシジなどが、首都テヘランをはじめとするイランの諸都市の全域に配置され、圧倒的な力を誇示、抗議運動参加者が集まるのを阻止するとともに、更なるデモを行おうとする人々のあらゆる試みに対し、直ちに暴力をもって対応している。そして、治安部隊と丸腰のデモ参加者たちが衝突した際、治安部隊は抗議者を散会させるため催涙ガスとゴム弾に加えて実弾を使用した、と目撃者たちは語る。

6月20日におきた治安部隊と抗議者たちとの衝突で、少なくとも10名が死亡、100名が負傷した。死亡者の中には、カルガル(Kargar)通りで抗議運動に居合わせて、胸を撃たれた哲学専攻の学生ネダ・アグハ-ソルタン(26歳、Neda Agha-Soltan)がいる。家族と目撃者たちによれば、銃撃が起きた時、アグハ-ソルタンは積極的に抗議運動をしていたわけではなかったそうである。アザディ(Azadi)広場での大きな抗議運動の現場から数キロ離れた所で、渋滞に巻き込まれ、個人所有の車から降りた直後だった。彼女が撃たれた近隣では、抗議者と治安部隊の激しい衝突はなかった、と多くの目撃者が語っている。

アグハ-ソルタンの死は携帯電話のビデオが捉え、世界中に流された。イラン政府は、検死も行わないまま、直ちに彼女を埋葬するよう家族に命じ、あらゆる追悼式を禁止した。

6月22日、武装機動隊とバイクに乗った多くのバシジ民兵が、テヘランのハフテ・ティル(Hafte Tir)広場をはじめとするテヘランの各地で、デモ参加者が街頭に出るのを阻止しようとした際、目撃者たちによると、さらなる逮捕が行なわれた。

丸腰の抗議者たちに対する射殺事件に対し、独立した調査を迅速に行なう必要がある。そして、命令を下した者をふくめ、殺害の責任者を訴追しなくてはならない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「6月20日、テヘランの街頭で何が起きたかを明らかにしなくてはならない。しかし、イラン政府は、それどころか、デモ参加者たちを殺害した治安部隊の責任を隠蔽することにかまけている」とウィットソンは語った。「イラン最高指導者が、治安部隊に対し、抗議運動を終結させるためなら、いかなる暴力を行使しても許されるという強いメッセージを送ったことは明確である。」

治安部隊は、政権に反対する改革派勢力を逮捕する全国的なキャンペーンも強めている。国営メディアによれば、日曜日の衝突の際、テヘランだけで少なくとも457名が逮捕されたそうであるが、全国で逮捕された者の数は数千に及ぶ、と改革派勢力は現在報告している。治安部隊が逮捕しているのは抗議運動に参加していた人々のみではない。主要な改革派政治家や聖職者、学生指導者、イラン人ジャーナリスト、ブロガー、改革派政党の役員たち、テヘランをはじめとする諸都市の人権弁護士と人権活動家への逮捕も続いているという情報をヒューマン・ライツ・ウォッチは入手している。

6月12日の選挙結果に対する対立が続く中で逮捕された3名の人々の家族たちと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは話をした。逮捕された人びとに対する捜査のチームを率いているのが、イスラム革命裁判所検察官でありテヘラン検事正でもあるモルタザヴィであることを、家族たちは確認した。ヒューマン・ライツ・ウォッチが以前行なった調査結果は、モルタザヴィが、拷問や違法拘留、虚偽自白強要など、重大な人権侵害に関与していることを示している。

2000年4月、当時公共裁判所1410支部の裁判官だったモルタザヴィは、政府に対する批判的意見が勢いを増していたのに対する弾圧の先頭に立った。そして、100以上の新聞と定期刊行物の閉鎖を命令。2003年6月、イラン系カナダ人のフォトジャーナリスト ザフラ・カゼミ(Zahra Kazemi)は、司法当局と治安当局により収監されている間に、死亡。その統括をしていたのがモルタザヴィだった。ザフラ・カゼミの遺族の弁護士たちは、遺体には頭部への打撃などの拷問の跡があったこと、そして、モルタザヴィが彼女を直接尋問していた、と主張している。

2004年、モルタザヴィは20名以上のブロガーとジャーナリストの恣意的逮捕を指揮し、秘密刑務所に同人たちを拘禁。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、モルタザヴィが、拘束中の人々に対し、長期間の隔離拘禁、虚偽自白強要などの虐待に関与している事実を明らかにした。後に、虚偽自白への署名がテレビカメラの前で繰り返された。

「今回のテヘランでの弾圧事件で、サイード・モルタザヴィが重要な役割をまかされたとう事実は、彼の経歴を知るすべての人びとの懸念を掻き立てるであろう」とウィットソンは述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが連絡を取った家族たちによると、逮捕された多くの人びとは、弁護士や家族の面会も許されず、正式な容疑も知らされないまま、隔離拘禁されている模様。正式な容疑事実の告知がなされていないことは、イランにも適用される国際人権法が、逮捕された者に「速やかに」容疑を知らせることを義務付けていることに違反している。多くの政治犯が収監されているテヘランのエヴィン(Evin)刑務所で、収容された人々と家族との間で通常は許されている制限つきの連絡通信さえも遮断されている、と逮捕者の家族たちは報告している。国連の拘禁に関する諸原則は、すべての拘束された人々が、逮捕の事実及び拘禁されている場所を家族に知らせる権利(又は適切な機関に家族への告知を求める権利)を有することを明らかにするとともに、拘禁された人びとが、弁護人と接見して相談をする権利を有することも明らかにしている。

