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カルロス・ゴーン氏の逮捕劇。その結果、長きに渡り世界に見過ごされてきた日本の「人質」司法に注目が集まっている。 日本の人質司法の下では、自白をさせるため、被疑者が過酷な条件のもとで長期間勾留される。例えばゴーン氏(ルノー会長、日産・三菱自動車 会長・社長は解任)は、11月19日に金融商品取引法違反容疑で逮捕され、21日間勾留された。そして、この勾留期限を超えてもさらに勾留を続けるべく、氏は他の容疑でも再逮捕された。

これまでゴーン氏には保釈の機会もなく、取り調べに弁護士の同席もなく、逮捕以来家族との面会も許されていない。

多くの日本人は蕎麦やみかん、温かいコタツと緑茶で新年を迎えた。しかし日本の他の容疑者と同様にゴーン氏も、入浴や運動の機会も限られ、小さく冷たい畳床の房で新年を迎えた。

ゴーン氏はほかの日本の容疑者と比べて特別待遇を受けていないし、受けるべきでもない。しかし、日本が世界で特に進んだ民主主義国としての評判を守りたいのであれば、刑事司法制度を近代化する必要がある。氏に対する容疑は重大で日産時代のやり方には批判も多いが、いかなる人であっても捜査中にこのような人権侵害を受けるべきではない。

人権を尊重する民主主義国家では多くの場合、非暴力犯罪の容疑者は保釈される権利を有するが、日本の容疑者は起訴前の勾留中に保釈を請求することさえ許されない。勾留中になんども取り調べを受けることがあるが、弁護士は立ち会えない。

新たな容疑を付け加えて起訴前勾留を長期化させる戦略は、日本では常套手段だ。刑事訴訟法上、保釈の可能性なしに容疑者を最長23日間起訴前勾留できるが、再逮捕を繰り返せば、これを何度でも繰り返せる。

再逮捕の容疑が、新しいものである必要もない。日本の警察・検察は、再逮捕のため犯罪を分割することも少なくない。まったく不条理であるが日本では、死体が発見されると容疑者はまず「死体遺棄」容疑で逮捕され、その後最長23日後に、殺人で再逮捕されるのが日常茶飯事だ。ゴーン氏もこれまで二度再逮捕されており、現在の勾留期限1月11日を迎えれば、三度目の再逮捕の可能性もある。

新たな追起訴も終わりようやく保釈請求できる段階になっても、自白していない被告人は、裁判官の保釈許可を得るのがより困難だ。数週間あるいは数ヶ月間にもわたり拘禁され「人質」にされると、身に覚えのない罪でも、自由を得るためには認めるしかないと思えてしまうことがある。その結果、日本の刑事司法には、強要自白が蔓延していた。

日本の裁判官が捜査官の逮捕状請求を認めないことは滅多になく、その割合は2パーセント未満である。著名な平和運動家の山城博治氏は、沖縄の米軍基地前で抗議運動で2016年に逮捕されてから保釈されるまで、約5ヶ月に渡り勾留された。ミュージシャンのSun-Dyu氏は、店頭から1万円(約90米ドル)を盗んだ疑いで約10ヶ月間勾留され、厚労省高官だった村木厚子氏は郵便法等違反の疑いで約4ヶ月間勾留された。この2名はのちに、無罪判決を受けた。

驚くべきことだが、日本の刑事訴訟法では、容疑者の取調べに弁護人は立ち会えない。こんな対応は独裁政権下のことかと思うだろうが、日本のことだ。日本に対しても法的拘束力がある国際人権法は「自ら選任する弁護人と連絡する」権利を容疑者に保障しており、この権利は直ちに制限なく弁護人にアクセスできる意味と解されている。

国連の「あらゆる形態の抑留又は拘禁の下にあるすべての者の保護のための諸原則」では次のように述べられている。すなわち、「拘禁された者又は受刑者が、遅滞なく、また検閲されることなく完全に秘密を保障されて、自己の弁護人の訪問を受け、弁護人と相談又は通信する権利は、停止されたり制限されたりしてはならない。但し…裁判官等により安全と秩序を維持するために必要不可欠であると判断された例外的な場合を除く」。ゴーン事件は注目を集めてはいるが、取り調べに弁護士を同席させても、日本の安全や公の秩序を脅かさないのは言うまでもない。

日本弁護士連合会など、日本の弁護士や人権団体は、人権を侵害しない法律に近代化させることを長年求めてきた。それでも日本政府はこの時代遅れの制度を奇妙にも擁護し続けている。人権人道担当大使の上田秀明氏は2013年、日本の刑事司法制度における自白依存を国連で「中世」のようだと指摘され、「黙れ(Shut up)」と返答した。

日本の容疑者はすべて、無罪の推定、迅速で公正な保釈審理、そして取り調べ中も含め弁護人を付ける基本的権利を保障されるべきだ。カルロス・ゴーン氏が有罪か否かは将来証拠によって決されるべきものだが、氏の事件はすでに、日本の人質司法制度に終止符を打つべき時が既に来ていることを示している。

 ブラッド・アダムズは、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長

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