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日本:外交政策において人権に重点をおくよう求める安倍首相に対するレター

内閣総理大臣 安倍晋三 殿:

拝啓
貴殿が日本の総理大臣に就任されたのを機にお手紙を差し上げております。私たちは、日本政府が、来年の国連での外交で人権に重点的に取り組むというコミットメントを提示されたことを歓迎いたします。また、貴殿が、9月26日の記者会見で、日本が基本的人権に価値を置いていることを強調し、そうした目的に沿ってより積極的な外交を展開するとスピーチされたことを歓迎いたします。日本は、多くの政府開発援助(ODA)や、2005年12月の人権担当大使の任命を通じて人権をサポートし続けることで、世界的な有力国そして多くの国際人権条約の締約国としての役割を真剣に受け止めていること示してきました。

しかしながら、日本が、特定の国々の人権状況に関して公に批判を行うことに控えめであったことや、ビルマのような人権侵害国家でビジネスの利益を上げてきたこと、人権担当大使が人権侵害を広く取り扱う権限を与えられているにも拘らず北朝鮮による日本人の拉致に重点を置くこととしたことなどは、その言葉の上でのコミットメントを根本的にないがしろにするものと言わざるをえません。もし、日本が、人権の動きの中で世界のリーダーとなり、尊敬される「美しい国」になろうとするのであれば、このような不一致を解消することが避けられません。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、貴殿の新しい外交戦略は、人権問題の解決のため、人権を侵害している政府との間での、二国間及び多国間関係における率直な対話などから成るべきと考えます。人権担当大使が重点的に取り組む問題対象は拉致問題のみならず広げられるべきであり、開発及びODAの実施にあたっては援助受入国の人権状況を総合的かつ系統的に把握することから始めるべきであります。私たちは、日本のODA大綱が、その原則の中で、援助受入国の基本的人権の保障状況にも注意を払って援助に関する判断をすると規定していると認識しております。しかし、日本がこの原則に沿って援助制限の判断を行ったのは、ビルマとジンバブエだけです-その他の人権侵害国家に対して行われている現行の日本の援助との関係ではそうした判断は行われていないのです。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、貴殿に対し、貴殿の内閣総理大臣在任中、日本が人権を促進するために重要な役割を果たすことができると思われる特に危機的な状況の国及び機関について、いくつか提言させていただきます。

1. 北朝鮮:北朝鮮の脆弱な人々の人権の保障を包括的に要求すること

北朝鮮は、世界で最も深刻な抑圧国家の1つです。政治的、社会的、経済的生活のほぼすべての面が政府によってコントロールされています。1990年代半ばから終わりにかけて、北朝鮮の人々は、概算100万人が飢えで死ぬという飢饉を経験しました。また、何十万人もの人々が、食糧を見つけるために中国に逃れました。そして、また、食糧危機が迫っているという深刻な兆候も存在するのです。

私たちは、日本が、国連において、北朝鮮に関する人権状況決議においてリードを取っていることを歓迎いたします。このアプローチに沿い、日本は、北朝鮮の人権状況に対する重点を、日本から拉致された方々の人権からさらに広げるべきであります。確かに拉致は重大問題です。しかし、日本は、北朝鮮人の人権についても積極的に要求を行うべきです。日本のアジェンダは、たとえば食糧の権利のような、基本的な権利に重点を置くべきであります。日本は、北朝鮮から日本に返還された遺骨が拉致された日本人のものではなかったという認定ののち、2004年12月、食糧支援を停止しました。しかしながら、普通の北朝鮮の人々の命は、人権侵害政府の行為の結果、危険にさらされることはできません。日本は、北朝鮮の人々を支援するために食糧支援を行うことを提案し、そして、北朝鮮に対し、世界食糧計画その他の援助機関からの食糧支援を受け入れ、かつ、そうした機関が国際的に受入れられたモニタリング基準を適用することを受け入れるように、要求するべきです。

加えて、日本は、北朝鮮難民の人権状況に焦点をあて、中国に対し、北朝鮮の人々を捕らえて本国に送還することを止め、かつ、人道NGOが北朝鮮の国境地域で活動することを可能にするよう要求するべきです。私たちは、北朝鮮脱北者の保護及び支援の施策を取るという日本の北朝鮮人権法の規定を歓迎します。日本は、速やかに行動をとり、北朝鮮の難民申請者に対して庇護を与え、脱北者の再定住を日本で受け入れる方法についての議論を開始すべきです。