逮捕された改革派の人物の息子は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに以下のとおり語った:

「イラン政府は、有名な改革派の人物、とりわけイスラム共和モジャヘディン党(Mojahedin of the Islamic Republic Party)のメンバーを即座に逮捕した。この事実は、イラン政府によって選挙前から計画されていた事を示すとともに、当局は逮捕の口実として選挙後の混乱を利用したのだということも明らかにしている。私たちは、イラン政府が、逮捕した人々に、抗議運動での指導的役割を担ったと自白する調書への強制的な署名をさせるのではないかととても心配している。」

逮捕された人びとの多くは、改革派大統領候補たちの戦略担当者や選挙運動担当として著名な人びとだった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査をした事件の1つは、ミル・フセイン・ムサビ(Mir Hussein Mousav)選挙運動のテヘランの青年部門のリーダーの1人であるアミル・フセイン・シェムシャディ(Amir Hussein Shemshadi)に対する6月15日の逮捕だ。父親によれば、彼は、逮捕以来、隔離拘禁されている模様。

「8日前に逮捕されて以来、息子から、電話も、何の連絡もないんです。私たちは息子が何処にいるのかもわかりません。私たちの質問には誰も答えてくれません。いつ息子を逮捕したのか?私たちには何の令状も見せてくれないし、息子のやった犯罪が何なのかも言ってくれません。私はたくさんの刑務所や拘置所を訪ねました。でも、息子は何処にもいませんでした。」

6月13日に逮捕されたある改革派の指導的な人物の妻は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、逮捕されて以来、夫と話をできていないし、弁護士も夫と面会できていない、と語った。夫が、捏造された容疑を自白させられるのではないかと心配だ、と彼女はヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。

「今回の事態で政府が行なった行為を役割を正当化するため、イラン政府は、混乱の責任を負わせる人間を常に探し回っているの。だから、イラン政府は、私たちの家族に、無理強いを続けているのよ。[イランで]刑務所に行ったことがある人ならみんな、自白しろって無理強いされた経験がある。夫は『もし僕が逮捕されたら、拘束中に僕が何を言おうと、君はそれを真に受けてはいけないよ、だって僕は無理強いされているんだから』て言っていたわ。裁判官は私に、『ここにいる連中は暴動の原因で、連中に対する証拠を精査しているところだ』って言ったわ。私は裁判官に『それは違うわ。あなたは、逮捕した人たちの事件をでっち上げているのに忙しいのよ』って言ってやったわ。」

イラン政府は、これまでも、しばしば、政府を批判する者や政治的なライバルを、捏造された犯罪容疑で刑務所送りにしてきた。今回の弾圧の際に逮捕された人々のうち相当数が、以前にもイラン政府によって刑務所行きにされた経験を有している。

イラン政府は、自分たちが行なっている弾圧への関心を逸らす目的で、イランの「テロリスト」が暴力行為を行なっていると組織的に喧伝している。こうしたイランの「テロリスト」を、イランの不安定化を狙う外国勢力が支援している、というのである。

イランのメヌチェフル・モッタキ外相は、テヘランで、諸外国の外交官に向けてスピーチを行ない、「選挙に先立って洪水のように流入した英国情報機関員」が、選挙後のイランを不安定化しようとする陰謀を企てた、と非難した。イラン最高指導者アリ・ハメネイ師は、6月19日、抗議運動の終結を要求する金曜日の説教の中で、改革派政治家を恫喝するとともに、抗議運動の責任が外交官たちにあると非難した。

「全ての紳士諸君(改革派候補者)、全ての兄弟そして友人に助言申し上げる。敵の手をよく監視するように。彼らは私たちを待ち伏せる、外交官というマスクをかなぐりすてた、飢えた狼なのです。見くびってはなりません。私は、他国の外交官がこの数日間マスクを脱ぎ捨て、正体(意図)を表してきている、と皆さんに申し上げているのです。その中で最も邪悪なる者たちは英国政府です。」

改革派指導者に対する逮捕と脅迫が急増する現状を前に、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、治安部隊が、逮捕された人々に、改革派指導者に関する虚偽自白を強要するであろうと懸念している。イラン当局の高官たちは、既に、改革派のムサビ大統領候補に、刑事犯罪容疑を掛けると恫喝している。アリ・シャフロキー(Ali Shahrokhi)議会司法委員会委員長は以下のように言明した。

「ムサビは違法な抗議運動を呼びかけ、挑発的な発言を行なっているが、それはイランにおける先頃の騒乱の源泉となっている。そのような犯罪行為は厳しく対処されるべきである。ムサビを法的に追い詰める素地は固まった。」

「イラン政府は、抗議をしている人びとに治安部隊をけし掛け、抗議運動をピタリと止めようと意図している」とウィットソンは述べた。「しかし、激しい暴力と大量逮捕は最初の1歩に過ぎない。その次には、容疑を捏造していくことが予想される。」