日本政府は、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の人権を改善する国際的な流れに加わり、国内の政策を変更し、国際的な取り組みを支持してきました。しかし日本の法律上の性別認定手続、つまりトランスジェンダーが自らのジェンダー・アイデンティティ(性自認)に戸籍を変更する手続を定める法律の内容は、日本のこれまでの前進に対する汚点となっています。
日本では、法律上の性別変更を求めるトランスジェンダーの人びとは、2003年に成立した「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(いわゆる「性同一性障害特例法」)に基づき、家庭裁判所に申立てをする必要があります。10年以上前にこの法律が成立したときには、日本の性的マイノリティにとって画期的な出来事でした。しかしこの手続には、基本的人権の侵害・差別にあたる要件が定められています。その要件とは、戸籍を変更するには、20歳以上で結婚しておらず、子どもがいないこと、さらに「性同一性障害」(GID)であるとの精神医学的な診断を受け、不妊手術を受ける必要があるのです。
性同一性障害特例法が、法的な性別変更(戸籍変更)の要件の一つとして「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」を明示的に義務づけていることは、強制不妊に該当します。強制不妊が人権侵害であることは論を待たず、世界保健機関(WHO)など、健康と人権を扱う様々な国際機関が強制不妊を広く批判しています。拷問に関する国連特別報告者は2013年、トランスジェンダーの人びとに「自らが望む性別への変更の要件として、望まないことが多い不妊手術を受けることを義務づける」ことは人権侵害だとし、各国政府に対し、「あらゆる場合において強制又は強要された不妊手術を違法とするとともに、周縁化された集団に属する個人を特別に保護すること」を求めています。
日本では2016年、超党派の国会議員連盟が、性同一性障害特例法の要件緩和に向けて議論を始めることとしたものの、しっかりした法改正議論には至りませんでした。他方で昨年、厚生労働省は、健康に関する国連特別報告者と拷問に関する国連特別報告者が送付した、性同一性障害特例法に関する書簡に対し、日本がLGBTの権利擁護を進展させていることを誇りに思うと回答しました。しかし政府は現行の医学モデルと現行制度を擁護し、ある人が実際にトランスジェンダーかどうか、すなわち法的認定に値するかどうかを判断する際に「客観性と確実性」が必要だという主張を繰り返しました。
戸籍変更の条件として、人びとに望まない手術を強制することは、日本政府が負う人権上の義務にも、LGBTの権利を擁護する国という政府の欲する名誉にも反するものです。11月25日から始まった今年の「ジェンダーに基づく暴力と闘う16日間行動(16 Days of Activism)」の際、日本はあらゆる人を不妊手術の強制からまもる義務があることをぜひとも想起すべきです。