昨年、私たちヒューマン・ライツ・ウォッチは全国各地でレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の若者・子どもからその経験の聞き取りを行いました。悲しい内容がたくさんでした。嫌がらせや暴力が日常化し、いじめられた子の中には不登校を余儀なくされる子どもたちもいました。私たちが2016年に発表した調査報告書『出る杭は打たれる』は、こうした声を挙げることの難しいマイノリティの苦しい現状とともに、善意から行動する先生たちすらもLGBT生徒へのいじめに対処する準備が整っていない実情を明らかにしました。
しかしこうした状況は変わるかもしれません。
というのは、文部科学省は国のいじめ防止等のための基本的な方針の改訂案に、LGBTの子どもたちを特に対象とした項目を加えたからです。
「いじめ防止等のための基本方針」改訂案(平成29年2月7日)に、「性同一性障害や性的指向・性自認について、教職員への正しい理解の促進や、学校として必要な対応について周知する」と明記されたのです。この改定案は3月中には決定される予定で、ヒューマン・ライツ・ウォッチもパブリックコメントを提出しています。
文部科学省は性的マイノリティの生徒の教育に関わる人権分野で日本の最前線に立ってきました。2015年には全国の教育委員会等に向けて「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」(平成 27 年 4 月 30 日児童生徒課長通知)を示し、トランスジェンダーの生徒に対する場面ごとの支援例を複数示すとともに「性的指向」に言及しています。2016年発行の手引き「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」にはLGBTの権利に関する進んだ見解が示されているとともに、LGBTの生徒を守るための対応が勧告されています。
いじめの防止等のための基本方針の改訂にあたり「性的指向と性自認」を特定・明記したことは、日本政府に国際人権基準上の義務に則った政策遂行の機会をもたらすとともに、アジアと世界でこの分野をリードするとの評価を与えることになるでしょう。
日本は国連人権理事会において、性的指向と性自認を理由とする暴力や差別に反対する最近の2つの決議に賛成しており、2016年の国連教育科学文化機関(UNESCO)国際閣僚級会合(IMM)―性的指向及び性自認/性表明に起因する暴力への教育分野における対応―の共同チェアを務めました。
日本の学校現場ではLGBTを差別する憎悪に満ちた表現がほぼ至るところに存在しており、LGBT生徒は押し黙り、自らを呪い、ときには自傷行為にすら及んでいます。いじめ防止基本指針にLGBT生徒に固有のニーズと傷つきやすさが明記されれば、教職員は適切な研修を受講し、リソースを利用し、情報に接することになり、子どもたちの人生を変えることになるなずです。