(アンマン)-ヨルダン政府は、日常的に蔓延している刑務所での拷問を終わらせるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した新しい報告書で述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、同国政府に対し、虐待の責任者に対する捜査、懲罰及び訴追の制度を一新し、特に、刑務所内の虐待事件に対する捜査の権限を、警察内部の検察官から文民の検察官へ移すよう求めた。 

95ページの報告書「ヨルダンの刑務所での拷問と不処罰:蔓延する虐待と改革の失敗」 には、ヨルダン刑務所の囚人たちからの虐待(多くは拷問に該当するレベル)の信憑性の高い申立てを記録。2007および2008年、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、無作為に選んだ110人の囚人から聞き取りを行ったが、うち66人(訪問した10ヵ所の刑務所のうち7ヵ所に該当) がこうした虐待の申立を行った。ヒューマン・ライツ・ウォッチが得た証拠は、5人の刑務所所長らが個人的に被拘禁者への拷問に加担したことも示している。  
 
「拷問を完全に終わらせようとアブドッラー国王が改革を打ち出して2年経ったが、ヨルダンの刑務所制度下で、拷問は今も広範囲に行われている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局長サラ・リー・ウィットソンは述べた。「拷問した者の責任を追及して拷問を予防する仕組みは、全く機能していない。」  
 
典型的な拷問方法として、太綱や棒による殴打、鉄格子に手首をかけたままの数時間にも及ぶ宙吊り(その間、看守による無防備な囚人に対する鞭打ちが続く)などがある。看守らは、刑務所規則に対する違反と見られる行為を発見した際も拷問する。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国家の安全に対する罪(タンジマートTanzimat)で拘束されているイスラム教徒容疑者や既決囚らが集団で懲罰された証拠も発見した。  
 
刑務所当局は、暴行その他の虐待は単発的な事件で、2006年に着手した刑務所改革プログラムの結果、刑務所内の状況は改善され、虐待者の責任追及も進んでいると語った。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、同プログラムが焦点をあてている主要分野(保健サービス、過密収容、訪問及びレクリエーション設備)は改善が見られる一方で、肉体的虐待をした者に対する不処罰は依然として日常的であることを示している。  
 
2007年10月、刑法が改正され、初めて拷問が犯罪と規定された。また、2008年初旬、公安局(The Public Security Directorate: PSD)は、7ヵ所の刑務所における虐待事件を調査するため検察官を選任。しかし、今日まで同法に基づく訴追は一件もない。  
 
2008年2月、PSDはヨルダン国家人権センター(National Center for Human Rights)に対し、スワカ(Swaqa)刑務所内に事務所を設置することを許可。しかし、2008年4月に起きた同刑務所内の暴動について、同センターが刑務所に批判的な報告をしたことを受けて、PSDは同センターとの協力を中止した。  
 
「ヨルダンは刑務所での拷問を解決しようとしてきた。しかし、結論としては、対策は不十分で、その結果、拷問は続いている」と、ウィットソンは述べた。  
 
被拘禁者の大規模な拷問と虐待を伴う2つの事件が、責任追及の仕組みの不備を明らかにしている。2007年6月に起きたイスラム教徒の囚人2人の脱走事件の後、ジュワイダ刑務所及びスワカ刑務所の看守らが、残るイスラム教徒の囚人たちを拷問したという数多くの証拠があった。しかし、ヨルダン当局は立件しなかった。2008年4月14日、ムワッカル(Muwaqqar)刑務所で、暴動と火事で3人の囚人が死亡するという第3の事件が起きるに及んで、刑務所等の警備機関を管轄するPSDは、関連事件に対する大規模な調査を開始。囚人たちが、ある看守について、火事に先立ち、死んだ者も含む囚人たちを拷問したと申立てをしたにも拘わらず、捜査官らは同看守を訴追しなかった。ヨルダン国家人権センターは、司法調査とは別の独立した調査を行い、同刑務所暴動の核心に虐待問題があったと明らかにした。この証拠にも拘わらず、PSDの調査は、看守ら当局関係者は誰も間違いを犯さなかったと結論づけた。  
 
問題の一つは、刑務所当局が内部に対する懲罰の権限を有しており、この仕組みが、拷問事件に対する公の訴追を回避するために利用されていることだ。例えば、2007年、PSDがヨルダン全国からの19件の拷問申立てについて調査し、うち6件を訴追のため裁判所に付託したにも拘わらず、ムワッカル、カフカファ(Qafqafa)及びスワカの3刑務所の所長らは、PSDの関与を排除した形で、6人の看守を虐待を理由として内部的に懲戒処分としたと、ヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。ヨルダンの刑務所所長は、警察裁判所の裁判を経ることなく、虐待などを「軽犯罪」として処分する権限を有している。  
 
「PSDは、刑務所の評判を落としたくないという見当違いの願望ゆえ、内部で起きている拷問の訴追や処罰に消極的だ」と、ウィットソンは述べた。「だがむしろ、拷問を行う看守らを訴追から守ることで、囚人の拷問や虐待などせずにしっかりと義務を全うしている他の看守たちを含む職業全体のイメージを傷つけている。」  
 
また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、刑務所内で拷問などの虐待を行った看守らの捜査、訴追及び審理が、看守らの同僚たる警察裁判所の検事及び判事らの権限とされていることを指摘。刑務所内の虐待の捜査を担当する苦情処理担当者らは、決定的な証拠がある少数のケースしか訴追手続に回付していない。  
 
重大な拷問事件について政府が訴追をした場合でも、警察裁判所の判決には問題があった。たとえば、警察裁判所は前スワカ刑務所所長マジッド・アル・ラワシュダに対し、2007年8月に70人の囚人への暴行を命令し加担した罪で120ヨルダン・ディナール(約180USドル)の罰金刑を宣告。暴行に加わった他の12人の看守は「命令に従ったのみ」という理由で無罪とした。同裁判所は、2007年5月にアカバ刑務所でフィラス・ザイダンを暴行し死亡させた刑務所看守に対し、2年6ヵ月の禁固刑を下した。また、2004年にジュワイダ刑務所でアブドゥッラー・マシャクバを暴行し死亡させた看守たちの刑を「若い盛りにある」という理由で、2年6ヵ月の禁固刑に減刑。  
 
「警察と刑務所による内部調査では、信頼するに足る捜査は無理だ」と、ウィットソンは述べた。「拷問の不処罰に終止符を打ち、被害者たちへの救済を始めるため、刑務所での虐待事件に対する捜査権限は、警察裁判官や警察検察官の権限から、すべて文民の検察官や裁判官の権限に移すべきだ。」  
 
2006年に刑務所改革プログラムを開始以来、ヨルダンは、刑務所の状況を改善するため国際社会からのアドバイスを求めてきた。ニューヨークを拠点とするケリク・グループ(Kerik Group)は、訓練を行い、刑務所内の管理、設備及び新規建設に関するアドバイスを行った(2008年後半に開所予定の240の独居専用房を有する最重警備の刑務所など)。また現在、オーストリア法務省は、PSDと協働し、刑務所システムの改革を目指すEU主催の「結合プロジェクト(twinning project)」に参加している。  
 
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ヨルダン政府に援助をしているドナー国政府に対し、蔓延する拷問問題への対処及び独立した調査・訴追機関の設立を援助の条件の一部とすることを求めている。