(ニューヨーク、2022年1月27日)北京2022冬季オリンピックは、中国政府による残虐行為など、深刻な人権侵害がやまない中で開催されることになると、世界各地計243のNGO団体が本日声明を発表。これらの団体は各国政府に対し、2022年2月4日より開催予定の同大会への外交的ボイコットを呼びかけ、またアスリート・スポンサーに対し、中国政府による人権侵害を正当化するような行動を起こさないよう求めた。
「開催国政府が国際法違反の深刻な犯罪を行うなか、国際オリンピック委員会(IOC)が主張するように、五輪大会が「善の力」になることなどありえない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国ディレクター、ソフィー・リチャードソン氏は述べた。
習近平国家主席のもと、中国当局は、ウイグル人、チベット人を含む、少数民族や、あらゆる独立した信仰集団の信者に対して、大規模な人権侵害を行っている。また、人権活動家、フェミニスト、弁護士、ジャーナリストなどを迫害し、独立した市民社会を排除してきた。政府は、かつて活気ある香港の市民社会を破壊し、テクノロジーを駆使した監視を拡充するとともに、表現、結社、平和的集会の権利を大幅に制限し、その他にも、国際法違反の強制労働の使用を容認している。
また、中国当局は、国境を越えた巧妙な弾圧作戦を展開し、中国国外に移住したコミュニティのメンバーや、公人、企業にも、恐怖を通じ、圧力を与え続けている。
「北京で冬季五輪が開催されることで、習近平政権は正常なのだというシグナルが世界に送られてしまう」と、中国人権擁護者ネットワーク(CHRD)の任磊(Renee Xia)代表は指摘した。「劣悪な人権状況がそのように正当化され、世界が目を背けることにより、被害者が不正義に立ち向かうことはさらに難しくなる」。
2015年、中国が2022年冬季五輪の開催国に選ばれて以来、中国当局による数々の深刻な人権侵害がNGOやメディアによって明らかにされてきた:
- 新疆ウイグル自治区において、ウイグル人をはじめとするチュルク系ムスリム人への、数百万人規模での超法規的拘束、拷問、及び強制労働の強要。
- 香港において、独立したメディア、民主的制度、及び法の支配の壊滅。
- ハイテクな監視システムな駆使し、トラッキングなどを通じた不当な起訴。WeChatなどのアプリでの批判的投稿の共有なども規制の対象になるうる。
- 表現の自由、平和的集会、及び社会的弱者のための結社の権利を行使した人々の起訴。弁護士の許志永氏、丁家喜氏、市民記者の張展氏、チベット人僧侶・作家の果・喜饒嘉措(Go Sherab Gyatso)氏、公衆衛生活動家のグループ「長沙富能」などが含まれる。
- 人権活動家への超法規的拘束、拷問、及び強制失踪。高智晟氏や郭飛雄氏などが含まれる。
「オリンピックという見世物をやったところで、ジェノサイドを隠蔽することはできない」と、ウイグル人権プロジェクトのオマル・カナット代表は述べた。「今年の北京大会で、国際親善や「オリンピックの価値」を祝うことができると考える人がいるとは、理解しがたい」。
国際オリンピック委員会(IOC)は、2017年に発表された人権義務条項は、2022年の冬季大会には適用されないとする。IOCは、中国での人権侵害に十分な証拠があるにもかかわらず、国連のビジネスと人権に関する指導原則に定められた人権デューデリジェンスの責任を果たしていないと、各団体は指摘した。
その他の点で、IOCは、自らが表明してきた人権公約がほとんど意味がないことを、行動で示してきた。トーマス・バッハIOC会長は、中国政府のプロパガンダキャンペーンに加担し、オリンピックに3回出場した経験のある、彭帥氏による性暴行被害の訴えを糊塗した。また、IOCは、ウイグル強制労働廃止連合(EUFL)との会談にも応じておらず、強制労働の疑いがある企業が製造したユニフォームを着用している。
