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ヒューマン・ライツ・ウォッチ (以下HRW)は、日本など90ヶ国以上の人権状況を調査し政策提言を行なう独立した非政府組織です。2016年5月には日本の学校のレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー (LGBT)生徒の教育へのアクセスに関する報告書を発表しました[i]

文部科学省は2016年4月の教職員向け手引で「他者の痛みや感情を共感的に受容できる想像力等を育む人権教育等の一環として、性自認や性的指向について取り上げることも考えられます」と助言するなど、インクルーシブ教育への前向きな動きを示しています[ii]。一方、HRWが日本各地で子どもと教員、学校管理職に対して行った調査からは、すべての子どもにとって学校をインクルーシブで安全にするためには、対応を助言するにとどまらず、義務的対応を示すことも必要であることがわかります。

HRWは学習指導要領について、LGBTの子どもの学校での排除やステレオタイプの固定化につながる内容をなくすよう改定することを求めます。例えば小中学校の保健体育は、子どもは発達するにつれて異性に興味を示すようになるのが自然だとしています。これを見直し、同性に興味を持つことも人の自然なあり方の1つと明記してください。

残念ながら日本の性教育の方針と実践は、特に性的指向と性自認に関する情報の提供という点ついて、教育の権利に関する国連特別報告者、国連の人権条約実施機関、国連児童基金(UNICEF)が推奨するアプローチを満たしているとは言えません。日本の性教育カリキュラムを論じたある学術論文は「若者が[略]同性愛を含めたセクシュアリティについて包括的に理解をしていることは滅多にない」と指摘しているところです[iii]。また日本の教科書には「性自認と性別役割について慣習的でステレオタイプに基づく描き方をする根強い傾向が」見られることを指摘する研究もあります[iv]。日高庸晴・宝塚大学教授が2011年~2013年にかけて日本の6自治体で保育園から高校の教員約6,000人を対象に調査を行ったところ、63~73%の教員がLGBTの問題を授業で教える必要があると回答しましたが、実際にLGBTを授業で扱ったことのある教員は14%を下回っていました[v]。また子どもたちはHRWに対し、LGBTインクルーシブ型のカリキュラムでないため、LGBTに関し教員から受け取った情報は、科学や人権ではなく教員の個人的見解に完全に依拠していて、不正確で時に偏狭だったと述べています。

包括的でインクルーシブな性教育プログラムを開発することは、子ども及び女性の権利の保障のために政府が負う義務の一部と言えます。国連・子どもの権利委員会は各国に対し、青少年に対するリプロダクティブ・ヘルスケア(生殖に関する健康管理)について教育施策を向上させるよう頻繁に勧告しているところです[vi]。女性差別撤廃委員会も、特にHIV感染拡大の防止の側面から、包括的な性教育の重要性を指摘してきたところです[vii]。教育の権利に関する国連特別報告者は、異性愛関係のみに基づく性教育プログラムに警告を発し、「レズビアン、ゲイ、トランスセクシュアル、トランスジェンダー、バイセクシュアルの人びとの存在を否定することによって、これらの集団が危険で差別的な対応にさらされる」と述べています[viii]。カリキュラムには、国連教育科学文化機関(UNESCO)[ix]及び国連人口基金(UNFPA)のガイドライン[x]に基づき、性的指向とジェンダー・アイデンティティに関する情報を含むよう要請します。


[i] ヒューマン・ライツ・ウォッチ『「出る杭は打たれる」:日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除』、2016年5月、https://www.hrw.org/ja/report/2016/05/06/289497

[ii] 文部科学省「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」平成28年4月1日、http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/04/1369211.htm(2016年4月8日閲覧)。

[iii] Huiyan Fu, “The Bumpy Road to Socialise Nature: Sex Education in Japan,” Culture, Health & Sexuality: An International Journal for Research, Intervention and Care, vol. 13, no, 8 (June 2011): 903-915, doi: 10.1080/13691058.2011.587894 (2016年3月1日閲覧).

[iv] Peter Cave, Primary School in Japan: Self, Individuality and Learning in Elementary Education (New York: Routledge, 2007).

[v]日高庸晴ほか「教員5,979人のLGBT意識調査レポート」、平成26年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究事業 個別施策層のインターネットによるモニタリング調査と教育・検査・臨床現場における予防・支援に関する研究、2014年7月、http://www.health-issue.jp/teachers_lgbt_survey.pdf(2016年2月13日閲覧)。

[vi] UN Committee on the Rights of the Child, “Concluding Observations: Albania,” CRC/C/15/Add.249 (2005), para. 57; UN Committee on the Rights of the Child, “Concluding Observations: Algeria,” CRC/C/15/Add.269 (2005), paras. 58, 59.

[vii] UN CEDAW Committee, General Recommendation 15, Avoidance of discrimination against women in national strategies for the prevention and control of acquired immunodeficiency syndrome (AIDS), A/45/38 (1990).

[viii] Report of the Special Rapporteur on the right to education, Kishore Singh, A/65/162, July 23, 2010,http://daccess-ddsny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N10/462/13/PDF/N1046213.pdf?OpenElement (2016年3月1日閲覧).

[ix] UNESCO, “International Technical Guidance on Sexuality Education.” December 2009,http://unesdoc.unesco.org/images/0018/001832/183281e.pdf

[x] UNFPA. “UNFPA Operational Guidance for Comprehensive Sexuality Education.” 2014,http://www.unfpa.org/sites/default/files/pub-pdf/UNFPA_OperationalGuidance_WEB3.pdf

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