政府は10年に1回の学習指導要領改訂にあたり、性的マイノリティを初めて扱う機会を逸しました。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)を扱うことについて、今年3月には、この話題は「保護者や国民の理解」がないので「難しい」としていたところでした 。
2011年から13年にかけて、国内の6自治体において保育園から高校までの教員約6,000人を対象に行った調査によれば、回答者の63~73%は、LGBTの問題を授業で教える必要があると考えています。
「国民の理解」はさておいても、子どもたちには正確な情報に基づくインクルーシブな教育を受ける権利があります。性教育の分野ではとくに重要です。国連児童基金(UNICEF)、世界保健機関(WHO)、国連教育科学文化機関(UNESCO)などの主な国連機関は、LGBTインクルーシブなアプローチを教育に採用するよう勧告しています。日本の性教育カリキュラムはこれまで残念ながらこうした基準を満たさなかったのですが、今後もその状況が続くことになってしまいました。
実際、体育科目の中で、小学校の学習指導要領は各学校の中で子どもたちに「思春期になると(…)異性への関心が芽生える」と理解するよう指導すると定め、中学校の指導要領にも、同様に「身体の機能の成熟とともに(…)異性への関心が高まったりする」と書かれています。
昨年、私たちヒューマン・ライツ・ウォッチは全国のLGBTの生徒や教職員数十人から話を聞きました。皆さんほとんど口を揃えてこうおっしゃっていました。日本の若者たちは性的指向と性自認について、固定観念に基づくメディア報道やLGBTへの中傷を通じてではなく、学校で事実を学びたがっています、と。
岡山に住む14歳の中学生は「(学校のカリキュラムの中でLGBTのことを教えることはLGBTの生徒にとって)すごくいいことだと思います」と話していました。また東京都内の公立校のスクールカウンセラーからは「教員養成のカリキュラムに何も入っていないから、理解しようにもその土台すらないんですよね」との指摘がありました。
文部科学省はすでに対応に動いています。2016年4月には「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」周知資料を公表し、「人権教育等の一環として、性自認や性的指向について取り上げることも考えられます」と述べ、インクルーシブな教育への前向きな動きを見せています。翌5月には、教育分野でのLGBTいじめに関する国連教育科学文化機関(UNESCO)国際閣僚級会合(IMM)の共同チェアをアメリカ、オランダとともに務めました。また2017年3月には、いじめの防止等のための基本的な方針の改訂にあたり、性的マイノリティの生徒への配慮を初めて盛り込みました。
こうした動きは、同性への性的関心や性自認の発達が人間の自然なあり方のうちであることを確認する動きです。しかし日本の子どもたちが学校でこうしたことを耳にすることとなる日は、残念ながら近くはありません。