「スポーツと政治を混同しないというのがIOCの主張だが、2008年の北京夏季五輪大会を自国の政治的利害に利用したのは中国政府だ」と、インターナショナル・キャンペーン・フォー・チベットのブチュン・ツェリン(Bhuchung K. Tsering)代表代行は述べた。「チベットのチベット人たちは危険を顧みずこのことを世界に伝えたが、IOCは耳すら貸さなかった。今度の北京五輪大会は、IOCと各国政府にとって、参加選手をエンパワーし、中国当局に国際規範を守るよう強く求めるまたとない機会である」。
大会のトップスポンサーであるインテル、オメガ、パナソニック、サムスン、P&G、トヨタ、VISA、Airbnb、Atos、ブリヂストン、コカ・コーラ、アリアンツ、アリババ、各社もまた、人権デューデリジェンスの責任を果たしていないままだ。これらの企業は、自社がスポンサーを務めることが人権侵害を引き起こしたり、助長したりしているのではないかという懸念、及びにそうした人権侵害行為を軽減する行動をとっているかについて、有意義な公的な回答をしていない。スポンサー企業は直ちに自社の人権デューデリジェンス戦略を開示するか、またはそうした評価を怠っている理由を説明すべきである、と各団体は述べた。
オーストラリア、カナダ、日本、リトアニア、英国、米国など複数の政府は、中国政府による人権侵害を受け、大会の外交的ボイコットを表明した。これらの国は、五輪大会の長年の伝統である開閉会式の高官派遣を実施しない。外交的ボイコットへの参加いかんにかかわらず、すべての政府は、この機会に、大会に参加するアスリートを支援するだけでなく、中国全土で人権活動を行う人々への具体的な支援を示すべきである。
「私たちは各国政府に対し、改革を訴えたり、他人の人権を擁護したり、中国の市民社会をどう強化すればよいかをただ話し合っただけで、いまも大きな代償を払わされ、投獄あるいは拘束されている人権活動家への支援表明を行うよう強く求めている」と、中国人権(Human Rights in China)の譚競嫦(Sharon Hom)常務理事は述べた。
北京五輪に参加する人びとは、人権上のリスクを多く直面していると、各団体は指摘した。IOCの規定によれば、アスリートがオリンピックの表彰台で中国の人権に関する意見を公に表明することは禁じられており、中国当局による政府批判者への報復は、世界中のアスリートの背筋を凍り付かせている。中国政府は、スウェーデン国籍の書店経営者、桂民海氏の例のように、平和的な批判を行った外国人を超法規的に拘束することを厭わず、言論の自由をいっそう制限している。オリンピック選手やコーチ、サポートスタッフらも、とくにデジタル通信のモニタリングを通じた、国家による広範な監視の対象となる可能性がある。
「オリンピックの理想を掲げるアスリートたちが、五輪への参加するために、あらゆる場面で監視され、言論や信条の自由の抑圧を受け、不安定な人権環境に直面しなければならないようなことは、許されるべきではない」と、対華援助協会(China Aid)の傅希秋(Bob Fu)代表は述べた。
今回の冬季五輪大会を観戦する世界の人びとは、中国国内の人権状況について学ぶことで、積極的な役割を果たすことができる。また、強制労働を伴わない製品を購入することから、最悪級の国際犯罪を行った中国政府高官の責任を追及するよう自国政府に働きかけることまで、さまざまな行動をとることもできる。また、EUFLによる行動要請に署名するよう企業に働きかけることもできる。
「中国政府がむごたらしい犯罪を行い、誰も処罰されない状況が続くという過酷な現状を踏まえ、IOCやスポンサー企業、そして五輪大会にかかわる人びとは、今大会が重大な人権侵害を正当化し、長引かせているのではないかと考えるべきだ。このような五輪大会が二度と開かれてはならない」と、世界ウイグル会議のドルクン・エイサ会長は述べた。