(ニューヨーク)--- 今回のサイクロン被害に関し、ビルマに援助を供給している国々は、最も困窮した被災者に援助が確実に届くようにするため、また軍事政権に支援物資を横領されることを防ぐため、モニタリングの実施を主張すべきである。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日このように述べた。抑圧的であり、能力的にも不十分なビルマ軍政の管理下にあるラングーンの空港に物資を陸揚げしただけでは、被災者を助けることには必ずしもならない状況が存在している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、援助物資の一部がすでに横流しされていることを指摘し、人道援助物資の配布については、最も困窮した層に援助を確実に届けるため、政府から独立したモニタリングが必要であると述べた。

「救援物資の配布を、抑圧的なビルマ軍事政権の手に完全に任せるわけにはいかない。それでは、最も困窮した人に援助が届かないだけだ。現場レベルでの独立したモニタリングがなければ、最も危機的な状況に置かれている人々に援助が渡っているかを確かめることも不可能だ。」 ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズはこのように述べた。

5月2~3日にサイクロン・ナルギスが甚大な被害を引き起こして以来、ビルマ軍事政権=国家平和開発評議会(SPDC)は、外国の救援活動従事者の同国内への展開を厳しく制限しており、国内にいる救援活動従事者に対しては、最も被害の大きかったイラワジ・デルタの当該地域へのアクセスを禁止している。ここ数日、援助物資を積んだ飛行機の飛来数が増えており、国連機関や非政府組織(NGO)、外国政府からの援助が到着している。しかしその量は必要な分のごく一部に過ぎない。パキスタン政府やタイ政府、世界食糧計画などの援助機関が空輸した物資が、現地での配布のためとして、あからさまな形で軍人に渡される映像が、国営メディアで大々的に報道されている。

アメリカ合衆国はこれまでに8機分の援助物資を提供した。物資はラングーン空港への到着直後に、国内で配布するためとして、直接ビルマ軍のヘリコプターに搭載された。米国当局は、援助がサイクロン生存者に実際に届くのかという点で懸念があることを認めており、物資が被災者に渡っていることを確認するために、国際機関と接触するつもりだと述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、すべての援助が目的に沿って配布されているかを確認するためのモニタリングが、ラングーン空港でも、輸送プロセスの全体を通しても存在していないことを依然懸念している。

AP通信は、国際社会が供給する高タンパク・ビスケットが軍に接収され、代わりに低品質のビルマ産ビスケットが、困窮する人々に配布されていると報道した。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの記事が事実であることを確認した。

CNNは、米国の援助機から「USDA」のロゴ入りTシャツを来たビルマ人が荷下ろしをする映像を配信した。USDAすなわち「連邦団結発展協会」は、ビルマ国内の政治弾圧と人権侵害に深く関与する官製の大衆団体である。ビルマ政府はこれまで、同国内で活動する国際人道機関に対し、USDAとの協力を何度も強要しようとしてきた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、USDAが人権侵害に関与していることに長年にわたって懸念を表明している。2007年9月にラングーンで起きた大規模な抗議行動の際には、USDA内の民兵組織と、USDAとつながりのある別の民兵組織、スワン・アーシン(注:政府の指揮下にある非公式の暴力組織)が広く動員され、非暴力のデモ参加者の拘束・暴行・脅迫を行っていた。国連機関は、こうした虐待や弾圧にUSDAが関与していることを理由に、過去の開発プロジェクトについてUSDAと協力することを拒否してきた。

過去には、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM、グローバル・ファンド)や国境なき医師団(MSF)フランス支部など国際人道機関の一部が、重大な懸念を表明してきた。また軍事政権が援助を自らに都合良く配布することへの懸念から、ビルマからの撤退にさえ踏み切っている。

国連当局者は、ビルマ政府が許可する現在の援助配布方法が、問題の深刻さに見合っていないことに公の場で懸念を表明している。だがビルマ政府は、国連および外国の救援活動従事者への査証発給を不必要に遅滞させているだけでなく、現時点で同国内に入っている救援活動従事者が、最も被害の大きかったイラワジ・デルタ一帯にアクセスすることを禁止するか、厳しく制限している。5月12日、ビルマのテインセイン首相は、ラングーンで地元の商人に対し、デルタ地域に援助物資を送ることを許可したと発表した。しかし被害の規模を記録するために外国人やカメラが当該地域に入ることはできない。

人道援助の配布方法に関しては、国際赤十字が作成した災害救援を行うための「行動規範」など、国際的に認められた人道原則があり、ガイドラインとして広く受け入れられている。援助は、ニーズにのみ基づいて決定され、どのような差別もなく、公平に配布されなければならない。そのためには妨害を受けずに被災者にアクセスすることが必要不可欠である。援助を行う側は、援助配布に関して適切な形でのモニタリングを確実に実施し、定期的に災害救援の効果についてのアセスメントを行う義務がある。

国際赤十字の「行動規範」はまた、被災国政府への勧告も定めている。そこでは、受入国の政府が提供された支援を受け入れ、被災者への迅速なアクセスに便宜を図ることが求められている。政府は査証発給のための要件を撤廃するか、迅速に査証発給が行われるようにしなければならない。救援物資と備品の輸入は自由かつ無制限でなければならず、それらの物品を通常の承認手続や関税の対象としてはならない。この点でビルマ政府は、タイなどビルマ国外で待機する救援活動従事者への査証発給を先送りにしている。

潘基文(バン・キムン)国連事務総長は「この重大な人道危機への対応が、耐え難いほど遅いことを心から懸念し、強く苛立っている」と述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこのコメントを歓迎する。事務総長はさらに「ミャンマー政府に対し、国民の生命を最優先とすることを、最大限に強く」求めた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、すべての国連機関と国際機関に対し、軍政に国際救援活動従事者を入国させるよう引き続き強く働き掛けていくこと、また援助の配布のモニタリングを行うことを求める。

「ビルマの甚大な被害に対して効果的な人道的対応を求めることと、援助を政治利用することは全く違う。同国内で大量の人道支援従事者が活動し、危険な状態にある人々に自由にアクセスすることができなければ、被災地の多くに支援が届かないことになり、もっと多くの人々の命が失われてしまうだろう」アダムズ局長はこのように述べた。