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スーダン:「体裁を繕う」だけの戦争犯罪捜査

国際刑事裁判所のダルフールに関する訴追を頓挫させる企て

(ニューヨーク)-「スーダン政府は、ダルフールでの戦争犯罪容疑により、民兵組織指揮官などに近時法的措置を取った。しかし、この措置により、重大な人権侵害の被害者たちに法の正義がもたらされる可能性はほとんどない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。また、スーダン政府が、国際刑事裁判所(ICC)の捜査を妨害しようとしていると非難した。

「スーダン政府は、国際刑事裁判所の捜査を妨害するため、体裁をつくろい続けているだけだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ局長、ジョージェット・ギャグノンは述べた。「こうしたスーダン政府の動きに騙されてはならない。」

2008年7月14日、戦争犯罪、人道に対する罪及び集団殺害(ジェノサイド)罪で、ICC検察官がオマル・アル・バシール大統領に対する逮捕状を請求して以来、スーダン政府は、ダルフールにおける重大犯罪の容疑者の責任を追及するふりをしてきた。

ICC規程は、事件関係国の国内裁判所が「捜査又は訴追を真に行う意思又は能力がない」場合にのみ、国際刑事裁判所で手続をとることを認める。ICC裁判官は、本規定を、ICCが起訴するのと同一人物を同一の容疑で国内裁判所が起訴しなければならないと解釈してきた。

2008年8月、スーダンの法務大臣アブデルバシト・サブデラト(Abdelbasit Sabdarat)は、2003年以降に起きた犯罪を捜査するため、ダルフールの各3州で、特別検察官と法律顧問を任命。10月、スーダンの司法当局者は、この新任の特別検察官が、戦争犯罪と人道に対する罪の容疑でICCから逮捕状が出ている民兵組織の指揮官アリ・クシャイブに対する容疑の捜査を完了したと発表した。

スーダン当局は、アリ・クシャイブを何の罪で立件しているのか明らかにしていないが、ある司法関係者は、クシャイブと他2人の容疑者による「殺人と略奪」関連だ、と述べた。クシャイブは、以前、スーダン国内で拘留されていたものの、証拠不十分として釈放された経緯がある。

「たとえ政府がクシャイブの起訴にむけて本気で取り組みはじめたとしても、制約の多いスーダン法の下では、人道に対する罪など、クシャイブがダルフールで犯した全ての犯罪について同人を訴追することは不可能だ」と、ギャグノンは述べた。

スーダン刑法は、人道に対する罪および集団殺害(ジェノサイド)罪のような国際法上の犯罪を規定していない。同国の刑事訴訟法には、上官責任の原則が存在せず、部下の違法行為を止めることを怠った上官を訴追できない。スーダンの法律により定められた多岐にわたる免責条項は、民兵、国家治安部隊、警官などの武装組織の要員に対する訴追を妨げている。また、ダルフールで今日まで広範に行われているレイプやその他の暴力的性犯罪をスーダン国内で起訴するにも、多くの障害が立ちはだかる。煩雑な届出手続き、社会的汚名(スティグマ)、姦通罪で起訴するという脅しなどが、性暴力の被害を受けた女性たちが名乗り出るのを困難にしているのである。

スーダン政府は、国際刑事犯罪も犯罪とするために同国刑法の改正を検討しているようである。しかし、法改正により、上官責任が認められたり、現在ある免責条項が削除されたり、レイプなどの性暴力事件の訴追に対する障害を取り除く条項が制定されるとは考えがたい。

「スーダン政府は、ダルフールで行われた犯罪の責任者を同国の裁判所で訴追できると繰り返し言明してきた。しかし、これまでに、家畜泥棒のような通常の刑事犯罪の立件しか確認されていない」と、ギャグノンは述べた。「紛争に関連する犯罪については、これまで誰も責任を問われていない。」

2005年、ICCの検察官が捜査の開始を発表した後、スーダンは同じ目的を有するダルフール事件特別刑事裁判所を設立した。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書「足りない有罪判決:ダルフール事件特別刑事裁判所」(2006) で報告されているように、当局は、たった13件の事件を起訴しただけである。この13件には、窃盗のような軽い犯罪で低い地位の者が起訴された事件も含まれている。民間人に対する大規模攻撃に関連する事件としては、攻撃の後に窃盗を行った者に対しての有罪判決が一件下されたのみである。

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