(バンコク)ミャンマー軍事政権は、治安部隊に対し、おおむね非暴力的なデモ隊への過剰かつ致死的な武力行使の停止を命令すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。国連の発表によれば、2021年3月3日に治安部隊はデモの鎮圧で実弾を使用し、全国で少なくとも38人が死亡し、100人以上が負傷した。
最も悲惨な事件はミャンマー最大の都市ヤンゴンで起きた。治安部隊は大多数が暴力に訴えていないデモ隊に発砲したのだ。治安部隊は、負傷した男性を救出しようとした複数のデモ参加者に発砲した。同日、この事件に先立ち、警察が複数の医療従事者を拘束し、残忍に殴打を加えていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、拘束された男性が背後から撃たれたとおぼしき事案を検討した。
「ミャンマーの治安部隊は、故意の暴力と残虐行為によって、反クーデター運動の決意に揺さぶりをかけているようだ」と、「ヒューマン・ライツ・ウォッチの危機・紛争調査員リチャード・ウィアーは述べた。「負傷したデモ参加者を救助していた別の参加者への致死的殺傷力の行使は、治安部隊が自分たちの行動の責任を問われることをどれだけ恐れていないかを示している」。
3月3日のブリーフィングで、国連ミャンマー問題担当特使のクリスティーン・シュラナー・バーゲナーが行った報告によれば、同日の暴力行為で38人が殺害されており、抗議活動が始まってからこの1ヶ月の死者数は50人を超えた。非政府組織(NGO)セーブ・ザ・チルドレンによると、死者のうち少なくとも4人は未成年者だった。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、12本の映像と15枚の画像を分析し、3月3日にヤンゴンのトゥダンマ通りで治安部隊がデモ隊に実弾射撃を行ったと見られる3件の事例を明らかにした。
3月3日にFacebookに投稿されたライブ映像のうち1本で、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、トゥダンマ通り沿いのオッカラーティリ公園近くの空港通りに合流する陸橋に、少なくとも5両の軍用車両が並んでいることを確認した。この映像には、デモ隊数百人が陸橋方向からの銃撃から身を守りつつ避難している模様が映っている。
この映像の冒頭5分間には、セミオートマチック銃とフルオートマチック銃の射撃音と一致する銃声が頻繁に聞こえる。1分35秒付近には、デモ隊数人が自分の身を守りながら、即席のバリケードめがけて走り出し、自分たちが標的になりながらも、負傷または死亡したデモ参加者1人を移動させようとしている様子が撮影されている。その後、デモ隊の1人が殺害された現場付近で、貫通したと思われる穴が複数空いたオレンジ色のゴミ箱が映っている。貫通孔の存在と、デモ隊が弾よけを向けている方角から、発砲は陸橋に停車した軍用車両の方角から行われていることがわかる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチが分析した映像や画像には、治安部隊の姿はなかった。映像を見る限り、銃で狙われているデモ参加者に暴力行為をはたらいている様子はない。2分5秒時点の映像には、道路の中央に向け、なんらかの物をパチンコで発射している男性1人の姿が映っている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、トゥダンマ通りでこの現場から約2キロ南で撮影された映像を分析した。即席のバリケードが燃えるところが映っているものだ。水で火を消そうとしているデモ隊の姿がある。フェイスブックの別のライブ動画には、動かなくなっている男性をバリケードの方角から遠ざけようと運ぶ3人の様子が映っている。銃声はそれに先立つ数分の間にはっきり聞こえている。
これとは別の事件で、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スーダンマ通りで治安部隊に拘束されている男性が銃撃された現場を特定した。アパートの窓から撮影された映像は、少なくとも15人の治安部隊の一団がトゥダンマ通りに集まる様子とともに、少なくとも10人の治安部隊要員が白いシャツの男性をそちらの方向に向かって連行しているところをとらえている。
この10人の集団は、もう一つの15人の集団の前に男を移動させると、1メートルもない至近距離から1人の隊員がこの男性の背中の高さまで武器を下げた。1発の銃声が響くと、男性は一瞬にして地面に倒れた。隊員2人が男性を蹴るが、反応はない。するとこの2人は男性を道路の中心まで引きずっていった。
オンラインで公開された監視カメラの映像は、警察官がモンミャットセイクター財団(MMSH)の救急車から作業員3人を降ろした後、銃や警棒でこの3人に殴る蹴るを行っている様子をとらえている。蹴ったりしている姿が見られる。この攻撃には警官少なくとも6人が関与していた。この攻撃を受けたMMSHボランティアのうち1人はこのときの負傷が原因で死亡したと、NGOの政治囚支援協会(AAPP)が報じた。
AAPPは、MMSHメンバーはヤンゴン市北オカラッパでデモ隊の負傷者に医療支援を提供していることを確認した。その後、銃弾で車体に穴が空き、窓が割れた救急車の画像と動画がソーシャルメディアでシェアされた。一連の画像や動画の内容は、監視カメラの設置場所と一致している。
ヤンゴンでの襲撃に加え、メディアや地元アナリストによると、同じ日に治安部隊が市民を殺害した事件があったのは、サガイン管区ではモンユワ、マンダレー管区ではミンジャンとマンダレー、マグウェー管区ではサリン、モン州ではモーラミャインだ。
3月3日の一連の殺害は、国連によれば18人が治安部隊に殺害された2月28日の激しい暴力に続くものだった。目撃者はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、3月1日と2日のヤンゴンで治安部隊がどのような暴力行使に及んだかを説明した。具体的には、警告なしでのデモ隊や即席バリケードへの襲撃、サウンドグラネードやスタングラネード(激しい音や強烈な光を発する非致死性手榴弾)、催涙ガスの使用、恣意的拘禁などである。
2月1日のクーデター以来、何百万もの人びとがミャンマー全土で街頭に立ち、おおむね非暴力のデモに参加し、国軍に権力を放棄するよう求めてきた。これに対して治安部隊はデモ隊を殴打し、催涙ガス、放水車、ゴム弾や実弾を使ってデモを解散させようとしてきた。武力行使に伴い、恣意的逮捕・拘禁が広がっている。
AAPPによると、当局は2月1日以降、政府関係者、活動家、ジャーナリスト、公務員など1,100人以上の身柄を拘束した。3月3日にはヤンゴンのチャイカサン競馬場で拘束されたデモ隊約400人を含め、全国で800人もの人びとが拘束されたという。
国連の「法執行官による力および火器の使用に関する基本原則」によれば、法執行官は「力および火器の使用に訴える前に、非暴力的な手段を用いるべきである」と規定している。規約人権委員会は2020年の平和的な集会の権利に関する一般的意見37(CCPR/C/GC/37)で「火器は集会取り締まりの適切な手段ではなく、集会を解散させることのみを目的に使用されることがあってはならない[略]。集会が行われている状況での法執行官による火器の使用は、死または重傷の差し迫った脅威に対処する厳格な必要性が存在する状況下で、標的とされた個人に限定されなければならない」と定めている。
国連安全保障理事会は3月5日にミャンマーに関する非公開協議を開催する予定だ。
「ミャンマーの状況は劇的に悪化している。国連安全保障理事会はこの事態を、この急増する人権侵害に終止符を打つための協調行動を求める明確な呼び掛けとして受け止めるべきだ」と前出のウィアー調査員は述べた。「懸念と怒りだけでは十分ではない。必要なのは、対象限定型制裁や世界的な武器禁輸を用いるなどして、軍政の責任を追及することなのである」と述べた。