(ニューヨーク)----まもなく初公判が始まるカンボジア特別法廷は、政治干渉をはねのけ、公正な裁判に関する国際基準を満たさなければならない、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。本法廷には、1970年代後半のポル・ポト派による200万ともいわれる人々の殺害について、ポト派元指導者たちが人道に反する罪の容疑で訴追されている。

国連の支援をうけて3年前に活動を開始したカンボジア特別法廷(ECCC)は、カンボジア人判事と国際判事からなる混合法廷だが、汚職と政治干渉という重大な疑惑に直面している。2009年2月17日、同法廷は、拷問で悪名高いツールスレン収容所長のカン・ケク・イウ(通称ドゥック)に対する初公判を開始する予定である。現在、5名の元ポル・ポト派指導者の訴訟手続きが進行中であるが、そのなかでドゥックが最初の公判審理に進むことになる。

「カンボジア特別法廷が政治的な操作を行なえば、いかなる操作であれ、カンボジア国民の本法廷に対する信頼は損なわれることになる」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのカンボジア駐在上級調査員サラ・コルムは述べた。「汚職、および、カンボジア政府による不適切な干渉の疑惑をしっかり調査して問題の解決をみるまで、同法廷の正当性や独立性は疑問視され続けることになろう。」

カンボジア特別法廷は、カンボジア人判事(過半数)と国際判事、そして、カンボジア人共同検事と国際共同検事からなる。国連は当初、この構成に反対。よく知られているとおり、カンボジアの司法制度は、独立性に欠け、汚職が蔓延し、専門性が低いためである。

カンボジア特別法廷は、1975年から1979年の間のポル・ポト派の虐殺行為について、「幹部」と「最も責任ある者」を訴追することを使命とする裁判所である。2008年12月、国際共同検事は、すでに訴訟手続きが進行中の5名に加えて、さらに6名の容疑者を追加しようとしたところ、カンボジア人共同検事はこれに反対。カンボジア人共同検事は、容疑者の追加訴追に反対する理由について、カンボジアにおける「過去の不安定」と「国民的和解の必要性」に言及した。

「政治的な検討を加えて追加訴追を阻止するなら、カンボジア特別法廷に対する最低限の独立性と信頼性さえ失われる」と、コルムは述べた。「ひどい残虐行為を犯した元ポル・ポト派の高官や軍人たちの罪を不問にして、多数を自由の身にしたまま、最も悪名高い数名だけを裁判にかけて終わりなら、同法廷は、数百万人にのぼるポト派犠牲者に、法による正義をもたらすことはできない。」

現在までにカンボジア法廷が支出した5000万ドルの殆どを負担したのは国連と国際社会。こうした国連や各ドナー政府は、国際的な公正裁判の基準にみたないプロセスを正当と認めるべきでない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。欠陥だらけのプロセスに、何の条件も付けずに追加資金を約束するのはやめて、日本や米国、フランス、オーストラリアなどの主要な資金提供国は、更なる資金提供の約束より前にまず汚職と政府の干渉の疑惑を解決しなくてはならないと強く求めるべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

カンボジア・ヒューマン・ライツ・アクション・コミッティ(21のカンボジア人権団体の連合体)は、1月14日の声明の中で、カンボジア特別法廷に対し、恣意的に訴追を5件に絞らないよう呼びかけて、以下のように述べている。

「これ以上の訴追がなされないなら、カンボジア特別法廷(ECCC)はカンボジア国民に法による正義をもたらすことは出来ず、真の意味での和解を創造しようとする努力を台無しにすることになろう。カンボジア特別法廷が、使命を全うせず、一部の使命しか実現しないなら、カンボジアの政府と国民、そして国際社会が一緒にECCCを創設した努力も成果も、結局無駄になると懸念する。我々は、カンボジア王国政府や国際社会などすべてのECCCの関係者に対し、ECCCが独立し、かつ、政治的干渉や政治的配慮なく活動できることを確保するとともに、ECCCがその使命を全うできるように十分な支援をすることを強く求める。」