2.ビルマ:政策を転換し、単独・多国間で公の批判を行うこと

ビルマでは、支配組織である国家平和開発評議会(SPDC)からの暴力及び抑圧は、例外ではなくごく日常のことになってしまっています。SPDCは、基本的な権利を制限し、民族的少数者に対し残忍な対反政府勢力作戦を遂行し、アウン・サン・スー・チー氏及びその他の政治活動家たちを拘束したり刑務所で拘禁し続けています。

日本は、SPDCとの関係の戦略を「引き続き現政権との対話を通じて、忍耐強く継続して改善を求める」としています。しかし、SPDCの人権侵害はすさまじく、その状況は国連安全保障理事会でまもなく議論されるまでになっています。私たちは、日本がビルマの安保理での議題化に貢献したことを歓迎しますが、しかし、そのような政権と日本の現行の二国間関係はSPDCに対する是認の意をも示唆するものです。最低限、日本は、すべての二国間及び多国間の議論の中で、ビルマの人権問題を公に提起すべきです。

ビルマの軍事政権に新しい援助を与えるのではなく、政府が人権状況を改善し、かつ、アウン・サン・スー・チー氏及びその他の民主主義的対立勢力メンバーたちとの政治的な対話を行うという十分な進歩を見せるまで、日本の援助はビルマの人々の必要を満たすことに焦点を当て、かつ、国連及び国際的NGOを通じて行われるべきです。貴殿の新しい政権は、ビルマに対する援助政策について、より明確なメッセージを送るべきです。

3.アフガニスタン:日本の援助政策はアフガニスタンの人々の人権に重点をおくこと

タリバン勢力の再興、記録的な薬物生産、現地のガバナンスの非効率、そして再武装した軍閥などの問題がからみあい、アフガニスタンの多くの普通の人々の生活そして権利を脅かしています。女性と子どもがこうした危険な状況で特に影響を受けており、それらの人々がタリバンの崩壊の後にやっと回復したほんの少しの権利でさえ大幅に浸食されてきています。

日本政府の支援は、和平プロセス、国内治安改善、そして復興支援に力を入れています。しかし、アフガニスタンの普通の人々の権利を保障するため、日本の援助政策の中で人権にも重点が置かれるべきです。そして、日本の援助プログラムは、こうした問題を解決のために策定されるべきです。私たちは、特に、日本が人間の安全保障やジェンダーに重点を置いていることを歓迎していますが、そのほかにも、日本の援助が、人権侵害の被害者のための正義の実現や警察に対する人権トレーニングなどの支援を行うことを希望いたします。

アフガニスタンに対する主要ドナーとして、日本は、カルザイ大統領に対し、よい統治及び法の支配の実現に失敗したことで失った公的な正当性を取り戻すために行動するよう、要求するべきです。また、貴殿の政権は、アフガニスタンの人々の権利保障を支援するため、大幅な財政的・政治的追加支援を実現するという国際的取組みをリードできます-アフガニスタンに対する国際的注目はあまりに少なすぎます。コソボ、ボスニア、東ティモールの復興資金は、一人当たりで、アフガニスタンの50倍にまでもなっていたのです。

4.ウズベキスタン:ウズベキスタンとの関係を人権の伸長のために生かすこと

貴殿は当然ご存知でいらっしゃるように、一連の国際組織が多数文書化しているとおりウズベキスタンでは、長年にわたる抑圧及び広範囲の人権侵害という状況が続いています。その残虐な人権状況は、2005年5月、アンディジャンで、数百人もの丸腰の抗議者たちがデモンストレーションを行なったのに対し政府が大虐殺を行なったことで、危機と呼ぶべきレベルになりました。大虐殺から1年半が経過しましたが、誰も、この殺害に対する責任を取らされていません。責任を真摯に問うプロセスを促進するかわりに、政府は、アンディジャン事件の独立した国際的調査に対する国際社会の要求を絶えず無視してきました。

