(ニューヨーク) - 7月27日に予定されているカンボジア国民議会の議員選挙まであと2週間を切った。7月11日に野党系ジャーナリスト キム・サンボとその息子がプノンペンで走行中のオートバイからの発砲により殺害された事件が示すとおり、現地の政治情勢は急速に悪化していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

7月11日午後6時30分、サンボ(47歳)とその息子Khat Sarinpheata(21歳)は、プノンペン中心部のオリンピック・スタジアム付近で運動中、オートバイの後部座席に乗っていた男から多数の銃弾を浴びた。サンボは即死、息子は翌日、病院で死亡した。

「従前の選挙前にも同様の事件があった。今回の暗殺も、野党には関わるなとのメッセージだろう。」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは述べた。

サンボは野党のサム・レンシー党 (SRP)系の新聞モネックスカール・クメール(Moneaksekar Khmer 、クメールの良心)紙の記者として10年以上活動していた。政府や現職のフン・セン首相率いる与党カンボジア人民党(CPP)が、大多数のTV・ラジオ局や新聞社を支配しているカンボジアにあって、その支配を受けず独立している数少ない新聞社の一つである。サンボは政府の汚職や政治問題、土地収奪に関する歯に衣着せぬ記事を書くことで知られていた。

「カンボジア当局には、政治信条に拘わらずキム・サンボ暗殺犯人の捜査・処罰をして、一度でいいから皆を驚かせてほしいものだ。」と、アダムスは述べた。「残念ながら、キム・サンボの事件も、その他の野党系ジャーナリスト殺害事件と同様、放置されてしまうのだろう。」

本殺害事件のちょうど1ヶ月前、今回の選挙でSRPから立候補したモネックスカール・クメール紙の編集者ダム・シットは、現職外務大臣がクメール・ルージュ政権に関与した疑惑がある旨の記事を掲載した後、軍事警察により逮捕された。シットは数日の拘禁後に釈放され、外相はシットに対する訴訟を取り下げたが、カンボジア刑法第62条と第63条すなわち名誉棄損罪及び虚偽の情報罪によるダム・シットに対する刑事事件は立件されたままである。

7月の総選挙の運動期間中、CPPは、野党、特にSRP党員をCPPに引き抜こうと組織的な圧力を加えている。政府内での高給の役職を提供したり、CPPへの鞍替えを拒否する者への脅迫や報復などを行っており、すでに数百名の野党党員がCPPに引き抜かれた。

コンポントム州SRPのリーダーのトゥット・サロン(Tuot Saron)も、引き抜き運動で報復行為を受けた。彼は逮捕後約4ヶ月間、拘禁されたままだ。(詳細は以下参照、英語) (https://www.hrw.org/english/docs/2008/03/23/cambod18325.htm)

また、選挙に名乗りを上げた11政党がメディア、特にラジオやテレビへ平等にアクセスできていないという選挙法違反が見られる。カンボジアの電波媒体は、CPPを支持する内容ばかりを放送するか、野党への一方的な攻撃に終始した選挙報道を行っているところがほとんどだ。7月10日、国家選挙管理委員会(NEC)は、偏向的選挙報道を行っている13のテレビ・ラジオ局に警告を出した。NECによると、そのうち10局は、CPP支持の報道一色になっている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、カンボジア当局に対し、以下の内容を含む重要な選挙前の改革を、直ちに実行するよう求めた。

  • ダム・シットに対する刑事事件の終了
  • 放送時間を野党に販売したために2008年5月に政府により閉鎖されたクラチエ州のアンコール・ラタ(FM105.25)ラジオ局へのライセンス再発行と放送再開の許可
  • コンポントム州のSRP党員トゥット・サロンの釈放
  • 野党党員に対し、選挙前にCPPへの所属政党の変更を強制する、CPPによる異例の圧力の終止
  • 電波媒体への公正で平等なアクセスの確保

「カンボジアの選挙は、常に暴力や脅迫がつきものだった。」とアダムスは述べた。「過去の選挙に比べると政治暴力はかなり減ったものの、野党系のジャーナリストが市内の大通りで凶弾に倒れた本件は、メディア関係者、野党支持者、一般の選挙民に衝撃を与えている。」