(ニューヨーク)  タイ治安部隊は、カレン難民と庇護申請者をタイ領内の難民キャンプからビルマに強制送還することを直ちに停止すべきである。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日このように述べた。

カレン人は、ビルマ国内の武力紛争と人権侵害から逃れてきた民族集団であり、本国に強制送還されれば、ビルマ軍事政権による迫害と激しい報復に直面する。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこう付け加えた。

「目下戦闘中の地域に民間人を強制送還することは、タイ政府にとっては手軽な方法かもしれない。だがそれは残忍なやり方だ。完全に非人道的であり、かつ受け入れがたい解決法だ。タイ政府は、国際法が定める民間人(非戦闘員)の権利が確実に擁護されるよう、国際人道機関ならびに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と協力すべきだ。」ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズはこのように述べた。

7月17日、現地タイの民兵組織「タハーン・プラーン」(日本語訳は「斥候」。直訳は「狩人兵」)は、ビルマと国境を接するタイ・メーホンソーン県の2つの難民キャンプから52人のカレンを拘束した。うち39人(大半が女性と子ども)がメーラマルアン(メーラムー)難民キャンプに、残り13人はメーラオーン難民キャンプに住んでいた。タイ軍は学生17人がタイ側に残ることを許可したが、残り35人を国境のビルマ側のエートゥタ再定住地に送還した。

2008年の前半には、東部ビルマでビルマ国軍が行っている大規模な軍事攻勢が原因で、280人以上の集団がタイ側の難民キャンプに避難している。今回拘束された難民はこの一部であり、7月16日になって、翌日にビルマ側に送還されると言い渡された。現地の難民消息筋によると、タハーン・プラーンの司令部は、4月以降の新規到着者は、最終的にビルマに強制送還する予定だと発表している。

タイは1951年の難民条約に署名していないが、ノン・ルフールマン原則(国際慣習法により、迫害の恐れがあるか、生命の危険がある国には、難民を送還することが堅く禁じられている)には拘束されている。

「タイ政府は、ビルマでの迫害と暴力から逃れる難民を保護する義務を無視している。こうした人々をビルマ軍が支配する紛争地域に送還するのは恥ずべき行為だ。」アダムズ局長はこう述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、UNHCRや欧州連合(EU)、アメリカ合衆国、またその他の国々に対し、タイ政府に圧力をかけ、難民の送還を即時停止し、ビルマでの戦闘や迫害から逃れてきた人々に避難場所を引き続き提供することを求めるように要請した。

「皮肉なことに、タイ政府は、重要な仏聖日が続く、三宝節から入安居に至る期間にこのような不法な作戦を行っている。この日が祝日であったことに加え、タイのマスコミはプレアビヒア寺院の領有問題がカンボジアとの間でエスカレートしていることに注目していたために、タイ政府による深刻な国際法違反を実質的に覆い隠すことになった。」とアダムズ局長は述べた。

国境のビルマ側にあるエートゥタ再定住地はサルウィン河沿いに位置し、ビルマ軍の攻撃と迫害を逃れてこのキャンプに身を寄せる人の数は、過去2年間で約4,300人にまで増えた。キャンプは人口過密であり、国際社会と現地が細々と保健関係と食糧の援助を行ってはいるが、それも地元タイの治安部隊に妨害されることが多い。さらにこのキャンプはビルマ軍の野営地に近いため、いつ攻撃にあってもおかしくない。

タイ治安部隊は、7月18日にエートゥタ・キャンプに送還した52人について、2週間分の食糧と簡単なプラスチック製のシートの携行だけを許可し、蚊帳や調理器具は運ばせなかった。

雨季に入ってもビルマ国軍はカレン州北部で攻撃を続けているため、毎月100人以上の民間人がエートゥタ・キャンプに到着している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、この地域に展開するビルマ軍大隊の数は90以上(兵員は1万人以上)と見ている。国軍兵士はカレン人の民間人に再定住地への移動を強制しているか、地域を無人化するために、村や穀物庫に火を放っている。

ビルマ軍は2006年からビルマ東部で軍事作戦を展開しており、これまでに民間人5万人以上が避難し、または生活の場を追われている。このほかにもビルマ東部には50万人の国内避難民がいる。今回のビルマ東部での軍事行動は過去数年間で最大のものであり、国際機関から批判の対象となっている。一例として、赤十字国際委員会(ICRC)の2007年6月の声明や、アムネスティ・インターナショナルの2008年6月の報告書がある。

タイでの難民保護の状況は過去数年間で著しく悪化しているが、その原因はタイ政府の難民登録手続きが停止したことにある。タイ・ビルマ国境沿いにあるカレンとカレンニーの難民キャンプ9箇所には14万8千人が住むが、うち約2万人が未登録状態である。だがその多くが、本来は難民として認められる可能性が高い人びとだ。こうした人々は難民として登録されていないために、食糧と住居の割当てがなく、UNHCRからの正式な庇護対象ともならない場合が大半だ。2007年3月には、タイ治安部隊が、ビルマ西部に住むムスリム系住民であるロヒンギャの男性100人近くを、タイ・ビルマ国境沿いの親軍政武装組織の支配地域に強制送還している

この1年以上の間、タイ治安部隊と内務省の当局者は、未登録の難民キャンプ居住者を強制送還すると脅し続けている。メーラマルアン(メーラムー)とメーラオーンの2つのカレン難民キャンプに到着した数百人に対し、現地治安部隊は5月以降、自分たちはバンコクの中央政府当局を代行していると主張し、強制送還を実施するとたびたび脅迫してきた。

「人々がビルマから逃れてくる根本原因は変わっていない。しかしタイのような国々は、ビルマ政府とビジネスを続ける一方で、重大な人権侵害行為を見て見ぬふりし続けている。ビルマの人々が住むところを強制的に追われる原因は同国政府の人権侵害である。タイ政府はこれに憂慮を表明すべきであるともに、その被害を受け、自国の国境や領域内で庇護を求める人々に人道的に対応すべきである。」アダムズ局長はこのように述べた。