(ニューヨーク) ビルマ軍事政権は2007年9月に仏教僧や活動家、民間人に武力弾圧を行った。国際社会はその責任の所在を明らかにするよう軍政に要求すべきである。ビルマ国内での弾圧は激化しており、国際社会の仲介努力にもかかわらず、軍政は一年前の約束をいまだ果たさずにいる。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日このように述べた。
2007年9月26日以降の弾圧は、2007年8月中旬に燃料費大幅値上げを一つのきっかけとして始まり、次第に大きくなっていったデモへの暴力的な応答だった。8月中旬以降、旧首都ラングーン(ヤンゴン)や、マンダレーなどビルマ各地で、当局の政策と生活水準の低さに抗議して僧侶が非暴力のデモを行っていた。一般の支援者も徐々に合流し、抗議行動は政治・経済・社会面での改革を要求する数万人のデモへと膨らんでいった。
「昨年9月、ビルマの人びとは自国の軍政指導部に対し果敢に挑戦した。だがその答えは暴力と侮蔑だった。弾圧は現在も続いている。少数の活動家が解放されたが、釈放された以上の人びとが新たに身柄を拘束されており、数千人が依然投獄されたままだ。」ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理、エレーン・ピアソンはこのように述べた。
国家平和開発評議会(SPDC = 現ビルマ軍政)は2008年9月23日に、囚人9,002人の釈放を発表した。この中には、1989年から投獄されていた著名活動家でジャーナリストのウィンティン氏(78)ら7人の活動家の名前があった。
しかしビルマ政府は、2008年8月~9月だけで推計39人の活動家を新たに逮捕し、21人に懲役刑を宣告。9月16日にはニラーテイン氏(昨年の抗議行動後に潜伏していた著名活動家)が逮捕された。ザガナ(著名活動家で喜劇俳優)は、サイクロン「ナルギス」後の支援に関し、軍政の対応の遅さを公の場で批判したとして、08年7月から投獄されている。現在ビルマには、07年の一連の抗議行動を受けて逮捕された800人以上を含む2,100人以上の政治囚がいる。
昨年2007年9月26日以降の弾圧では、ビルマ治安部隊は、ラングーンの路上で僧侶などのデモ参加者を暴行し、逮捕し、拘禁し、発砲した。警察や私服姿の準軍事組織の構成員は、僧院や非暴力のデモ参加者の自宅を夜間に急襲し、数千人を逮捕した。その後も数百人が、間に合わせの拘禁施設や警察署、刑務所で殴打・逮捕・拘禁された。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、昨年の弾圧について今日までのところ最も詳しい報告書を出しているが、この中で最低20件の超法規的殺害と数十件の殴打・逮捕を記録している。これらは暴動鎮圧部隊と国軍兵士が、親政府の準軍事的組織である連邦団結発展協会の支援を得て行ったものだ(報告書全文(英語)、同報告書の要約部分の日本語訳)。
実際の死者数は永遠に確定できないかもしれない。ビルマ政府も国連調査団も調査を行っていないからだ。ビルマの人権状況に関する特別報告者パウロ・セルジオ・ピニェイロ氏は、2007年11月のビルマ訪問後に報告書を作成したが、その中で氏による調査が完全なものでないことを認めるとともに、国連人権理事会に対して弾圧の実態調査を求めるよう勧告した。
「ビルマ政府と国際社会の怠慢の最たるものは、2007年9月の弾圧で発生した殺害・恣意的逮捕・拷問の責任者を法的に処罰していないことだ。」ピアソン局長代理はこのように述べた。
軍政はそうした努力を怠る一方で、見せかけの政治改革を進めており、2008年5月には制憲国民投票を行った。軍政の公式発表によれば、98%以上の有権者が投票し、うち92%が軍の支配を強固にする憲法に賛成したという。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、集会・結社の自由に関する厳しい制約や、厳重な報道統制など国民投票に関して発生した人権問題を報告している。
2007年9月の弾圧以後、イブラヒム・ガンバリ国連事務総長特別顧問はビルマを4回訪れた。軍政は同氏にいくつも誓約をしたが、それらは今に至るまで果たされていない。約束を破った例として以下の事実がある。
- 自宅軟禁中の民主化指導者アウンサンスーチー氏との対話再開は短期間のみで、再び決裂したこと
- 憲法国民投票は自由さも公正さも欠いていたこと
- 全政党が(軍政が2010年に行うとする)総選挙に参加することができるわけではないこと
- 民主化への行程表は、信頼性も包括性も欠いていること
「ビルマ軍事政権は国連に多数の公約を行ったが、一つとして守られていない。国際社会は、ビルマ政府指導部が実りのない対話をだらだらと続けるのを放置せず、具体的な行動を求めるべきだ。」ピアソン局長代理はこのように述べた。