（バンコク）― ベトナム当局は、著名人権活動家でブロガーのファム・ドアン・チャン氏の有罪判決を破棄し、同氏を即時釈放すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。2021年12月、ハノイの裁判所はファム・ドアン・チャン氏に「反国家宣伝罪」という虚偽の容疑で懲役9年の有罪判決を下した。上訴裁判所では、2022年8月25日に氏の控訴が審理される。
「ファム・ドアン・チャン氏は、不正に抗議し、人権侵害を曝露し、政治囚とその家族を支援したことで、ベトナム政府の弾圧のターゲットとなっている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ・アジア局長代理フィル・ロバートソンは指摘した。「ベトナム当局は、有罪判決を取り消し、氏の釈放を命じることで、このような人権侵害を停止すべきである」。
ファム・ドアン・チャン氏（44）は、ベトナムできわめて活発に活動する人権ブロガーで、受賞歴のある活動家だ。これまでに文化、社会、政治などさまざまな問題について数百にのぼる論評を発表してきた。このほかオンライン書籍の共著者として、『警察国家の政治』、『非暴力抵抗』、『庶民のための政治』、『囚人家族のためのハンドブック』などを刊行している。
2020年10月6日、米国とベトナムの年次人権対話のわずか数時間後、警察はファム・ドアン・チャン氏をホーチミン市内で逮捕し、ハノイに移送した。当局は氏を起訴した後、弁護士へのアクセスを認めないまま、公判が始まるまで1年以上も身柄を拘束した。家族は、逮捕から今まで同氏に面会することができないと話す。同氏に対するでっちあげの裁判と、拘禁中の人権侵害は、ベトナムが1982年に批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)に違反する。
ハノイ人民検察院は、起訴状で、2017年11月～2018年12月にファム・ドアン・チャン氏が発表したテキストが、1999年刑法の第88条に違反すると主張する。政府は、同氏が次の英文テキストを違法に発表したとして起訴している。1）「ベトナムの海洋生物災害に関する簡潔な報告」、2）「ベトナムの人権状況の総合評価」、3）「ベトナムでの宗教および信仰の自由の権利の行使に関連する2016年の宗教信仰法の報告評価」、4）「2016年の宗教信仰法に関する報告書のベトナム語版」だ。
起訴状には「これらの文書には、心理戦を宣伝し、国民に混乱をもたらす虚偽情報を拡散し、ベトナム社会主義共和国の指針や政策を歪曲する情報を宣伝し、（また）人民政権を中傷する内容が含まれている」と書かれている。当局はまた、BBCベトナム語放送の座談会に参加し、ラジオ・フリー・エイジア（RFA）ベトナム語放送のインタビューに応じたことも理由として、ファム・ドアン・チャン氏を起訴している。
ファム・ドアン・チャン氏は、12月の公判で声明を読み上げた。そして「刑期が長ければ長いほど、ベトナム社会主義共和国の権威主義的、非民主的、反民主的な性質がよりはっきりと明らかになる」とした。同氏は、声明全文を英語とベトナム語で公開している。
「ベトナムは、環境災害、人権、信教の自由に関する文書を所持していたとして活動家を起訴するという許しがたい行動に出ている。弾圧の深刻さを明かすものだ」と、前出のロバートソン局長代理は述べた。「国際ドナーや貿易相手国は、ベトナムが反体制派の弾圧を強化していることに目を向け、反体制派の釈放を断固として求めるべきだ」。
ファム・ドアン・チャン氏は、今回逮捕・投獄される前にも、政府の治安部隊によって頻繁に嫌がらせや身体的暴行を受けていた。2009年、警察は根拠のない「国家安全保障」を理由に同氏を9日間拘束した。これまでも治安部隊員は、同氏をたびたび拘束して尋問を行い、また自宅軟禁することで、抗議活動への参加や外交官との面会を妨害してきた。同氏は、2015年4月にハノイで行われた環境問題をめぐる抗議行動が強制解散させられた際、治安部隊から暴行を受け、そのせいで今も足を引きずっている。
ファム・ドアン・チャン氏は、2022年マーティン・エナルス賞や米国務省の国際勇気ある女性賞など、権威ある国際人権賞をいくつも受賞している。2022年11月には、ジャーナリスト保護委員会の国際報道の自由賞が授与される予定だ。
この6月、ファム・ドアン・チャン氏の母親ブイ・ティエン・カンさん（81）は、娘に代わってマーティン・エナルス賞を受け取るため、ベトナムからジュネーブに渡航した。帰国すると、当局からハノイ・ノイバイ空港で拘束され、4時間を超える尋問を受けた。
「ファム・ドアン・チャン氏の事件は、政府を批判する勇敢な人びとを当局がいかに恐れているかを明らかにしている」と、前出のロバートソン局長代理は述べた。「ベトナム政府は、活動家を投獄するのではなく、その意見に耳を傾けることに着手すべきだ。」