私たちは、8月に、貴殿の前任者がタシケントを訪問-同国への初の首相レベルの訪問でした-し、関係を促進することに対し日本側の新たな関心を示したことに注目しています。日本はウズベキスタンと長年の二国間関係を保持しており、同国での人権および民主主義を促進するためにその影響力を行使するのに適した立場にあります。私たちは、欧州復興開発銀行が人権状況に対する懸念からウズベキスタンに対するすべてのパブリックセクターへの融資を停止したことはもちろんのこと、日本が、国際金融機関の一株主として取ってきた原則に基づいた立場を歓迎します。また、私たちは、アンディジャン事件の後に日本政府高官が懸念を表明したこと、そして、その点についての国際的なアカウンタビリティー実現のために日本が後押しをしたことを知り、励まされました。

私たちは、日本が、ウズベキスタンのリーダーたちとの対話の強化を、かの地での緩まない人権侵害のサイクルを終わらせるための機会とされることを望みます。すべての財政支援は、具体的な人権の伸張と結びつけ、かつ、対象とする受益者たちに実際に届いていることを見届けるためプロジェクト実施は日本の緊密なモニター下で行なうべきです。私たちは、そのようなアプローチこそが、日本のODAの指針となる原則に完全に一致するものであろうと確信しています。

5.トルクメニスタン:関係強化の前提条件として人権改善の必要性を訴えること

トルクメニスタンは、この世界で、最も抑圧的かつ閉鎖的な国家のひとつとなっています。政府は、反対意見を全く許容せず、報道の自由や政治的自由もなく、政治上の反対勢力や人権の守り手、そして独立ジャーナリストらを国外追放又は刑務所での拘禁に追い立てています。トルクメニスタンのリーダーたちは、社会・経済開発の面で国を後退させています。同国は豊富な天然ガスを埋蔵しているにも拘らず、ほとんどの人々は極貧の暮らしをしているのです。

欧州議会委員会は、先月、政府の極端に悪化した人権状況を理由に、EU・トルクメニスタン間の暫定的貿易協定の提案を否決しました。その決議は「人権状況の明確、具体的、持続的な前進が達成され」てはじめて、暫定貿易協定が構想できると明確にしました。当該決議は、トルクメニスタンに対し、すべての政治犯を釈放し、非政府組織の登録及び自由な活動を許し、国の中で赤十字国際委員会が自由に活動することを可能にし、国連の人権モニターたちに対しトルクメニスタンでの状況のモニターのための「時期にかなった」アクセスを認めることを要求しました。

私たちは、貴殿がトルクメニスタンのリーダーたちと対話をされる際には、日本も、トルクメニスタン政府と関係を強化するためには、例外なく具体的な改善を前提条件とすると明確に示して、この歓迎すべき原則のメッセージを強化するように希望します。

6.国連人権理事会:アジア諸国に働きかけ、人権を支持する国々の地域横断的コアリッションを作るために貢献すること

2006年6月に設置された人権理事会は、信用が失墜した前任機関である人権委員会とは違う機関となるために、いまだ苦闘しています。人権理事会は、ダルフール、ビルマ、ウズベキスタンやコロンビアなど重大な人権侵害が起きている地域に関して具体的な行動を取れませんでした。一方で、今日までの間、イスラエルの人権侵害を非難する3つの偏った決議を採択しただけなのです。

人権状況の悪い国々、なかでもイスラム諸国会議機構のメンバーの国の中には、(イスラエル以外の)すべての国に対するいかなる批判に対してもすべてこれをブロックしようとし、この新組織の機能を損なっている国々があります。通常は人権を後押しする国々も反応が遅く、この新しい機関についての自分たちのアジェンダを提案することができていません。

同理事会の今日までの状況は残念と評価するしかないものですが、それでもまだ、成功へ戻るチャンスは残っています。日本は、他のアジア諸国に対して働きかけを行い、かつ、理事会での人権を後押しする国々の地域を超えたコアリッションを作るため貢献することができるという特別な立場にあります。そうしたコアリッションを通じて、日本は、人権の侵害者たちと対峙するための支持を再結集し、そうした努力を妨害する者たちを白日の下にさらすべきです。そうすることで、日本は、高邁な目的に応え、かつ、人権侵害の被害者たちに対して真の保護を与えることができる組織を作るための貢献ができるのです。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本が世界中で人権を促進するにあたり、貴殿及び貴殿の政権とともに協力したいと祈念しております。私たちは、貴殿及び貴殿の政権とお会いし、このアジェンダについて話し合う機会を期待しています。

ご検討に感謝申し上げます。

                                敬具
ブラッド・アダムス
アジア局エグゼクティブ・ディレクター

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。