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ベトナム:有害なインターネット法を廃止すべき

情報アクセスと表現の自由の統制を強める当局

ベトナム政府のFacebookページ、ハノイ、2015年12月30日。 © 2015 Reuters

(バンコク)ベトナム政府は、インターネット規制を強化する過酷な新政令と2018年のサイバーセキュリティ法を廃止すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ベトナムでの情報アクセスと表現の自由をさらに損なう新たな規制は2024年12月25日に施行となる。

11月、ベトナム政府はインターネットサービスとオンライン情報の利用と提供を規制する政令147号を公布した。この政令は「国家安全保障」と「社会秩序」という漠然とした定義に基づき、ベトナムの「道徳、良俗、伝統」の侵害を防ぐとしてインターネット上の情報へのアクセスに対する政府の統制を拡大するものである。当局はこうした目的を広く悪用し、政治的批判意見を弾圧している。この政令は、ベトナム国内のユーザーにサービスを提供するソーシャルメディア事業者に対し、ユーザーデータの保存、当局の要求に応じたデータの提供、当局が「違法コンテンツ」とみなしたものの24時間以内の削除を義務付けている。

「ベトナムが新たに定めた政令147号やサイバーセキュリティ法は、真の意味での国家安全保障上の懸念から国民を守るものでもなければ、基本的人権を尊重するものでもない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理パトリシア・ゴスマンは述べた。「ベトナム警察はベトナム共産党への批判を一から十まで国家安全保障上の問題として扱っている。新政令によって警察は反体制的な動きを押さえつける新たな手段を持つことになるだろう」。

政令147号は「外国の組織、企業、個人」に対し、電話番号または個人IDによるユーザーアカウント認証を義務づけており、匿名投稿が多い反体制派は逮捕のリスクにさらされる

政令の第23条は、ベトナムで国外からの情報を使用するデータストレージサービスを提供するか、ベトナムのユーザーから10万回を超えるアクセスがある「外国の組織、企業、個人」に次のことを義務づけている。

  • ベトナムのユーザーがアカウントを登録した場合、ユーザーの個人情報(氏名、生年月日、電話番号など)を保存し、情報通信省、公安省、その他当局の要請に応じて提供すること。
  • サイバーセキュリティ法第8条(オンラインでの政府や法令への批判や反対の動きを広く禁じる条項)に違反する情報、サービス、またはアプリのモニタリング、検査、ブロック、および削除を、上記2省庁またはその他の当局から要請を受け取ってから24時間以内に、またベトナム国内のユーザーから苦情を受け取ってから48時間以内に行うこと。
  • 電話番号または個人IDで認証されたアカウントだけに投稿(ポスト、コメント、ライブ配信)や情報のシェアを認めること。
  • 情報通信省と公安省の要請に応じて、検索とコンテンツのスキャンを行うツールを提供すること。
  • 違反コンテンツを頻繁に投稿する個人アカウント、コミュニティページ、グループ、またはチャンネルを一時的に停止すること。停止措置を3回受けたものを恒久的に閉鎖すること。

外国の組織、企業、個人が一連の規制に適切に従わない場合、ベトナム当局は、コンテンツ、サービス、アプリを完全にブロックするなどの「技術的措置」とともに、法律を強制するための「行政処分」を実施すると脅している。

政令147号には問題のある条項が他にもある。第6条は、ホテル、レストラン、空港、その他の公共空間などにあるオープンなインターネット・アクセスポイントのオーナーに対し、インターネットユーザーに「反国家プロパガンダ」を行わせないようにすることを求めている。政令では、こうした行為を阻止するためにオーナーがすべき措置についても、こうした行為が発生した場合に適用される刑罰についても規定はない。

ベトナムを示す.vnドメイン名を登録する前提条件として、政令の第9条では「国益を損なう一切のフレーズ」および「登録ユーザーが報道機関でない場合に報道機関または報道と誤認されやすいフレーズ」の「排除」を定めるとともに、用いられるフレーズが「社会道徳に則った」であることを求めている。

同政令の第36条は「すべてのアカウントユーザー、コンテンツチャンネルのオーナー、ソーシャルメディアのコミュニティグループの管理者は、アカウント、ページ、チャンネル、グループに報道機関と同一または類似の名称を用いてはならない。また、報道機関と誤解されかねない、または報道機関の業務を行っていると誤解されかねない(ベトナム語または外国語の)用語(例えば、新聞、ラジオ、雑誌、ニュース、情報、放送、テレビ、通信、メディア、通信社)を用いてはならない」と定める。また、コミュニティページ、グループ、チャネルの管理者に対して、情報通信省や公安省、その他の当局からの要請を受け取ってから24時間以内に「違法コンテンツを削除すること」を求めている。

政令147号は多くの点で国際人権基準を満たしていないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。国際基準は、表現の自由を制限する場合には、正当な目的を追求するために必要不可欠であるとともに、個人がそれに応じて自らの行動を統制できるだけの限定が付されていなければならないと定めている。

国際人権基準では、ユーザーデータへのアクセスは独立した機関によって承認されるべきであり、事例毎にその要請が必要かつ妥当であるか、また異議や補償の対象となりうるかが当局によって検討されなければならないと定める。政令147号はサイバーセキュリティ法の執行手段を広範な即時削除命令といった形で強化する。根拠法がすでに国際人権基準を満たしていないため、こうした執行手段の強化が大きな懸念材料である。

ベトナムにはインターネットの使用とアクセスを制限する一連の法令があるが、政令147号はその最も新しいものだ。ベトナムは2018年には非常に問題の多いサイバーセキュリティ法を成立させた。抗議の声が全土に広がると、警察は過剰な実力行使で応じた。2024年、フリーダムハウスはベトナムをインターネットの自由がない国のリストに入れた。

2024年、ベトナム政府の統制下にある裁判所では、政府の行動や政策を批判するインターネット上のプラットフォームへの投稿やライブ配信を行ったとして、少なくとも36人の反体制派に長期刑が宣告された。罪状は「反国家プロパガンダ」罪(刑法117条)か、「自由と民主主義の濫用による国益侵害」罪(同331条)のいずれかだった。

ベトナムは2025年に行われる国連サイバー犯罪条約の署名式典のホスト国に名乗り出ている。この国際条約は多くの問題を抱えており、適切な人権保護措置がないままに、各種犯罪に対する監視と国境を越えた協力を実現するかつてない手段になろうとしている。オンラインでの体制批判に対する弾圧の実績を踏まえるなら、ベトナムはサイバー犯罪条約のホストに適任だとヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「ベトナムは、人権を侵害する政令147号とサイバーセキュリティ法を廃止し、インターネット上で言論の自由を行使したことを理由に投獄されている人びとをすべて釈放すべきだ」と、前出のゴスマン局長代理は述べた。「ベトナムの指導部には、表現の自由を抑制するのではなく、擁護されるべき基本的人権として扱うことが求められているのである」。

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